堕天使のちょこっとした冒険   作:コトリュウ
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検証その1 「異世界では太るのか?」

対象堕天使 「太ってません!」

第三者機関 「絶対太りました。見た目からも明らかです」

口だけの賢者発明 体重秤 「断固拒否!」

……真実は如何に?



帝都-4

 高級宿のベッドはとても危険だ。

 一度寝ると――起き上がる事が出来なくなるのだ。

 様々な耐性を持っているカンスト堕天使でも抵抗(レジスト)できない。なんという強力な効果なのか?!

 まるで世界級(ワールド)アイテムで縛られているかのようである。

 

「パナさん! いい加減に起きて下さい! 毎日毎日ぐうたらしているのは健康に良くありませんよ!」

 

「そうそう、パナちゃんってばちょっと太ったんじゃないの?」

 

「むむむ……、だってぇ~仕方ないでしょ~。外へ出なくても美味しい料理を運んでくれるし、レイナースさんは色々差し入れしてくれるしぃ、もう何処にも行かなくてイイんじゃないかな?」

 

 高級宿の一室に於いて、堕天使は見事にだらけていた。

 ベッドから離れるのは、部屋を掃除しに来た清掃員が申し訳なさそうな笑顔を見せる時ぐらいであり、はっきり言って引き籠りである。首から下げるべきプレートも(カッパー)のまま部屋の隅へ追いやられており、移籍登録もしていないのだからどうしようもない。

 レイナースと出会って高級宿を提供された頃は、手元の金貨四十枚の威力もあって帝都の彼方此方へと突撃していたものだったが……。

 アンとマイ、そして自分の衣服を買い込み、次の日は食べ歩き三昧。

 プレイヤーへの警戒心などは頭から消え去り、市場で『冷蔵庫もどき』を見つけては「何これ~!!」と奇声を発するなど自由気ままに暮らしていた。

 ところが闘技場で全財産をスってからは宿でダラダラするようになってしまう。

 しばらくは「あのエルヤーって奴、いつかぶっ殺してやる」と逆恨みのような世迷言をほざいていたが、六倍の掛け率に目が眩んだ己の責任である。

 

「あのですねパナさん、手元のお金はゼロなんですから働かないといけません。希少過ぎて目立つ赤いポーションはもう売らないと決めたのですから、ちゃんと冒険者活動しましょうよ」

 

「んん~、働きたくないでござる」

 

「ござる……って、このままレイちゃんからお小遣いを貰い続けるの? それってヒモなんじゃない?」

 

 マイの言うように、最近はレイナースから小遣いを貰う日々だ。高額の宿代も払って貰っている事からすると、養われているヒモであるのは疑うまでもない事実であろう。

 まさしく堕落している駄目野郎だ。

 

「ひ~ど~い~、お金は治療の対価として貰っているのに~」

 

「はいはい、図書館の本を散らかさないで下さい。借りものなんですから……」

 

 レイナースが差し入れてくれた物の中には、図書館からの貸絵本も含まれていた。内容は全て英雄譚である。

 六大神、八欲王、十三英雄等々。

 この世界で語られている英雄の生き様、打ち立てた伝説、そして結末。

 パナにとっては転移してきたプレイヤーがどんな行動を選択し、どのように死んでいったのかを知る良い機会であった。

 ちなみに絵本に書き込まれている文面を読んだのはヴァンパイア姉妹ではない。パナ自身だ。もちろん帝国語を勉強したのではない。特殊技術(スキル)の『解読』である。

 完全に忘れていたのだが盗賊(ローグ)を始めとする一部の職業(クラス)には見知らぬ文字を読み解ける『解読』があったのだ。

 レイナースから絵本を差し入れされるまで思い出さなかったのだから、どうしようもない奴である――と言いたいところだが、半年以上ゲームから離れていたパナに、『解読』なんてクエスト以外では使った事も無い特殊技術(スキル)を思い出せとは厳しかろう。

 魔法にしても使用頻度の高い数十個を覚えているのが普通であり、一般的なのだ。

 まぁ中には、七百以上の魔法を完璧に覚えている化け物が居たりもするが、あれはユグドラシルでも稀有な存在に違いない。一般人の皮を被っている魔王である、絶対そうだ。

 

