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神戸ブランドを活かして(神戸紅茶株式会社)

今回は「神戸紅茶株式会社」にお邪魔し、代表取締役の下司善久氏にインタビューしました。

幕末の開港後に日本に紅茶が伝わり、当時港町として世界に開かれていた神戸にも早くから持ち込まれました。現在では神戸市が一世帯あたりの紅茶消費量が日本で最も多い都市であり、古くから神戸と紅茶にはつながりが存在しています。そんな中で、神戸ブランドと自社ブランドをうまく相互作用させてブランドイメージを向上させている同社についてご紹介します。

神戸紅茶株式会社紹介
創業大正14年。昭和32年には英国の大手紅茶メーカー「リプトン」から、日本で初めての国内生産の工場に指定され、昭和36年には日本で初となるティーパック自動包装機を導入しました。OEM(発注元企業の名義やブランド名で販売される製品を製造)による紅茶の卸売り専門でしたが、平成5年に自社ブランド「神戸紅茶」を立ち上げました。
http://www.kobetea.co.jp/index.php

徹底した高品質主義

―「神戸紅茶」の魅力はなんですか?

「1つ目に、日本に数人しかいない紅茶鑑定士によって、高品質な茶葉を選び、なおかつ日本の軟水で美味しくなるようブレンドしている点です」と下司氏は話します。一般的に海外の紅茶は硬水に合わせて作られており、同じ紅茶であっても日本で飲むと味が変わってくるということです。「日本の軟水でも美味しく飲める」という独自性を打ち出すことで対象市場を絞り込み、優位を築く集中戦略を行っています。さらに、アッパ-クラスのお店をメインに取り扱ってもらうことで、同社のブランドイメージを保つようにしています。

2つ目に、同社は高品質な茶葉を適正価格で販売できる点です。高い金額で売られている=良いものというわけではありません。お話を聞くと、小ロットでの買い付けにより単価が上がってしまい、同じ品質の茶葉であっても、同社で販売するよりも高く売られている茶葉も巷にはたくさん存在するそうです。一定数の茶葉を原産国から購入し、適正価格で良いものを買い付けできるのは老舗メーカーである同社の強みだと言えます。

3つ目に、一般的なティーバッグは紙を素材としたフィルターペーパーを使用していますが、コットン素材のフィルターも多く採用している点です。コットンを使うことで紙のにおいがつかないことや、抽出力が違うなどメリットがあり、高品質を保つために行っている取り組みです。

自社ブランドの確立

―OEM中心だった同社が、自社ブランドを立ち上げたきっかけはなんですか?

「もともと食品卸売業として『須藤信治商店』(平成18年現在の神戸紅茶株式会社に変更)を創業し、創業者の須藤が紅茶に造詣が深かったのもあり、昭和20年ごろに創業者のイニシャルをとって『NS紅茶』という初の自社ブランドを立ち上げました。その後平成5年100%子会社として『神戸紅茶』ブランドとして販売を始めるようになりました。」と、下司氏は語っています。

さらにOEMだといくつも卸売業者を挟むため最終的にどこで売られているかわからないので、商品の感想がなかなか聞けなかったそうですが、「自社ブランドを立ち上げてからお客様の生の声を聞くことができるという良い点があった」と下司氏は話しています。

―どうしてNS紅茶から神戸紅茶に切り替えられたのですか?

「NS紅茶だとブランド力が低く、一般の方になかなか認知してもらえなかったからです」当時、「神戸」と名が付く商品が売れていたこともあり、古くから神戸で紅茶を製造してきている同社であれば、「神戸」という名前を付けても問題ないだろうという判断をしたと話しています。

たしかに神戸といえば、港町でおしゃれな外国文化がたくさんあり、高級品のイメージがあります。洋風で、かつ昔から深いつながりのあった紅茶を連想することも可能でしょう。神戸紅茶がとる高品質主義の戦略も、「神戸」というまち自体が持っているイメージに上手くリンクし、相乗効果を生んでいるのではないかと感じました。

2010年、徹底した高品質主義が認められ神戸セレクションに認定され、神戸の顔として全国の神戸イベントに神戸紅茶も出展することにより、神戸のまちにも良い影響を与えています。

―OEM製品と自社ブランドの両立は難しそうですが、何か苦悩はありましたか?

「やはりお取引させていただいている企業の方と同じ市場になるので、邪魔をしないように、当初は百貨店・BtoBの業務店・生協の宅配のみと販路を絞り、一般店では販売していませんでした。しかしどこで販売されているのかというお客様からのお問い合わせが増えてきたので、取引企業とバッティングしないように気を付けて一般店でも販売を始めました」と下司氏は話します。今では売上のうちの約4割が自社ブランドによるのだそうで、両立に成功しているといえるでしょう。

若い人にもっと紅茶を知ってほしい…

―神戸紅茶の販売当時と今ではブランド戦略に変化はあったのでしょうか?
「実は最近パッケージがリニューアルしました。というのも紅茶を最も消費するのは40~60代の女性なのですが、若い女性にも飲んでもらえるような新しいパッケージにしました」
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また、40代~60代の女性は毎日ずっと同じ種類のものを飲む傾向がある一方、20代の女性は毎日の習慣ではなく、何かのときに生活のプラスαとしてそのときの気分で紅茶を選んで飲む傾向がある、と下司氏は言います。こういうこともふまえて、新パッケージももちろんのこと、小分けになっていて気分で選べる色々な味のセットなど、商品開発にも生かしているのだとか。

ただ良いものを作れば必ず売れる時代ではありません。まずは消費者のことを知って、その消費者が何を求めているのかを意識しながら良いものを作る、同社の心意気を感じることができました。
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インタビューを終えて

新ブランド立ち上げの際の成功のヒントが、NS紅茶から今の神戸紅茶になった経緯の中にはたくさんあると言えます。ブランドとは商品の中にあるのではなく、消費者の心の中にあるものです。神戸というおしゃれなイメージを活用し、さらにその神戸ブランドにふさわしい高品質な商品を扱うことで、お互いのブランド価値を向上させることができました。

「もっと多くの人に紅茶の魅力を知ってほしい」という下司氏。量販店では一部の商品しか置いていただけないため、直売店を作られたそうです。これからも老舗メーカーとして紅茶の魅力を伝え続けていくことが欠かせないと感じました。


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