堕天使のちょこっとした冒険 作:コトリュウ
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正義の味方はいつも大変。
あっちで腐敗貴族。
こっちで邪教集団。
ゴミ掃除はホントに大変。
でも殺すだけなら簡単楽ちん。
百でも二百でも持って来い!
ああ、正義ってイイものだね~。
其処は人気の無い――小さな町の残骸であった。
モンスターの襲来で住民が避難し、そのまま帰って来られなくなり、廃墟と化した町なのであろうか? 町の規模にしては広過ぎる墓地、崩れかけた巨大な霊廟、この地でどんな悲劇が起こったのか分かってしまいそうだ。
静かで薄暗い闇の中、人類が辿るべき悲惨な未来を垣間見たような――そんな気がする。
「馬車はっけーん――って全部で十台以上? こんな廃墟で何やってんのかな?」
「馬車の近くに居るのは御者と護衛でしょうか? となると乗ってきた人達は何処へ?」
「ん~、近くの建物ってボロボロの霊廟ぐらい? でも中まで丸見えだし、人っ子一人居ないみたいだけど」
馬車一台に三・四人が乗っていたとすると、台数からして三十~五十人程度の人間がこの場に居るはずだが、闇夜を見通すヴァンパイアの視線でもそんな集団は発見出来ない。
辺りを見回しても倒壊しかけた家屋ばかりで、人が集まる場所としては不適当としか思えないのだが……。
「ちょっと索敵してみるね~。……ふんふん、霊廟の奥に地下へ通じる隠し通路があるみたい。地下の空間は結構大きい感じで、たくさんの人間が騒いでいるけど」
戦時中の避難場所だったのか、モンスターから身を隠すための場所であったのか? その地下空洞は、百人もの人間が入ってなお余裕が出来るほどの広さであった。
「地下って……、やっぱり変な宗教団体っぽいよね~。んで、パナちゃんどうすんの?」
「そりゃ~もちろん――」
「いきなり突撃は無しですよ。まだ悪い人達って決まった訳ではないのですから」
アンは馬車を指さし、パナを引き留める。
馬車の正面と後部には大きな紋章――何故か所々に破損が目立つ――が飾られており、それは貴族の地位を意味していると思われた。故に此の場へ集まった者達は、宗教に縋り付く貧困層ではないと判断できる。帝国でもそれなりの地位を賜る――殺した場合厄介な問題を引き起こすこと間違いなしの相手ばかりであろう。
「パナさん、帝国で活動するなら王国みたいに賞金首になるような騒動は避けましょう。廃墟で集まっている人達は怪し過ぎて真っ当な人生を歩んでいるとは思えませんが、殺される程の罪を背負っているかどうかは――まだ分かりません。自重してくださいね」
「は~い。……何だかアンちゃんは、私のお姉さんでもあるみたいだねぇ。にゃはは」
「あー! 駄目だぞ、姉ちゃんはあげないからな! アタイんだぞ!」
「ちょっ、マイったら声が大きいわよ。それに人をモノみたいに扱わないの!」
物陰に隠れながらも大声を張り上げていれば、馬車の近くに居る護衛達に気付かれそうなものではあるが、パナ達が動き出して平然と霊廟の中へ歩いていく――そんな最中でも誰一人として視線を向けてくる者はいなかった。
なぜならパナは、森の中で見つかった教訓を生かし、常時集団隠密の
フェンリルに用いた隠密最高強度の場合は何度も使用できるものではないが、低レベルの人間相手なら使用回数的にも余裕がある。
だからこそ何の障害もなく隠し通路を通り、地下で何をしているのか覗き見る――なんて事は御茶の子さいさいであった……のだが。
「鮮血帝に死を! 帝国に革命を! 我らに正しき地位の返還をー!!」
「帝国の正統なる貴族は我々だ! あの若造を追い落とせ!!」
「邪神様の軍勢が帝国へ進軍する日も近い! 我等の悲願達成はもうすぐだー!!」
「生贄だ! 我等を追放した若造を生贄に捧げろ!!」
「邪神様へ捧げよ! 生きたまま四肢をねじ切ってやれ!!」
「帝国を潰せ! 邪神様万歳!!」
「邪神様万歳!!」
蝋燭と松明が照らし出す地下空間。
其処にはむせ返るような煙が立ち込め、多くの人間達を狂気で包んでいた。
中央には岩を削って造ったと思われる大きな台が置かれ、切り裂かれた血まみれの若い女性を乗せている。
どうやら今回の生贄であったようだ。
既に息は無いが、その周囲を取り囲み全裸で踊り叫んでいる狂人達にとっては、哀れな女性の遺体も――役目を終えた肉の塊に過ぎないのであろう。
「うっわぁ、うわわ~、絵に描いたような邪教集団だよ。もぉ、この世界はどうなってんの? せめて下着くらい穿いてよね~。今日一日で一生分の股間を見ちゃったじゃない! まったくもー!」
驚きと戸惑いの声を上げるパナであったが、その口元が緩んでいるのは何故だろう。もしかすると予想通り――中年男女の全裸鑑賞の事ではない――で喜んでいるのかも?
