漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! 【アニメ・小説版オーバーロード二次】 作:疑似ほにょぺにょこ
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「さて、鬼が出るか蛇が出るか。いや、悪魔が出るか勇者が出るか、の方がこの世界らしいか」
法国に来て数時間。日が傾き始めた時刻。漆黒聖典番外席次である絶死絶命に連れられ俺たちは知らぬ道を歩いていく。どちらへ向かうかは分からないのだが、恐らく視線の先に見える建造物が目的地であるだろう事位は理解できる。
視界に映るのはこの法国一番らしい巨大な──というには少々お粗末な程度ではあるが──建造物。無駄だと思う程の高台に作られたそれは、明らかにその建物の下に『何かあります』と言わんばかりだ。
『どう見る』
『はっ!簡易的なものですが、対探索阻害の結界は掛けてあるようですね。しかし、対転移阻害や対攻撃阻害はお粗末なものです。あれではドラゴン程度の一撃ですら直撃したら崩壊は免れないでしょう』
無言のまま付いていく振りをしながら隣を歩くナーベ──の、姿をしたパンドラズ・アクター──と《伝言/メッセージ》を利用しながら話し続けている。無論簡易的なものではあるものの傍受対策済みだ。この無駄に広い割に一切上位の魔法対策を行っていない結界が隠れ蓑の役割をしているお陰で、俺たちの会話に気付くのはほぼ不可能と言っていいだろう。
見れば見るほどに酷い。一体どういうコンセプトでこんなものを作ったのか。使えるとしたら、精々要らないものを突っ込んでおく倉庫程度だろう。もしくはカウンター系魔法を隠して設置し、不用意に攻撃してきた者を殺すというある意味トラップ的な建造物とする程度だろうか。
まぁそういう防御や攻撃の要と言うべき要塞であるという前提で考えるならば、ではあるが。所謂一般開放された場所であると考えるならば、多少は見れる場所はあるのかもしれない。
我々は一つの建物にそのまま連れられて入っていく。何かの罠でもあるのかと警戒しながら歩いて居たのが馬鹿らしく感じるほどの無警戒さに、少しばかり胸の内でため息を付きながら。
「これはこれは──ようこそお出でなさいました」
建物に入った瞬間、建物に居た者たちが皆しんと静まる。まるで異質なモノが入り込んだかのように。止まり、こちらを見つめるのはざっと見て40人程度。そのうち同じ服を着ているのは12人。それより少し質の良い服を着ているのが1人。残りは質の良し悪しを除けばほぼ雑多である。鎧を着込んだ者。魔術的な防御能力を持つローブを着た者。恐らく冒険者であろうそれらと、一般市民であろう者たち。皆一様に健全ではないようだ。
「──漆黒聖典番外席次様。このような場所に一体どのようなご用向きでしょうか」
人の良さそうな笑みを浮かべながらも少しばかり緊張している男が絶死絶命に話しかけている。知り合いではあるようだが、親しくはなさそうだ。身なりからしてここのトップなのだろうか。患者であろう者も含め誰も動けなくなっているというのに、この男だけは我々に近づいてきたのだから。憶することなく、ではない。怖れながらも、だ。
「この方を知らないの?今や世界的に有名になったと思って居たのだけれど」
用があるのは私ではない。そう言わんばかりに彼女は一歩下がり、私を指した。それで気付く。彼ら──いや、皆が恐れていたのは彼女ただ一人だったのだろう。まるで『今気付いた』とばかりに一気に俺たちに視線が向かってきたのだ。
「黒の──全身鎧──」
「おぉ、あの方はまさか──」
物音一つ立てられぬ程に静かだったこの建物にざわりと漣の様に声が流れてくる。やはり気付いて居なかったのだ。有名にしても悪名にしても、彼女はここではあまりにも流しれ過ぎている証左といえよう。目を見開き、驚愕の表情をしている身なりの良い男の行動は最も分かりやすいものだった。
「あの、魔王ヤルダバオトを屠られた漆黒の英雄──モモン様でございましたか。私はここ、スレイン法国治療院を任されております。神官長がお一人イヴォン・ジャスナ・ドラクロワ様の直属の配下であります、アスクレピオスでございます」
「魔王であったかどうかなど知らぬ。ただヤルダバオトを斃したのは私で間違いない。王国アダマンタイト級冒険者、チーム漆黒のモモンだ。こっちは──」
「同じく王国アダマンタイト級冒険者、チーム漆黒のナーベ。パートナーではなくモモン様の従者をしております」
まるで座礼でもするかのように深々と頭を下げ始めたのだ。面倒だと彼の肩に触れ、礼を途中で止めなければそのまま床に座り座礼になってしまったのではなだろうか。
周囲でも、治療に来たのであろう一般市民も含め沢山の人が『生き神様だ』『英雄様だ』と拝み始める始末。本当にやり難い。宗教国家であるため、こういう部分は仕方ないのかもしれないが。
「挨拶はそのくらいでいいでしょう。話は聞いて居るはずよ。どうなのかしら?」
話を聞いて居るとはどういうことなのだろうか。俺がこの国に来ることは、確かに王都に居たものならば少しは知っているかもしれない。俺の事を知る者であれば大抵耳にしているだろう。しかしスレイン法国に来たのは今日が初めてである。馬車という遅い乗り物に乗ってきたというのもあるかもしれないが、来た理由は本来知らない筈なのだ。
(やはり我々の目的に気付いているのか?)