「パナちゃ~ん、例の元貴族はレイちゃんが見張りを手配してくれて、何かあれば直ぐ連絡を貰えるけどさ。アタイ達も動くべきなんじゃないの? 正義の味方として」

 

「もう全てレイナースさんへ任せようかと……。正義の味方は廃業かなぁ」

 

「あああー!! もうグダグダ言ってないで行きますよ! はい飲み物置いて、上着羽織って、靴履いて、プレート付けて、さっさと歩く! 文句言わない!」

 

 パナの顔面を思い切り掴んで無理やり立たせるアンは、まるで鬼――最初から吸血鬼(ヴァンパイア)だが――と化したかのようだ。堪忍袋の緒が切れたのは間違いないのであろうが、同時に――凄まじい能力を持っているパナが役立たずのままでいる事を我慢出来なかったのかもしれない。少しでも世の中の役に立てたいと思ったのだろうか?

 ヴァンパイアとしては不似合いな考えではあるが、もしかするとカルマ値が何かしらの影響を及ぼしている可能性もある。少しばかり気になるところだ。

 

「うう、怒られちゃった」

「もぅ、アタイまでとばっちりを喰らいそうだよ」

 

 トボトボと歩くパナの隣で、何故かマイまで小さくなっている。やはり姉と妹との関係は異世界に於いても変わりないようだ。不変の(ことわり)と言うやつなのかもしれない。

 

「それでアンちゃん、何処へ行くの?」

 

「あ、はい。今日はフルト家の長女さんへ会いに行こうかと思います。御両親の考えと、妹さんの立場についてお話をしておくべきかと思いまして」

 

「レイちゃんの話だと、長女は請負人(ワーカー)やってんでしょ? 話の通じる相手かなぁ?」

 

 マイの懸念はもっともであろう。請負人(ワーカー)とは非合法の仕事をこなす、危険極まりない武装集団だ。

 管理されている冒険者であっても荒くれ者が多いというのに、その枠から外れた犯罪者予備軍がどんな輩なのか警戒してしまう。

 とは言いながらも、パナ自身が立派な犯罪者なのは自覚しているのだろうか? 何百人も殺しておいて、人の事を言える立場ではなかろうに。

 

「んじゃまぁ、久しぶりに出掛けるとしようか。っとその前にレイナースさんからお小遣いを貰って――」

「パナさん! 行きますよ!」

 

「ホント、立派なヒモになっちゃって……」

 

 引き摺られていくパナを眺めながら、マイは「正義の味方は無理そうだなぁ」とため息とともに零す。

 どうやら冒険者チーム『堕天』の名が世に知られるのは、遠い先の話になりそうだ。

 

 

 

 

 帝都の請負人(ワーカー)達にとって仕事を見つける事は、任務達成と同じくらい重要な案件である。冒険者と違って依頼の斡旋は無いし、街中を歩いていて運良く仕事と出会う――なんて訳も無い。

 請負人(ワーカー)が行うべきは営業なのだ。

 自分の名を売り腕前を宣伝する。そして問題事を抱えていそうな金持ち相手に、高値で雇う価値があると思わせる。

 もちろん雇い主が騙してくる事も想定しなければならない。

 金払いが悪い、依頼内容が途中で変わる、無償行為を強制される、帝国騎士を敵に回す等々、事前に調べなければならない内容は多岐にわたる。

 警護任務と言われて現場へ行ってみれば、邪教集団の怪しげな儀式だったりするのだ。そのような現場へ足を踏み入れたなら、帝国からどんな扱いを受けるか分からない。請負人(ワーカー)としては致命的な失敗となろう。だったらカッツェ平野でアンデッドを処理している方が何倍もマシだ。腕に自信があるなら闘技場で暴れるのも一興かもしれない。

 

 請負人(ワーカー)チーム『フォーサイト』は、カッツェ平野での討伐でそれなりの稼ぎを手にし、帝都へ戻って一息ついた頃、貴族からの指名依頼を受け取っていた。

 チームリーダーのヘッケランは依頼内容を吟味し、仲間と手分けして情報の裏を取り、最終的に王国内で発見されたという遺跡へ向かう事を決めた訳だが……。

 

