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【社説】

少子化対策 子どもの未来へ視線を

 チグハグ感は否めない。子育て支援策のことである。妊婦の医療や未婚のひとり親への税制で冷たい対応が露呈した。政府・与党には社会を担う子どもたちを社会で育てようとの気概が見えない。

 一年前、安倍晋三首相は「今年の漢字」に「挑」を選んだ。北朝鮮の脅威と並び少子高齢化を挙げ「この国難に挑むため、総選挙に挑んだ年だった」と説明した。

 子育て支援は少子化対策の柱だ。政府・与党のその思いは変わっていないはずではなかったか。

 ところが一見別々に見える制度のほころびに同じ疑問がわく。

 妊娠中の女性が受診した際に「妊婦加算」という自己負担が増える制度が問題となった。今年四月の診療報酬改定で新設された制度で、医療機関は妊婦を診察すると報酬が上乗せされる。妊婦や胎児には投薬などで配慮が必要だ。それを医療機関に促すことが狙いだったが、一方的な負担増に「妊婦税」だと批判が出た。

 診療報酬は医学的な観点から必要な医療に報酬をつける制度だ。妊婦に配慮した医療を評価しようとの考えは理解するが、患者目線が足りなかった。

 費用負担の多寡ではない。それを求める発想に出産や子育てを社会から歓迎されていないと感じる人もいるだろう。制度は見直しが決まったが、当然である。

 与党の対応も指摘する。税制改正大綱で自民・公明両党が対立した項目が、未婚ひとり親の税を軽減する寡婦(夫)控除改革だった。

 婚姻歴のあるひとり親が受ける控除を同様に認めようというものだったが、見送られた。自民党の伝統的な家族観がそれを阻んだ。

 結婚観も家族の形も多様化している社会の変化を理解しているだろうか。それに親の婚姻歴は子どもとは関係ない。むしろ深刻化する子どもたちの貧困をどう防ぐかに政治は知恵を絞るべきだ。

 教育・保育や福祉政策に限らず、子育て支援の視線が必要な政策分野は多いはずだ。政策を考え制度をつくる際には、子育て支援の視線でも見直してみる。そんな意識が大切ではないか。

 子育て支援政策を総動員しているとのメッセージを絶えず発する責任が政府・与党にはある。

 首相は今月、「今年の漢字」に「転」を選び「未来を好転させるかどうかは私たち自身にかかっている」と述べた。子どもたちはまさに私たちの未来だということを忘れるべきではない。

 

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