あまりにも無防備すぎる重要拠点。あまりにも無警戒過ぎる人々。ではこれら全てがブラフだとしたら。そのようなことがあるのだろうか。
「なんと──なんという──」
私は唯々驚愕するしかなかった。確かに私は聞いて居た。『アインズ・ウール・ゴウン伯爵なるアンデッドによって身体に呪いを掛けられた悲しき英雄』の話を。同時に私は自負していた。どのような病気であっても、どのような呪いであっても私であれば解くことができる。治療が可能であると。しかし現実はどうだ。
漆黒聖典第十一席次様よりモモン様は本来非常に高位のマジックキャスターである事は知っていたが、まさかここまでのものであるとは思いもよらなかった。そしてそのマジックキャスターとしての力の殆どを封じられ、歪められてしまっているのだ。
このような状態。生きた人間であれば苦痛と絶望に瞬く間に発狂してもおかしくはない状態。例えアンデッドに身を窶したとしてもその想像を絶する苦悩が消えるわけではないだろう。今まさに死よりも恐ろしく、辛い。耐え難いそれに耐え続けているだろうというのに彼はその影すら見せることは無い。
いったいどれほどの精神力を持って居らっしゃるというのだろうか。歪まされ、死してもなお保ち続ける高潔なお姿。なんと素晴らしい事か。
ただただ私は崩れ落ちることしか出来なかった。己が無能さに嘆きながら。
「申し訳──ありません──わたっ──私には──できませんっ!」
泣き崩れる男。そうか、と俺は頷いた。どうやら彼は信仰系マジックキャスターだったわけだ。恐らくこの人数を今日集めた理由。それは、代償召喚を行おうとしたのだろう。
まず間違いなく俺がアインズ・ウール・ゴウンであろうと思われている。しかし確証はないのだろう。であればどうするか。簡単だ。化けの皮を剥がせばいいわけだ。そのための代償召喚。やはりあの時絶死絶命にアンデッドである顔を見せたのはまずかったと言うべきだろう。しかし、彼は善良過ぎた。ここに居る者を代償にして天使を召喚しなければならなかっただろうに、彼はそれを拒否したのだ。
俺を何としてでも悪と認定したい強硬派と、英雄であるという俺の立ち位置を見る穏健派。ここ法国ではその二つが鬩ぎ合っていると思っていいだろう。そして彼は穏健派であり、強硬派に脅されていたわけだ。
「それで良い。良いのだ、アスクレピオス殿」
「私っ──私はぁっ!!」
初老のこの男が、恥も外聞も無く大声を出して泣き崩れるとは。どれほど辛かったのだろうか。
しかし彼の決定は大きな意味を持つ事になる。少なくとも俺の事を『英雄である』と認識してくれている人が居るという事。つまり『疑わしきは罰せず』というスタンスであるということだ。まだ確証はない。まだ最後の一歩で踏み止まっていられているということだ。
ゆっくりと息を吐く。肺無き胸で。
「アスクレピオス殿、私は──英雄だ。例え『漆黒』と呼ばれようとも。英雄であり続けたいと思う。最後の一瞬まで」
もうそろそろ分水嶺となる。世界の英雄となるか、世界の敵となるか。その瀬戸際が来ている。
「そろそろ──アインズ・ウール・ゴウンには消えてもらわねばならない時が来ているのかもしれないな」
ぽつりと落ちた呟き。誰にも聞こえないほどの小さな呟き。しかしそれは確かに、俺の想いだったのだろう。
少しばかり驚く自分が居る。アインズ・ウール・ゴウンとして居たいという自分が居たから。
しかし俺はこのままではいけないと思って居る。まだ皆を探していないからというのもあるが、そろそろ限界が来ているのだから。