「ん? グリンガムか? こんなところで何をやっているんだ?」

 

「いやなに、市場で汝の姿を見たと聞いたのでな。ちょっと会いに来たのだ」

 

 武具関連やマジックアイテムが並ぶ市場の端で、腰に二刀を提げる金髪の若者ヘッケランを呼び止めたのは、一本角の全身鎧(フルプレート)を着込んだ山小人(ドワーフ)のごとき筋肉質の男――グリンガムであった。

 

「汝一人か? 仲間は一緒ではないのか?」

 

「ああ、途中まではもう一人居たが、今は別行動で良さそうな治癒系のマジックアイテムを探している。他の奴等は宿でのんびりしているだろーよ」

 

「ふむ、そうか……」

 

 ヘッケランはグリンガムの妙な行動を理解出来ず警戒してしまう。

 同じ請負人(ワーカー)であるグリンガムが、わざわざ同業者を探して会いに来る理由とは何だ? 加えて仲間の所在を気にするとは一体……。

 

「どうかしたのか? グリンガム。もしかして貴族からの依頼に関する話か?」

 

「いや、そうではない。――ふむ、単刀直入に言うなれば、汝の仲間に関する情報を先程購入した。良かったら買わぬか?」

 

 仲間の情報だと? ヘッケランは思わず呟いてしまったが、即座に頭を回転させる。グリンガムは情報戦を仕掛けて相手を蹴落とすタイプではない。今までの関係から言っても、敵対するより友好関係を築いた方がお互いにとって有益なはずだ。

 ならば仲間の情報と言うのも決して的外れの内容ではないのかもしれない。

 

「――いくらだ?」

 

「警戒は不要。汝を騙すつもりなど無い。我が支払った情報料は銀貨一枚。いくら払うかは汝の判断に任せる」

 

 グリンガムの言い分は、情報売買の常識としては奇妙なものだ。相手に支払金額を決めさせるなんて何を考えているのやら……。

 

「三人組の冒険者が汝の仲間である魔法詠唱者(マジック・キャスター)を探索。三人組は全員女で、内二人は仮面で顔を隠しているとの事。大広場近辺の露店を回り、ブラブラ買い食いしながら聞き込みをしている模様」

 

「なっ?!」

 

 真っ先に思い浮かんだのは借金取りの男だ。宿屋まで顔を出して利子を取り立てようとしていたチンピラ。アルシェの周囲を嗅ぎ回る曲者としては最も適当であろう。

 しかし三人組の女となると全く心当たりがない。更に冒険者が金貸しの依頼を受けるなんて考え難い。そんな役目は自分達請負人(ワーカー)こそが相応しいはずだ。

 

「グリンガム! 釣りは取っといてくれ!」

 

 懐から取り出した一枚のコインを放り、ヘッケランは踵を返す。そして市場の中へ駆け入り、品定めをしていた神官らしき男を促して一目散に走り去ってしまった。

 グリンガムは岩のような己の拳を開き、受け取ったコインの色を眺める。

 

「おーぉ、仲間想いのやっちゃなぁ。こんな情報、直ぐに広まるっちゅーのに……。まぁ、アイツにとっちゃ金貨一枚の価値があるってことなんかな?」

 

 一体どれぐらい払うのか――と、からかい半分だったグリンガムは、好感の持てるヘッケランの対応に思わず地の口調が漏れてしまう。

 農民出の田舎者口調は仲間内でしか使わないはずだったのに、「いかんいかん」と呟くグリンガムには自嘲気味の笑みが浮かんでいた。

 

「ふっ、揉め事なんぞさっさと片付けてくるがよい。遺跡探索の依頼にて、また(まみ)えようぞ」

 

 誰かが見ているという訳でも無いのに、山小人(ドワーフ)のごとき戦士は物語に登場する重要人物であるかのような振る舞いを見せる。そして満足げな表情のまま、仲間のもとへと帰っていくのであった。

 

 

 

 

