堕天使のちょこっとした冒険 作:コトリュウ
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第一部は、本日12:00公開、
第二部は、本日18:00公開となっております。
上記構成にした意味は特にありません。
なんとなくです。
たまにはこんな感じもよろしいかな~っと。
タブラ-1
トブの大森林北部で堕天使の悲痛な叫びが響いていた頃、大森林の南部では幼い
「ん~、つまんないなぁ、強そうな奴が全然居ないし……。こんなんじゃ、アインズ様にイイ報告が出来ないよぉ」
口を尖らせて愚痴を呟くその
装飾過多で神をも撃ち抜けそうな異常なまでの魔力を内包した大きな弓を背に備え、腰には世界を滅ぼせる大精霊を叩き抜けるほどの鞭を装備。身に纏っている上下の軽装鎧と白地に金糸の入ったベスト、そして短めの金髪と可愛らしい笑顔からは、一見男の娘に見えなくもないが、れっきとした七十六歳の少女であり、ナザリック地下大墳墓の第六階層守護者である。
「この子達を遊ばせたら何か出てくると思ったんだけどな~。自分の縄張りを持っているなら黙っていないだろうし……。でもぉ、こっちの存在に気付かない程度の弱い奴ばっかりなんて……」
主人が気にしていたプレイヤーの一人でも発見出来たら、抱き上げて褒めてくれたかもしれないのに――そんな御褒美を想像していたアウラの周囲には、心配そうに見上げてくる使役魔獣が集まっていた。
その光景は、世界の終わりを告げる最終戦争が始まるかのようである。
幼く可愛らしい
「あっ、帰ってきた! ――フェン、何か見つけたの?」
使役魔獣達が自然な感じで其の身を動かしアウラの前に空間を作ると、其処には瞬間移動でもしてきたかのようにゆらりと巨大な狼――フェンリルが姿を見せていた。
「えっ? 木のモンスターが暴れていたから踏ん付けて殺しちゃったって? ふ~ん、別にイイよ、弱い奴なんかアインズ様のお役には立たないしね。あっ、でもあの獣の毛皮は欲しいな~。機会があれば殺してもイイか御聞きしてみよ~っと」
一番遠くまで偵察に向かわせていたお気に入りの神獣が戻ってきたことで、アウラは一旦ナザリックへ戻って報告を行おうとしていた。
目ぼしい成果は上げられなかったが、少なくとも自らの敬愛する御主人様を害するような敵対者は見つからなかったので良しとするべきだろう。
もちろん、そんな愚か者が存在していたら配下の魔獣を全てぶつけて骨も残らないように殺し尽くすつもりである。
「さてと、みんな帰ろっか」
可愛らしい
その一行の姿はまるで百鬼夜行のようであり、また――軽い散歩でもしてきたかのようでもある。
何処かの堕天使にとっては迷惑極まりない散歩であっただろう。責任者に文句の一つでも言いたいに違いない。
――そんな度胸があればだが。
◆
ナザリック地下大墳墓は極めて緻密な計画の下に運営されている。
だからこそ勝手な改編は行うべきではないし、許されるものではない。至高の御方が作り上げたモノに手を加えるなど、不敬としか言いようのない行為だ。
しかし異世界に転移してもなお、そんな思考停止状態では環境に適応する事は出来ない。見直すべきは見直し、修正すべきは修正すべきであろう。
各階層に配置されている侵入者撃退用のモンスターやトラップはユグドラシルの金貨を消費するものであり、無差別に用いていては破綻を招きかねない。故に今後いくつかの機能は停止すべきだろう。
NPCの総数に関しても、厳密に調整されている現状からの大幅な増加は問題があるかもしれない。戦力増強の面からは増やしたいところではあるが、金貨増産の目途が立ってからの話であろう。
アインズ個人の資産は億を軽く超えており、宝物殿の金貨を合わせれば眩暈がするほどの量にもなるが、有限である以上無駄な浪費は抑えたいところである。
今、第十階層の玉座の間では、守護者統括のアルベドがマスターソースを開いてナザリックの資金運用を確認していた。
「一階層のトラップは停止すべきね。紛れ込んだネズミの為にナザリックの――アインズ様の金貨が浪費されるなんて決して許されないわ。一階層は自動で湧き出すアンデッドで十分でしょう。ああでも、