俺が、アインズ・ウール・ゴウンでありつづけることに。分不相応な立場に甘んじ続けることに。
ならばやることは一つだ。
「絶死絶命殿、一つ訪ねたい」
「なにかしら、月の周期ならそろそろだと思うのだけれど」
「いや、それではなく──今俺はあるものを探しているのだ──」
まるで色を知らぬ男を揶揄うかのように笑う彼女に、真面目に問わねばならない。
「──傾城傾国というアイテムを」
「──知らないわ」
一瞬の間。一瞬。ほんの一瞬だけ彼女の目が泳いだ。知っているのだ。では何故彼女は知らないと言ったのか。簡単だ。
(そうか、実行犯の一人はお前か。絶死絶命──お前だったのだな)
彼女の実力であれば十分。恐らくレベル80以上。もしかすると90を超えて居るであろう彼女であれば、シャルティアを捕縛することは決して不可能ではなかっただろう。傾城傾国を使用する一瞬、その一瞬止めるだけならば完全装備であったシャルティアを止められただろう。
(であるならば、やらねばならない)
一つは傾城傾国のすり替え。既に傾城傾国に酷似した物はパンドラズ・アクターに命じて作ってある。『自身レベル以下のものを一時的に操る』という意図的に劣化させた物を。それとすり替えるのだ。
そして二つ目は今のシャルティアと操られたシャルティアは別物であったと認識させること。つまり操れたのは『よく似た雑魚』であってシャルティアではなかったと認識させること。これによって敵はシャルティアに、そしてアインズ・ウール・ゴウンに間違った認識が生まれる。『より強い存在である』という間違った認識が。その認識が警戒を産み、頭と足を鈍らせる。その間に一気に反撃させてもらうとしよう。
シャルティアを操るなどという大罪を犯した者は、須らく償ってもらわねばならないのだから。
「本当に知らないのか」
「えぇ、そんな名前のものはなかったはずよ」
そうか、と短く応える。無論彼女にとって答える義務は無いのだから誤魔化しても良いだろう。しかしタイミングが悪かった。俺にとってそれは答えでしかなかったのだから。
「では、すまないが──大事な話があるので上の者と話させてもらいたい」
「それは──ホニョペニョコと呼ばれる存在についてかしら。ヤルダバオトを屠る程の力を持つ貴方が、周囲を巻き込み吹き飛ばさなければ倒せなかったという」
遠回しにちくちくと言ってくる。ホニョペニョコがシャルティアであることも既に掴んでいるだろうに。さて、これからどうやって持って行くかである。何しろ俺は限りなく黒に近い灰色だと思われ──
「良いのではないかしら。あのモンスターについてはこちらも辛酸を舐めさせられているもの」
破顔一笑である。のらりくらりと要求をかわすと思って居た俺は肩透かしを食らった気分である。そう、破顔一笑で彼女は快諾したのだから。
「今ちょうど集まっているそうよ。行きましょう」
待たせることすらなく、そのまま案内される。これがどれほど恐ろしい事か。それはユグドラシルの時代から痛い程分かっている。
(準備は万端。そういうことなのだな)
決して身構えてはいけない。決して策に嵌ったと思わせてはいけない。完全に敗退するまで、決して表に出してはいけない。最後の一瞬まで全て己が掌の上にある。そう思わせろ。
ウルベルトさんの言葉を胸に。俺は憶する心を抑えながら。堂々と歩いていくのだった。
楽しい(悲しい?)すれ違いです
勝手に暴走しているともいう
まぁ周囲(特にデミやん)はもっと暴走しているわけですが