1993年から始まったエイズ啓発のためのキャンペーン「AAA(Act Against Aids)」の一環として行われてきた桑田佳祐のコンサートは、サザンオールスターズやソロ活動の中では見えてこない音楽への造詣の深さや限りない愛情を具現化する興味深いものとなっていた。「ひとり紅白歌合戦」はすでに2008年と2013年にも行われている。彼は“大入り袋”を模した「ご来場のみなさんへ」の中でAAAの活動が2020年に終了することやエイズについて思うことを伝えつつ今回の公演をこう書いていた。
「戦後間もない時期から高度成長経済期を経て、80年代90年代~現在に至るまでの様々な日本のヒット曲を唄うことで、改めて我が国の大衆音楽の素晴らしさを再認識しようというテーマは変わりませんが、今年は平成最後の年であり「ひとり紅白歌合戦」も最終回を迎えるということで、より充実したステージになるよう全力で頑張ります。今宵は最後までごゆっくりお楽しみください」。
ともかく曲目を見てほしい。一曲目の「憧れのハワイ航路」は、1948年発表ーー。70年前の曲だ。二曲目の「テネシー・ワルツ」がアメリカで生まれたのも同じ年。日本でヒットしたのは1952年。敗戦国日本に夢と希望をもたらしたアメリカ文化への憧憬の象徴のような二曲。「学生時代」を歌ったペギー葉山は青山学院の先輩でありキャンパスには歌碑もある。桑田が去年の紅白で作者の浜口庫之助に扮して「涙くんさよなら」を歌ったことを覚えている人は多いだろう。まさに日本の大衆音楽の歴史の始まりと彼自身の思春期の音楽体験。それまで姿を見せていなかったメンバーがドレスアップして登場、ザ・スパイダースの「あの時君は若かった」から「グループサウンズ対昭和ビートガールズ」と一気に対決モードに入って行く。
それまでの日本の歌謡曲の中に“バンドと8ビート”という新しい要素を加えた「GSとビートガールズ対決」。ザ・スパイダース、ザ・ワイルドワンズ、ザ・ゴールデン・カップスに交じってミニスカートで踊りながら歌っていた天使たちの代表が黛ジュンと小山ルミだ。ちあきなおみと弘田三枝子の歌唱力は、その当時から群を抜いていた。
GSのブームは60年代後半。70年代になってからの新しい流れがその後の「フォーク・ニューミュージック対決」。松山千春と加藤登紀子の「北海道対決」は災害に見舞われた年末ならでのエールだろう。背景はもちろん北の大地と空だ。「音楽界のキング対エンペラー対決」は、まさかの吉田拓郎と井上陽水。原曲とは違うレゲエ調になった「落陽」は、様々なカバーのある中でもリスペクト溢れる絶品。裏テーマは「吉田拓郎対桑田佳祐」のように思えた。対照的に「夢の中へ」は一変したアコースティックギター。それぞれの曲の彼の中での受け止め方なのだろう。男性同士の対決の後はチェリッシュと中島みゆきという女性同士の意外性溢れる対決だった。
随所に織り込まれる遊び心。選曲と曲順の妙味。なぜこの曲を選んで、それをどう見せるのか。三波春夫の「世界の国からこんにちは」は2020年の東京オリンピックへの歌となり「エイズを知ろう」というメッセージも織り込まれた。「三百六十五歩のマーチ」は師走に向けた明るい応援歌だ。「まちぶせ」が三木聖子ではなく石川ひとみバージョンだったり地元の大先輩、加山雄三の曲が「ある日渚に」だったのもこだわりを思わせた。
日本の歌謡曲の面白さは洋楽と邦楽の混在と言っていい。洋楽の影響と邦楽的な要素と夜の盛り場。「セーラー服と機関銃」などをはじめとする「昭和歌謡大ヒットメドレー」は、そんな面白さのオンパレード。中でも三味線と女形とサテンのスーツという取り合わせの「夢芝居」やバニーガールが登場した「愛の水中花」はその真骨頂。「ひとり紅白歌合戦」ではおなじみのクールファイブのメンバー全員に扮して歌う“ヅラ山田洋とクール・ファイブ”は何と大泉洋が乱入して主役の座を奪うという“ズラ山田洋と大泉洋とクール・ファイブ”版へとバージョンアップされていた。
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