カスタマーレビュー

2018年11月12日
まず最初に触れておかねばならないのは、本書に参考文献が全く記載されていない事だ。
どの資料を参考にしたか分からず、「~かもしれない」「~であろう」という著者の推測が非常に多い事などから考えて、本書を歴史書と呼ぶのは難しい。
500ページ以上の日本通史とは言っても、本書の重点はどう見ても幕末以降の近現代史に置かれており、それ以前の歴史に関しては浅くて薄い記述に留まっている。
以下、本書で気になった箇所を取り上げる。
・十七条憲法が日本の民主主義の起源であった。
十七条憲法は単なる掟のようなものであり、本来の憲法(英語ではconstitution)とは別物である。民主主義の起源とはとても呼べない。ちなみに「和を以って貴しとなす」は元々孔子の『論語』にある一節であり、日本独自のものではない。
・日本の過去の女性天皇は、8人全員が男系である。つまり、父親が天皇である。
著者最大のミス。男系とは、父親が天皇である、という意味ではない。しかも、女性天皇の中で父親が天皇なのは6人であり、全員ではない。
・継体天皇の時に皇位簒奪が行われたのではないか。「天皇は万世一系でなければならない」という不文律があり、このため『日本書紀』に不自然な記述をする必要があったと考えられる。
保守派の著者らしからぬリベラルな発言である。万世一系自体に無理があるから仕方がないかもしれないが。
・日本が鎖国をしていなければ、やがて東南アジアを征服し、欧米諸国にも勝てていたかもしれない。
夢を見るのは自由だが、根拠がなさすぎる。ライトノベルたる所以である。
・日本には元々虐殺の文化はない。それはヨーロッパの文化である。
これについても根拠がない。日本にも、後に見るような虐殺事件が存在する。
・関東大震災の際の朝鮮人虐殺には虚偽が含まれている。中には震災に乗じた朝鮮人のテロリストグループによる犯行もあった。犠牲者が6000人というのは正しくなく、司法省の記録では233人である。
朝鮮人も悪い、と責任転嫁するだけでなく、犠牲者数まで意図的に低く見積もっている。司法省の記録は最少の人数であり、歴史研究によってより多くの犠牲者が出た事は確実と見られている。
・客観的に見れば、南京大虐殺がなかったと考えるのがきわめて自然である。
大虐殺否定の根拠は、虐殺を報じた外国人記者の記事は伝聞を元にしたものに過ぎない、南京の人口は20万であり、占領後1ヵ月で25万に増えている、などの使い古されたものばかりである。これらはすでに歴史家によって論破されている。著者でさえ、民間人が虐殺された事は認めている。また、通州事件を元に、日本も被害を受けた、と印象操作しているが、犠牲者は200人強であり、先程著者が意図的に少なく見積もった関東大震災の朝鮮人虐殺の犠牲者と同じくらいではないか。都合の悪い事実は過小評価し、都合の良い事実は過大評価しているのではないか、と見られても仕方がない。
・朝鮮人慰安婦に関しては、日本軍による強制の証拠は見つかっていない。
著者が知らないだけで、証拠はいくらでも存在するが…。「朝鮮人慰安婦に関しては」とわざわざ断りを入れている点から見て、日本人、台湾人、オランダ人などに対しては、軍の強制があったと認めているのだろうか。
・日本はアジアの人々と戦争はしていない。日本が戦った相手は、アジアを植民地にしていたアメリカ、イギリス、フランス、オランダである。
中華民国を忘れていませんか?アジアの人々と戦争はしていないからアジアに対する侵略ではないという主張のようだが、それだとアジア人国家の中華民国との戦いについては、日本の侵略と認めていいのだろうか。あと、フランスに対して日本は宣戦布告した事はない。
以上、ざっと見ただけでも間違いが多かった。特に男系の記述については致命的なミスである。本書を元に歴史を語るのは控えた方が良さそうだ。

追記
何度か読み返した結果、ミスをまた発見した。本書の486ページで、「日本の歴史には大虐殺もなければ宗教による悲惨な争いもない」と書いておきながら、141ページには「信長は(略)延暦寺との戦いでは寺を焼き尽くし、僧だけでなく女性や子供まで数千人を皆殺しにした。一向一揆鎮圧の際も女性や子供を含む2万人を皆殺しにしている。これは日本の歴史上かつてない大虐殺である」と書いている。果たして同じ人物が書いたのかどうか、また、校閲はどうなっているのか非常に疑問に思う。

追記その2
致命的なミスと指摘した男系についての記述が、第4刷でいつの間にか修正されたようだ。修正するのは構わないが、その前に読者に説明なり何なりするのが筋ではないだろうか。誤りを認めたという事になるからである。
第1刷の記述「日本には過去八人(十代)の女性天皇がいたが、全員が男系である。つまり父親が天皇である。」
第4刷の記述「日本には過去八人(十代)の女性天皇がいたが、すべて男系である。つまり父親を辿ると必ず天皇に行き着く。」
比較対照しやすいように、並置してみた。違いが一目瞭然ではないだろうか。
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