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たくあんに思う

2018年12月28日
 「寺内貫太郎一家」は1970年代、茶の間の人気を博したホームドラマの一つだ。石屋の主人が小林亜星さん演じる貫太郎で、同居する母親きん役は樹木希林さんだった。

 「飯食いドラマ」といわれたほど食事シーンが多かったドラマである。小説版ではたとえばこんなふうにちゃぶ台の場面が始まる。西城秀樹さんが好演した大学浪人中の息子周平が、箸でたくあんを「三切れ」挟む。それを見たきんがとがめて、騒動が持ち上がる。

 たくあん三切れだと騒ぎになるわけはさておき先日、本紙窓に載った高校生の「たくあんに思う」と題した投稿に感心した。書き出しは「あなたは、目の前のたくあんがどうやって自分のもとに届くのか、考えたことはあるだろうか」だ。

 「一切れのたくあんは、その大根が生産者の手でやぐらにかけられ、厳しい冬を乗り越えようやくやってくる。どんな食材にも、それぞれのドラマがある」と書き継いで、大根やぐらで作業する人々の身を案じ、膨大な量の日本の食品ロスの問題に言及している。

 きんは孫を諭すように言う。「三切れは身を斬るっていって縁起が悪いんだよ」。納得しない周平に貫太郎も「昔の言い伝えも捨てたもんではないぞ」ときんの肩を持つ(阿古真理著「昭和の洋食平成のカフェ飯 家庭料理の80年」)。

 今年、本県農業は接近した台風24、25号によって痛手を被り、大根農家は種まきからやり直した。文字通り身を斬る労働があって食卓に届くたくあんだ。食べ残すなどもってのほか、投書の結びにあるように感謝を忘れずにいただきたい。

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