 帝都の中心たる帝城――の直ぐ側の大広場。

 そこは驚きに満ちていた。

 右を見ても左を見ても多種多様な食材を扱う露店が立ち並び、美味しそうな匂いと威勢の良い掛け声が放たれていたのだ。

 行き交う人の多さにも驚いてしまう。

 引き籠り気味で面倒事の多くをレイナース任せにしていたパナとしては、闘技場以来の雑踏に目を回し気味である。

 

「ふえ~、こんなに人が多いと人探しなんて絶対無理だよ~。もう喉乾いたよぉ。なんか飲もうよ~」

 

「そうですね……っと、あそこにレインフルーツが売っていますね。ちょっと買ってきます」

「あっ、姉ちゃん、アタイも食べたい!」

 

 アンが買いに向かったフルーツは深い緑色のゴツゴツとした外見で、巨大なライチであるかのように見える。ちらりと横目で購入客の様子を眺めると、剥いた皮の中はピンク色の果肉で、瑞々しい果汁がたっぷり含まれているかのようだ。喉を潤すには十分であろう。

 

「はいパナさん、美味しそうですよ」

 

「ありがと~、んぐんぐ……もひゅもひゅ……んん~、おいひい~」

 

「だね~、串肉の後だからサッパリしていてうんまい」

 

 仮面をズラしながら果実へかぶりつくマイは、甘い果肉への賛辞と共に「久しぶりに食べたな~」と過去を懐かしむように呟く。

 どうやらヴァンパイア姉妹は人であった遠い昔、この果実を口にした事があったようだ。

 深い甘みと微かな酸っぱさが、当時の幸せな生活を思い起こさせる。

 

「んで、パナちゃんどんな感じ? まだ釣れないの?」

 

「今のところ、私達をつけてくるような輩はいないけどなぁ。……ん~、やっぱりレイナースさんに頼んだ方が早くなかった?」

 

「あのですね、ヒモさん――」

「ちょっ! 今ヒモって言った?! ヒモって?」

「言ってません。散々無理難題を聞いてもらった挙句、お小遣いをせびり、その上人探しまで頼もうとするヒモのような人ではありますが、……ちゃんとパナさんと呼びましたよ」

「うわああぁあーん! ひどいったらひどい! レイナースさんには対価として治癒魔法をかけているんだからヒモじゃないよ!」

 

「まぁまぁ、パナちゃん落ち着きなよ。大丈夫、毎日ベッドの上でゴロゴロしながら食っちゃ寝していても――うん、ヒモじゃないよね~」

 

「うぎゃー! マイちゃんまでー!」

 

 余程宿の中が退屈だったのだろう。

 最高級ではないものの高級宿としてそれなりの設備を整えていた宿泊場所は、十分に広く、食事も美味しく、そして客への配慮が行き届いていた。

 それでも長期滞在で引き籠っていれば飽きもする。

 ヴァンパイア姉妹としてはもっと色んな所を観光したかったのだ。だからこそ怠惰なヒモ野郎には少しばかりの嫌味も言ってみたくなる――それが心情であろう。

 

「うふふ、冗談ですよパナさん。私はただ、もっと外を歩いてダイエットして欲しいと思っただけです」

 

「ふ、太ってないし! 標準体型だし! 体重は量ってないけど――ん?」

 

「な~に? 自分の体重に驚いたの?」

 

「なんでそうなるの?! もぅ、……お客さんが釣れたって言いたかったの」

 

「あら、凄腕の請負人(ワーカー)チームと聞いていましたけど……、結構遅かったですね。では予定通り、人気の無い路地へ誘導しましょう」

 

 フルト家の長女が所属している『フォーサイト』の情報は、レイナース経由で入手しており、常宿である『歌う林檎亭』の名も聞いていた。しかし、肝心の住所については曖昧にしか頭に入っておらず、辿り着く前に美味しい匂いのする露店へと誘われてしまい――結果迷ってしまったのだ。

 故に向こうから接触してもらおうと考え、のんびり食べ歩きながら聞き込みを敢行していたという訳である。

 パナが探知した人影は四名。『フォーサイト』の構成メンバー数と合致する。となると思惑は当ったという事になり、後は一定の距離を保ちながら付いてくる四人を誘導するだけだ。