「パナさん、この煙危険な感じがしますけど大丈夫ですか? 私達は身体的に異常をきたす事は無いのですが……」
狂乱の宴を見れば、煙の中に人を惑わす成分が含まれているのは間違いない。
だがパナへ影響を与え得るとは考え難く、アン自身――問題があると思って問うた訳ではないだろう。
ただ釘を刺したかっただけだ――無茶な事はしないでほしいと。
ちなみにパナに煙の影響がないと思ったのは、堕天使としての肉体的優位性を信じた為であり、決してパナが最初から狂っているからこれ以上おかしくはなるまい、と思った訳ではない。
決して――そんな不敬な考えを持った訳ではない。
「姉ちゃん、鮮血帝って誰の事だろ? 今の帝国の皇帝様の事かな?」
「え? ……ああ、そうね。叫んでいる内容を纏めると――、皇帝に不満を持つ人達が集まって邪神様に何とかして欲しいとお願いしている、ってとこかしら?」
ヴァンパイア姉妹とパナが物陰から狂宴の様子を覗き見ている最中にも、皇帝とやらに対する不満は地下空間へ響き渡っている。
これ程の恨みを持たれる鮮血帝という人物が一体何をやらかしたのか――興味が湧くところではあるが、今は狂人達の宴から目を離すわけにはいかない。
何やら一人の太った男が群衆の前へ進み出て、演説を始めようとしていたのだ。
「諸君! 我等が集いは帝国を傾けるほどに強靭なものと化している! このままで行けば近い将来、邪神様の軍勢と共に帝国を掌握出来るであろう! 邪神様へ身を捧げた者達が強力な
「「おおおおおおーー!!」」
「しかし! 我等も邪神様の御力に縋るばかりではいかん! 生贄を捧げて邪神様への信仰を深め、より強大な御力を秘めた状態で御降臨して頂くのだ!!」
地下空洞が割れんばかりの大声を張り上げ、足を踏み鳴らす。
自らの喉が使い物にならなくなるほど叫びに叫び、失神する寸前かと思うような狂人達が両手を突き上げる。
これが信仰の力なのか、薬物によるものなのかは分からない。
それでも凄まじい迫力があるのは確かだ。仲間に入れて欲しいとは、これっぽっちも思わないが。
「次の生贄は無垢な少女を捧げよう! 邪神様も必ずや喜んで下さるだろう! 邪神様万歳!!」
「邪神様万歳!」
「邪神様万歳!!」
「我等の全てを邪神様へ!!」
「死の支配者たる邪神様へ絶対の忠誠を!!」
宴が最高潮の高まりを見せたその時、パナは大切な人を思い出していた。
邪神様のイメージが全く湧いていなかったところへ、ちょうど良い人物がハマってしまったのだ。
「ああ、なるほど、あの外見なら邪神様って言われても仕方ないよね~」っとパナは一人呟き、「でもどちらかと言うと魔王でしょ」と不満を見せる。
ただパナとしては――『あの人』が若い女性や無垢な少女を捧げられ、満足している様を想像してしまうと――胸の奥から凄まじい怒りと吐き気が湧き出してきて仕方がない。
(あ~もう! 何勝手に想像して勝手に怒ってるんだかっ! 注目するところが違うでしょ! 次の生贄が幼い女の子になるってところが問題なのにぃ!)