「アルベドォ~、それは流石に止めてあげて欲しいんだけど……。まぁ、自分の守護する階層のトラップに引っかかるなんて、いくらなんでも有りえないだろうけどね。でもアイツの事だからさ~、もしかしてってことも有るし」
大扉の隙間から玉座の間を覗いていたのは、完璧なまでに気配を消していたアウラであった。トブの大森林を調査し、その結果を報告しに来たようだが、何やら不穏な空気を感じとってこっそり忍び寄っていたようである。
「アウラ、気配を消して玉座の間に近付くなんて不敬な行為よ。以後気をつけなさい」
「は~い。……でもさ~、アルベドも至高の御方に創造されたシャルティアを騙そうなんて不敬な行いは止めた方がイイよ~。アインズ様が悲しむかもしれないし」
「ア、アインズ様が悲しむぅ! そ、そんな! なんて恐ろしい! アインズ様を悲しませるなんて、そんな愚か者は私が許さないわ! あぁ~、アインズさまぁ、悲しまないで下さい。このアルベドが御傍に参りますから~」
静かに歩いてくるアウラの存在を完全に放り投げ、アルベドは自分の世界に入り込む。涙を流して悲嘆にくれるアインズ様を抱きしめ、慰めの言葉を囁きながら寝室へ誘導する己の姿を幻視しているかのようである。
「ちょっとアルベド~って聞こえてないか。あ~ぁ、森の調査結果を報告しに来たんだけどな~。他の情報と纏めてくれたら、アインズ様に報告するって口実で会いに行けるのにな~。仕方ないなぁ、私が直接――」
「――御苦労様、アウラ。早速だけど調査結果を教えてちょうだい」
想像より実利を取るのは流石に守護者統括と言うべきか。いや、愛する事を許されたナザリック唯一の女としては当然の振る舞いなのかもしれない。
とは言え、飢えた神獣よりギラギラしている危険な欲望を――瞳の奥に宿しているのはいただけないが……。
「はぁ、大丈夫かな~。……んっと、森の中を適当に探ってみたけど特に反応は無かったよ。アインズ様が言っておられたプレイヤーの気配も無し。って言うか、まともなモンスターが一体も居なくてつまんなかったなぁ。あれじゃ~、私の使役している魔獣の一番弱い子でも蹂躙できそうだよ」
「アウラ……。油断は禁物だってアインズ様も言っておられたでしょう? 現時点で脅威になりそうな存在が出てこないのは、此方を警戒しているからかもしれないわよ。まぁ、ナザリックに監視の目が向けられたら姉さんが教えてくれるでしょうし、そもそも探知系の魔法やアイテムは通用しないけどね」
アウラに油断大敵と説きながらも、玉座を愛おしそうに触れるアルベドの言葉は絶対的な自信に満ちていた。至高の御方々が――いえ、アインズ様が手に入れられた究極のアイテム、其れ等に護られたナザリック地下大墳墓は、何者にも穢されない難攻不落の拠点であると信じて止まないのであろう。
「それに……アインズ様に刃向うような輩が居ればこの私が……この力で……くふ、くふふふふ」
呆れ気味のアウラの前で、アルベドは手にした
先端に黒い球体が浮いているその
そして……理由すら聞こうとはしなかったのだ。
もちろん、アルベドが答えられないと判断しての事だろうし、タブラの思考を理解するのは不可能だと判断したからこそ、アインズは何も言わなかったのだろう。
だけど――アインズ様は全てを知った上で素知らぬ顔をしているのではないかしら?
アルベドには、愛すべき御主人様の深遠なる智謀を読み解くことは出来ない。自らの主人はあの日あの時、タブラが、アルベドが――何を成そうとしていたのか知っていたのかもしれない。
そう――アルベドは
決して許されるはずの無い、そのおぞましい行為を一部始終見ていたのだ。
「アルベド、どうかしたの?」
「いいえ、何でもないわ。アウラ」
心配したくなるアウラの気持ちもよく分かる。それ程までに、アルベドの気配はどす黒い怒りに満たされようとしていた。
あの時の事を思い出せば当然であろう。
アルベドの造物主、至高の御方の一人、タブラ・スマラグティナの所業を思い起こすだけで――ただそれだけで――
――タブラを殺したくて堪らなくなるのだ。
ナザリック勢は平常運転。
その中でもアウラは一筋の光、というか癒しですね~。
流石はぶくぶく茶釜様。
何処かのブレインイーターも見習ってほしいものです。
さて、次は其のくねくね触手野郎の登場であります。