カスタマーレビュー

2018年12月15日
本書は、「日本通史の決定版」などと呼べる代物ではない。
歴史を学びたいと真摯に願う方には、別の本をお勧めする。

その理由は次の通り。
(1)多数の誤り
本書には、史料解釈以前の、多数の誤りが指摘されている。
二つだけ挙げると、北条早雲が「関東一円」を支配したかのような記述。
また、関東大震災を、明治維新後初の大地震とする記述(濃尾地震や明治三陸津波を無視)。
明確な誤り以外に、おそらく理解していないのであろう、誤解を招く表現も多数ある。
つまり、全体として記述を信用できない。

(2)矛盾
上の関連だが、本書中で矛盾した記述が複数ある。
例えば足利義政の東山山荘と、応仁の乱との関係について、
東山山荘への引きこもりが応仁の乱の原因と記した部分(誤り)と、
応仁の乱の結果、東山山荘が造られたと記す部分(正しい)。
また、戦前戦中の日本がアジアで唯一植民地化を免れたと記した部分と(誤り)、
タイは戦前に独立国だったと記す部分(正しい)。
およそ一人で書いたとは思えないほど支離滅裂だ。

(3)先行研究の無視・軽視
あたかも独自の評価のような書き方をしているが、
実際には他の研究者などが既に指摘している、という事柄も多い。
例えば田沼意次の経済政策や、豊臣秀吉の刀狩の評価を巡るくだり。
知っていたなら無恥だし、知らなかったなら無知だ。
また、足利義満による皇位簒奪計画や、応仁の乱の日野富子元凶説など、
学術的には既に否定されつつある見方を、前置きなく正しいものとして採用している。
足利義満暗殺説も、研究者の主張として紹介して乗っかっているが、
そんな「研究者」とはいったい誰なのか、不明だ。
著者は随所で、研究者の見解と称して賛同したり、否定したりして、
研究を丁寧に踏まえたうえで論じている体で書き進めているが、
内実は雑なつまみ食いであり、信頼を担保するものではない。

(4)都合の悪い史実の無視
例えば、東山文化について、日本独自の文化と高く評価する一方で、
中国の影響に全く触れていないない。
本書は「東山御物」や「雪舟」に言及しているが、
前者が唐物コレクションであることや、後者が中国で絵を学んだことは無視している。
こうした姿勢は、先人が苦労して海外文化を吸収・消化して、
独自の文化を築き上げてくれた歴史に泥を塗るものだ。
日本文化に誇りを持つのに、そのようなセコい歴史修正は不要だ。

(5)引用元の不明
参考文献が示されないだけでなく、文章の引用元も示されていない。
そのうちいくつかは、後の刷で修整されたようだ。
それだけでなく、多くの箇所で、Wikipediaとの語句、語順、
展開などの酷似が指摘されており、実際に似ている。

(6)著者・版元の不誠実
本書について、著者は「すべて事実」と豪語していたが、
数々の問題点が指摘されたためか、刷を重ねるのを機にいくつか、
てにをはに留まらないほどの修正を行っている。
そのため、中身の違う3刷と5刷が同時に書店に並ぶような事態が起こっている。
にもかかわらず、訂正表の公開など、読者に対するケアは行われていない。

本書には、以上のように多くの問題点がある。
通読してわかるのは、本書には、歴史をある程度知った者が、
執筆から編集、校閲の過程で内容に影響を与えうる立場に全くいなかったであろうことだ。
でなければ、数多くの誤りや矛盾を、スルーしてしまった説明がつかない。
誤字脱字レベルの誤りがほとんど目につかないのは、
文字校正はしっかり行われていたことをうかがわせ、
だからこそ内容の誤りが際立っている。

実は想像していたほどトンデモではない、というのが当初の印象だった。
縄文時代から時代を追って、出来事や人物を、淡々と追っていく。文章は読みやすい。
本書は、本気で日本通史を意識し、「教科書」を狙っていたのではないか、と思われる。
それゆえ、「本書は日本通史ではなくエッセーだから問題ないのだ」という見方にも賛同できない。
第一、エッセーだとしても、長いだけで、上手くも面白くもない。
井沢元彦氏の著作との類似性が指摘されているが、斬新な着眼点もなければ、
展開の妙味もない。数々の事実誤認、恣意的解釈の上に立って、
「胸を打たれる」だのと子供のような感想が付け足されているくらいのものだ。

また、歴史観という点でも、評価に値するほどのものを見いだせない。
本書で日本のすばらしさを誇っている箇所の多くは、
外国と比べて優れている(それも事実誤認が指摘されている)とか、
外国人が褒めてくれたとかいったことが根拠となっている。
日本に誇りを抱くのに、なぜ外国と比べなくてはいけないのか。情けない。

歴史に関する素養があり、メディアリテラシーの教材として批判的に読める方は、
時間があれば手に取ってみるといいかもしれない。
事実誤認や通説との差異を探すのは、それはそれで楽しい。
残念ながらそれ以外の価値を、私は見いだせなかった。

*本レビューは、11月15日に投稿したものを、書き直した。
11月30日に、前のレビューがなぜか消えてしまったため、再投稿した。
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