暴走しかける己の思考を落ち着かせ、パナは深呼吸を繰り返す。
そして傍に居るヴァンパイア姉妹へ問いかけた。
「アンちゃんマイちゃんどうする? このまま何もしないと次の生贄は子供だよ。私としては助けてあげたいと思うけどな~」
「アタイも助けるべきだと思う。帝国で正義の味方っぽく振る舞うならイイ機会だよ」
「まぁ、帝国に叛意を持っている集団のようですし、生贄の子を助ける為なら致し方ないかと――」
アンの「不本意である」と言わんばかりの言葉が終わる寸前、パナとマイは飛び出す。――嬉々とした表情と共に。
「いやっほーーい!」
認識の外から突然現れたマイの拳は、歴戦の騎士であろうと避けられはしないだろう。ましてや全裸の中年男性では、己の身体が吹っ飛んでも――誰かに殴られた結果だとは気付く事すら出来まい。薬物で頭がイカレているなら尚更だ。
「幼い子供を生贄にするという悪逆非道許すまじ! そんなお前達は皆殺しだ!!」
大義名分を与えられた殺人鬼ほど手に負えないものは無い。「ひゃっはー!」と忍刀を掲げて襲い掛かる姿からしても、正義の味方とは程遠い存在だろう。
アンは――妹まで同じように暴れている事から、「自分がしっかりしなくては」と心に誓っていた。
「くうぉーらぁ! 生贄にするっていう子供は何処だ! 早く出さないとアタイの拳がテメェの頭をかち割るぞ!」
「ちょっと待て! 待ってくれ! お前達は何者なんだ! どうして此処に?! 皇帝の命令――ぶぎゃ!!」
「答えるの遅いんだよ! 時間切れっ!」
血の詰まった大きな果実を拳でぶち割り、マイは次の獲物へ襲い掛かる。その行動からは――子供を助けたいのか、相手を殺したいのか、どちらが優先なのか分からない。ただ生贄となった己の過去――姉を助ける事が出来なかった苦い過去でもある――を思い出し、拳に勢いがついているのは確かなようだ。
「マイ! 話を聞くまで殺しては駄目でしょ! 別の場所へ監禁しているのなら見つけられなくなるわ!」
「はーい、了解だよ姉ちゃん」
姉に対するマイの返事はしっかりしたモノだが、既にこの時――周囲は血肉で溢れていた。
生き残っている者は僅か数名。
アンは妹だけでなく、パナにも苦言を呈するべきであっただろう。もはや遅きに失していたが……。
「パナさん!」
「大丈夫だよ、この偉そうなおじさんからちゃんと話を聞くから……ね」
パナの足元には、最後に演説をしていた中年男性が蹲っていた。
男の顔は青く、冷や汗がしたたり落ちている。目線は血の海と化した地下空洞のあちこちを彷徨い、現実ではない何かの証拠を探し求めているかのようだ。
「さて、前のような失敗は嫌だから慎重に、っと」
以前、黒ローブの怪しい人物へ
パナは探知系
「はーい、まずは子供が何処に居るか教えてちょーだい」
「……パナちゃん、忍刀を口に突っ込んだままだと喋れないと思うよ」
「――そ、それもそうだね。って仕方ないでしょ、尋問なんてやった事ないんだし!」
マイからの生温かい視線に「むきぃー!」と言い訳を重ねるパナだが、その場に居る誰もが尋問なんて未経験なのだから気にする必要もないだろう。
要は喋りたくなるよう脅せば良いのだ。
死なない程度に……。
「それじゃ~、指でも斬り落と……いやいや、それじゃ~私が悪者みたいじゃない! 帝国では正義の味方っぽくするつもりなのに、最初からこれだと先が思いやられるよ!」
「パナさん落ち着いて下さい。そんなに暴力の使用に拘る必要は無いと思いますよ。その方は友好的に話をして下さると思います――そうでしょ?」
先程から忍刀を突きつけられ、指を斬り落とされそうになっていた太めの中年男性は、仮面少女の問い掛けに勢いよく首を縦に振っていた。今此処で肯定の意を示さなかったら、間違いなく自分の指が斬り飛んでいた――とでも考えていたのだろう。
男は膝をついて両手を広げ、神に相対しているかのように涙目で訴えてくる。――何でも喋るから殺さないでほしいと……。
「何だか都合が良過ぎて気持ち悪いけど、まぁいっか。――で? 生贄にするっていう子供は何処に監禁しているの?」
