この公演はエイズ知識についての啓発活動を行う「Act Against AIDS(AAA)」の一環で開催されたもの。桑田は「AAA」がスタートした1993年以来25年にわたって、ライブを中心に活動に携わってきたが、2020年7月末をもって「AAA」が終わることを受けて「AAA」コンサートおよび「ひとり紅白歌合戦」も終了する運びとなった。最終日となった昨日の公演は、ライブビューイングも行われ、全国各地のファンが最後の「ひとり紅白歌合戦」を見届けた。
オンタイムに場内が暗転すると、スクリーンに「第三回ひとり紅白歌合戦」のロゴが浮かび上がり、桑田による開会宣言がスピーカーから流れる。続いて、スクリーンに司会者が登場。総合司会者である“内村照代”に扮した桑田の紹介で、まずは岡晴夫の「憧れのハワイ航路」で最後の「ひとり紅白歌合戦」の幕が上がった。ダークブルーのスーツに身を包んだ桑田がステージに姿を見せると5000人のオーディエンスは大歓声をあげ、こぶしを効かせた弾むような歌声に合わせて手拍子をした。続いて桑田は、江利チエミ「テネシー・ワルツ」、ペギー葉山「学生時代」、坂本九「涙くんさよなら」と日本の高度経済成長期に愛されたナンバーをパフォーマンス。「学生時代」ではセーラー服と学生服を着た男女ダンサーが登場し、ノスタルジックな楽曲の世界に彩りを添えた。
ドレスアップしたバンドメンバーがステージに上がる中、桑田は「(ひとり紅白歌合戦は)5年ぶりでございます。最後まで皆さんと楽しむことができたら幸せでございます」と真摯に挨拶。「とにかく長いです! 2日間やって私もフラフラです。最後はどんよりでございます。最後の『ひとり紅白』参ります!」と冗談を飛ばしつつ、ザ・スパイダースの「あの時君は若かった」を皮切りに「グループサウンズVS昭和ビートガールズ対決」に突入した。このブロックで歌唱されたのは、ザ・ワイルドワンズ「想い出の渚」、ザ・テンプターズ「純愛」、ザ・ゴールデン・カップス「愛する君に」といったグループサウンズのヒット曲や、黛じゅん「雲にのりたい」や小山ルミ「さすらいのギター」などの女性歌手たちの懐かしいナンバー。ちあきなおみの「雨に濡れた慕情」を歌う際には、ちあきを彷彿とさせるような少し鼻にかかった声で切なく歌い上げ、その歌に先輩歌手へのリスペクトをにじませた。
弘田三枝子の「人形の家」の余韻が残る中、今度は「フォーク&ニューミュージック対決」へ。まずは、北海道胆振東部地震の被災者への思いを込めて、松山千春の「大空と大地の中で」と加藤登紀子「知床旅情」という北海道にまつわるナンバーが北海道の景色をバックにプレイされた。中村雅俊の「ふれあい」、山本潤子の「翼をください」の2曲を挟み始まったのは「音楽界のキングVSエンペラー対決」。桑田はレゲエ調のアレンジを施した吉田拓郎の「落陽」をエレキギターを弾きながら歌ったのち、井上陽水の「夢の中へ」をアコースティックギターをかき鳴らしながら軽やかに歌う。時代を飾ってきた曲を、それぞれのサウンドと歌詞の世界に合わせて歌い方を変える桑田の歌い手としての力量に観客は惜しみない拍手を送った。
中島みゆきの「地上の星」でドラマチックな空気を生み出したあと、桑田は退場。スクリーンには「第二回ひとり紅白歌合戦」にも登場した爆笑問題による時事ネタとブラックジョーク交じりのトークが上映され、観客を笑わせた。和やかなひとときを挟み、桑田がカラフルなジャケットをまとって登場。山本拓夫率いるホーン隊の豊かなアンサンブルに乗せて三波春夫の「世界の国からこんにちは」を歌唱する。2020年の「東京オリンピック」へと思いを馳せるように、歌詞の一部を「2020年のこんにちは」と変えて歌い、歌詞の中に「お互いにエイズを知ろう」と「AAA」のメッセージを盛り込んだ。その後、桑田は、水前寺清子の「三百六十五歩のマーチ」を力強く歌うと、沢田研二の「時の過ぎゆくままに」を情感たっぷりに歌唱するなど間髪入れずに懐かしい曲を届けていく。加山雄三の「ある日渚に」をパフォーマンスをする際には、観客1人ひとりに語りかけるようにしながら声を響かせた。
「おかげさまで長い間ありがとうございました。また新しい出会いを楽しみにしています」という言葉に続いて始まった「昭和歌謡大ヒット曲メドレー」では11曲をメドレーで歌いきった桑田。薬師丸ひろ子の「セーラー服と機関銃」では儚さをたたえた歌を聴かせ、梅沢富美男の「夢芝居」では三味線の演奏と女形の舞手による踊りを横にサテン地のスーツとサングラスという姿で情熱的なパフォーマンスを繰り広げ、山口百恵「プレイバックPart2」ではエレクトロテイストのアレンジをしたアンサンブルに乗せてクールに歌唱する。かと思えば、“ヅラ山田洋とクール・ファイブ”としてプレイされた「中の島ブルース」では、スクリーンにヅラを着用した5人の桑田と大泉洋がコーラスをする姿が。ユーモアをたっぷり盛り込んだ演出に会場は大盛り上がりとなった。
尾崎紀世彦の「さよならをもう一度」で「昭和歌謡大ヒット曲メドレー」が完結すると、今度は特別枠のコーナーに。桑田の「8時だョ!全員集合」の掛け声に合わせて、ハッピを着用した
一旦ステージを後にした桑田だったが、観客の拍手に迎えられて戻ってきたあとは小林旭の「熱き心に」やテレサ・テンの「つぐない」といった昭和時代の名曲をメドレーで歌唱。「このタイミングでやるのかよ!? 特典映像でいいんじゃないの対決」なるコーナーも設けられ、ここで桑田は楽しげに青江三奈の「伊勢佐木町ブルース」とアダモの「雪が降る」の2曲を披露した。いよいよ「ひとり紅白歌合戦」も佳境に入り北島三郎の「与作」を経て、“大トリ”として平成元年である1989年に亡くなった美空ひばりの「愛燦燦」がスタートする。桑田はかつての彼女を想起させるゴージャスな衣装をまとい、ゆっくりとせり上がりながら歌うというパフォーマンスに挑戦。慈愛に満ちた歌声に観客が酔いしれる中、「ひとり紅白歌合戦」は大団円を迎えたかに思えたが、ライブはまだ終わらない。客席後方からアントニオ猪木と内田裕也を模した巨大な人形が現れ、桑田がレフェリーを務める中で異種格闘技戦を開始。すると和田アキ子を模した巨大な人形がステージへ。さらに和田アキ子を模した人形が、アントニオ猪木と内田裕也の人形を張り倒して勝者に君臨する。そんな寸劇が繰り広げられたのち、桑田は歌手活動50周年を迎えた和田の代表曲「古い日記」をエネルギッシュかつソウルフルに熱唱した。
全55曲、約4時間のステージを終えた桑田は「25年間本当にありがとうございました」と「AAA」のコンサートを支えてくれたファンやスタッフに感謝の思いを伝える。そして、本当のラストナンバーとして「歓喜の歌」を共演者と観客と共に大合唱し、「第三回ひとり紅白歌合戦」を締めくくった。
なお「第三回ひとり紅白歌合戦」の模様は、12月25日(火)にWOWOWプライムにてオンエアされることが決定している。