 アンは「串肉もう一本だけ~」と口にするパナの手をピシャリと叩くと、人気の無い路地裏へと歩き進むのであった。

 

 

 

 

「動くなっ! 動くんじゃねぇぞ其処の冒険者! 矢と魔法で狙っている! 何か変な動きを見せたら容赦無く仕留める! 分かったら返事をしろ!」

 

 広場からかなり離れた、貧困層が住まうであろうみすぼらしい家屋の近くで若い男の声が響く。かなりの警戒心を持っているようで油断の欠片も見えない。

 女だけの冒険者三人を相手に、ちょっと力を入れ過ぎのようにも見えるが、相手の情報が無いのだから全力を持って当るのは間違っていないのかもしれない。

 ぷにっと何とかの楽々何とか術にも似たような事が書いてありそうだ。

 

「は~い、分かりましたよ~。けどそんなに怒鳴らなくてもイイでしょ? 女の子相手に大人げないなぁ」

 

「……(カッパー)級冒険者とは言え、武装している以上は本気で臨むもんだろ? ってかお前ら何もんだ? どうして『フォーサイト』の魔法詠唱者(マジック・キャスター)を探している?」

 

 幾分口調は柔らかくなったが、それでも殺気は消えていない。何かあったら帝都内であろうと殺すつもりのようだ。

 

「私達は冒険者チーム『堕天』。正義の味方として……ええっとアルシェちゃん、だったかな? その娘に教えてあげようと思ってね」

 

「胡散くせぇ、情報を売りたいなら別のやり方があるだろ? それに正義の味方って、ギャグか?」

 

「ああー! 私が快適ゴロゴロ引き籠り生活を止めてまで来てあげたのにー! そんな事言うと教えてあげないぞ!」

 

「パナさん、話が拗れますから――」

 

「うがぁー!」と叫んでいる田舎娘は放っておいて、アンはさっさと本題へ入る。

 

「其方にフルト家の長女、アルシェ・イーブ・リイル・フルトさんはいらっしゃいますか? 貴方の家族に関する大事な話があります。この場で話しても構いませんが、仲間の方々にも聞かれてしまいますよ。――如何されますか?」

 

「――借金の話ならもう聞いている。冒険者が介入する内容ではないはずだ」

 

 家の事情に仲間を巻き込んでいる現状を嘆いているのか? 何処からともなく聞こえてきた少女の声には、微かな震えと恥辱の感情が滲んでいた。

 

「誤解を解いておきましょう。私達は依頼で動いてはいません。偶然遭遇した邪教集団から入手した、貴方の妹さんに関する情報です。どうするのですか? 聞きますか?」

 

「ちょっとあんた達! 矢で狙われているっていうのに、やけにデカい態度してるじゃない?! 何か情報を持っているなら全部吐きなさいよ!」

 

「其方が宜しいのでしたら……、此方としてもさっさと終わらせて観光の続きをしたいところですし」

 

 アン達三人組にとって、売り飛ばされる子供の件は『正義の味方ごっこ』の一環に過ぎない。帝都でのんびり生きる為のちょっとした名声稼ぎだ。

 既にレイナース関連で大きな安定を得ている現状に於いては些事でしかないし、子供を助けたいと本気で思っているのはアンぐらいなのだが、それでも関わった以上は最後まで見届けないとスッキリしない。

 実際のところ、パナにとっては美味しい食事の方が重要であろう。

 

「ではお伝えします――――」

 

 アンは包み隠さず全てを伝えた。アルシェの親が信じ難いクズであるという事を……。

 

「――そんなっ、生贄なんて! そんなことがっ?!」

 

「信じたくないのならそれで構いません。不幸になるのは貴方の妹さんなのですから、私達には何の不利益もありません」

 

「おい、ちょっと待てよ。そんな情報を俺達に教えて、あんた達には何の利益が有るって言うんだ? 金か?」

 

 相手が仮面を被っている所為で何を考えているのか分かりにくい――ヘッケランはそんな考えを持ちながら、相手の出方を伺う。

 未だ腰の剣から手を放してはいない。

 

「利益ですか……、パナさん?」

 