「あ、いや、その……、生贄はまだ……手に入れていないので――、ほっ、本当です! 当ては有るのですが、まだ話を持ちかけていないのです! 貴族への返り咲きを条件に、己の子供を差し出すと言う輩が居るので、子供を手に入れること自体は容易いという訳でして……。も、もちろん全て中止にします。儀式も生贄も、何もかも! だからっ!」
聞いているだけで人だった頃の残滓がざわめく。
隣に居るマイも思わず叩き潰そうと一歩前へ出てしまうが、まだ聴かねばならない事が残っていた。
「はぁ、自分の子供を差し出すって一体どんな奴よ。人間なんか知ったこっちゃないけど、流石に引くわ!」
「パナさん、気持ちは分かりますけど……。それで――貴族への返り咲きを狙っているその人について教えて下さい。此処で対処しておかないと、貴方達では無い別のおかしな団体へ子供を売りかねません」
会いたくとも会えなくなってしまった自分の両親について思いを馳せていたのか、アンの口調には厳しいモノが混じっていた。
「は、はい! その者は帝都に住まう、フルト家の当主で御座います。き、貴族の地位を剥奪されてもなお自らを貴族であると言い続け、未だ高級住宅街の豪邸にしがみ付いている愚か者です。借金塗れでいつ破産してもおかしくない状況でして、げ、現在は長女が必死に返済していると――聞いています!」
目や鼻から汚い汁を吐き出し、男は必死に言葉を紡ぎだす。己の命を救う為、今までの人生で最も頭を回転させているのだろう。唾が飛んできそうで気持ち悪いけど……。
「ふーん、なんだか地位を剥奪された理由が分かりそうな気もするけど……。となると剥奪した鮮血帝って人が優秀なのかなぁ。ふむむ、帝国って少しは期待できそう?」
「まだ分かりませんよ、パナさん。こんな連中が蔓延っているのですから、王国同様嫌な目に遭うかもしれません。――自重して下さいね」
アンは相変わらず釘を刺してくるが、地下空洞の中は既に死体で溢れているのだから今更だろう。血の匂いにもだいぶ慣れたのではないだろうか?
「んで、このおっさんどうすんの? まさか助けるなんて言わないよね、パナちゃん」
「そうだね~、ここは正義の味方らしく邪神様とやらの所へ送ってあげよう。うん、我ながら名案だね」
「なっ、何を言うのです?! 全て話しましたぞ! 約束が――ぁがぶっ!!」
邪教集団へ身を置いていた太めの男は、最後に感謝の言葉を述べようとしたのだろう。全てを口にする前にマイの拳によって頭の上半分を吹き飛ばされてしまったが、これで邪神様の下へ行くことが出来たのだから、今頃感謝の涙が絶えないはずだ。
正義の行いとは素晴らしいモノである。
「これで粗方片付いたかな?」
「だね、後の事は邪神様とやらに任せちゃおう!」
「マイったら調子に乗らないのっ。……其れでパナさん、子供の件ですけど――どうされるおつもりですか?」
アンの問いは至極単純だ。
現時点に於いて生贄予定の子供は親の庇護下にある。その親が子供を売りとばすようなクズであるとは言え、勝手な手出しは此方側に不利な状況を生んでしまう。親元から連れ出そうものなら、誘拐犯の汚名は免れまい。
もしそんな行為へ走るのなら、とても正義の味方とは言えないだろう。たっちさんに真っ二つにされるべき最低最悪のクズ野郎だ。
「うむ~、どうって言われてもね~」
「親を殺しますか? 子供を保護しますか? と言っても私達では子供の世話なんて無理ですけど……」
「親を半殺しにして脅せばイイんじゃない? 言ってくれたらアタイがやるよ」
いやいや半分殺すだけじゃ済まないでしょ――っと脳筋妹へ突っ込むものの、パナは頭を抱えていた。
子供を救って王国とは違ったスタートを切りたかったのに、少々面倒な事へ足を突っ込んでしまったかもしれない。力にモノを言わせて突っ込めば、大抵の事は押し通せると思っていたけど――正義とは中々複雑だ。
たっちさんもこんな気苦労を重ねて、複雑怪奇な現実と戦っていたのだろうか?
(不幸が確定している子供とは言え、親元から攫う訳にもいかないしなぁ。後々のケアまで考慮して行動しないと、結局誰もが不幸になっちゃう……。はぁ、悪い奴等を殺していく方が分かり易いし楽だな~)
死体がひしめく地下空洞から霊廟へと足を運ぶパナは、思った以上に面倒臭くなった現状を前にして「子供なんかどうでもイイか」などと口にしそうになるが、一応思い留まる。
子供が生贄になるなんてヴァンパイア姉妹の過去にも関わる事だし、帝国へ来たからには犯罪者ではなく一般人としての生活を送りたいのだ。――御飯とか、お風呂とか!
その為なら多少の苦難は乗り越えるしかない。
何をどうしたらイイのかさっぱり分からないけど……。
「パナさん、人の手を借りましょう。帝国の誰か偉い人を捕まえて、そのフルト家の当主さんをどうにかしてもらうのです。上手く行けば、子供を施設とかへ保護してもらえるのではありませんか?」
「人の手かぁ……。帝国に手を貸してくれるような人物がいるかどうか……。王国みたいに藪蛇にならなきゃイイけど」
血生臭い地下空洞から出て、背伸びをしながら新鮮な空気を吸い込むパナは、アンの提案に不安を覚えながらも採用する事とした。
パナ自身、良い人と出会う確率は高い方だと思っているので、帝国での出会いにもある程度は期待している。故に相談に乗ってくれる人が一人も居ないなんて事は無いだろう。
ただ、パナの場合はどんなに恵まれていようとも、不幸と言う名の運命に導かれてしまうのだからどうしようもない。
自分で引き寄せているようにも思うが……。
「さてと、そうと決まれば帝都まで一気に行っちゃおうか? 途中で変な騒動に巻き込まれると、間に合わないかもしれないしね」
「分かりました。……でも帝都が何処か知っているのですか? パナさん」
「え?! え、えぇっとぉ、……全然知りません」
「駄目じゃん、パナちゃん。――アタイも知らないけど」
知らないのかよっ! と突っ込むのは当然として、パナとしては日に日に低くなってく己の立場に危機感を覚える。
最初は命の恩人だったのに、今では妹一号か二号か……。
んもぉー! どうしてこうなった?!
「大丈夫ですよパナさん、途中で出会った商人さんや旅人さんに聞いてみましょう。上手く行けば、鮮血帝と言う人の評判も分かるかもしれません」
「あ、うん、そうだね」
百年ほど森の中へ引き籠っていたはずなのに、コミュ力が高いとは此れ如何に?
ゆっくりと北へ向かって走り出したパナは、レベルでは換算できないアンの能力値に悲しい視線を送るしかなかった。
人外三人娘が走り去った霊廟近くでは、二度と帰っては来ない主人達を待ち続ける御者と護衛、そして馬車に繋がれた馬の姿が見える。
その退屈そうな様子からすると、彼らが地下空洞へ足を踏み入れ、地獄のような光景を目にするのはまだ先のようだ。とは言え己の主人が屍となっているのを目にしたとしても、帝国守備兵へ訴え出るのは不可能だろう。
鮮血帝から目を付けられている元貴族達が怪しげな霊廟の地下で何をしていたのか? 上手い言い訳を思い付けば別だが、何処ぞの眼鏡悪魔でもない限り無茶な話だ。
要するに、今回の虐殺は表へ出る事無く葬り去られる。不運な事故、悲しい偶然――そんな結末となるであろう。
パナ達三人娘にとっては朗報と言うべきなのかもしれない。
帝都へ向かって一直線。
子供を助ける正義の味方。
なんて王道、素晴らしい。
こんな堕天使見たことない。
だからお願い魔王様。
早く見つけて助けてね。