「そうだね~、簡単に言うと冒険者チーム『堕天』は良い人達だ――って評判を広めて欲しいの。貴方達は結構名のある請負人(ワーカー)なんでしょ? だったら周囲の信用も有りそうだし、うんうん、これで王国の二の舞にはならないね。良かった良かった」

 

「(いえ、どう見ても怪しい三人組でしょう)」

「(ロバーの言う通りよね、仮面とか被っちゃってるし……)」

「(完全同意だけどよ、どうすりゃいいんだ? タダの情報なんて信用する以前の問題だぞ)」

 

「――ありがとう、教えてくれて助かった。妹達の事は私が護る。貴方達の評判についても出来る限り良いように広めておこう」

 

 鎧を着込んだ大男の背後から姿を見せたその人物は、パナより若干小柄で、アンの背丈よりは辛うじて高い程度の可愛らしい――と言うか気品ある少女であった。

 

「おい、アルシェ」

 

「――大丈夫、判っているヘッケラン。でも、この情報は間違いないと思う。私の父は……恐らく……やると思う」

 

 怒りと悲しみと、後悔であろうか?

 小さな魔法詠唱者(マジック・キャスター)が口にした言葉には、魔力ではない別の力がこもっていたように見える。

 

「んじゃ~、後はお任せするとして。……おっと忘れてた。アルシェちゃんってば相手の魔力を視認できる生まれながらの異能(タレント)を持っているんだって? それでちょっと私達を視てもらえないかなぁ?」

 

「――なんか馴れ馴れしい。それにさっきからずっと視ている。言っておくけど貴方達に魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)の才能は無い。……鑑定料はオマケしておく」

 

 何だか棘のある言い方ではあるが、アルシェとしては親しげに名前を呼んできた事への反撃なのだろう。最後の一言も同様だ。

 

「そっかぁ、この世界特有の能力なら特殊技術(スキル)を打ち破ってくるかもって思ってたけど、一安心だね」

 

「――え? この世界?」

 

「なんでもないよ~、それじゃ~、ばいば~い!」

 

 訳の分からない言葉と「すいーつすいーつ」と言う更に意味不明な呟きを残して、奇妙な三人組は去っていった。

 一体何者であったのか? いや冒険者である事は判るが、何を目的として帝都に居るのか? どうして『フォーサイト』へ接触してきたのか? アルシェの妹を助ける意味とは?

 本当に『正義の味方』を自称したい訳では無かろう。

 もっと他に目的があると思うのだが……。

 

「何なんだあいつら? 気配が薄くて気味が悪いぜ」

 

「ヘッケランもそう思う? 私も矢の狙いが定まらなくってイライラしてたのよね」

 

「我々相手にあの余裕、仮面の二人は子供にしか見えませんでしたが……」

 

「――――」

 

「あっ、いえ、アルシェさんの事を言った訳ではありませんよ」

 

 黙っているアルシェが背丈の事を気にしたのではないか――と咄嗟にフォローを入れるロバーデイクであったが、相手が軽く笑って頷いてくれた事からすると杞憂であったようだ。

 

「――問題無い。少し家の事を考えていただけ」

 

「何か手伝えることはあるか?」

 

「――大丈夫。借金の返済が滞らなければ妹の身は安全だと思う。そして今回の遺跡探索が終わったら妹達は連れ出す。両親とは其処で終わり。……覚悟……した」

 

「もう、この娘ったら……」

 

 アルシェの背後から両手を伸ばして優しく抱きしめ、イミーナは囁く。――泣いても良いのよ、と。

 

「――ありがとう。……ごめんなさい」

 

 この日、フルト家は本当の意味で没落した。零れ落ちる涙と共に、地の底へ堕ちたのだ。

 とは言え、これで幼き二人の妹は助かるだろう。

 愚かな両親の手から逃れて、優しい姉の庇護下で新たな生活を始める事だろう。

 

 何処かの骸骨魔王様が邪魔さえしなければ――。

 




骸骨魔王様ひどい!
なんて骨野郎なんだ!
許されざる非道行為!

とまぁ、結果は原作通りになるのですが……。
妹二人は何処に売られるのでしょうね~。
眼鏡悪魔の牧場でないだけマシかな?





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