少子化を「国難」と形容した安倍晋三首相は今年10月の内閣改造で全世代型社会保障改革相を新設し、茂木敏充経済財政相に兼務させた。全世代型と称するからには消費税という国民負担をもっと賢く使う方法を考えてほしい。
全世代型の柱のひとつが幼児教育の無償化だ。2019年10月の消費税率の引き上げに伴い、増収になる5兆7千億円(平年度ベース)の一部を財源に充てる。経済界にも負担を求める。
社会保障給付は子育て世帯向けに比べ、高齢層向けが手厚い。これを是正することに異論はない。ただ、所得制限なしに3~5歳児の保育料を無償化するのは、高所得層の恩恵を大きくする。
まずは保育施設を増やすことに意を用いる必要がある。
財務省などによると、保育にかかるコストは保育士の配置基準が最も厳しい0歳児が利用者負担を含めて月20万円強、1~2歳児は12万円台だ。ここは発想を変え、望む父母が育児休業を取りやすい選択肢を増やしてはどうか。
政府が企業に補助金を出し、休業中の従業員の給料を減らさないようにすれば、父親も休みを取りやすくなる。政府の財源は無償化よりはるかに少なくて済む。保育士不足の緩和も狙える。
このような知恵と工夫が、育児の苦労を母親だけに負わせたり、長期休業が社内のキャリアアップの妨げになったりするのを改めるきっかけを生む。全世代型社会保障のモデルケースになろう。
負担面の改革も欠かせない。保険料と税財源の役割分担を明確にし、現役世代に偏る社会保障負担を高齢層に広げるべきだ。
働く世代の保険料で成り立っている企業の健康保険組合などから高齢者の医療財源を召し上げるやり方は、限界に来ている。消費税収など安定財源を充てるのが王道だ。安倍政権のあいだに税率10%の先の道筋をつけてほしい。
高齢者医療の窓口負担は70~74歳が20%、75歳以上は10%が原則だが、今後75歳になる人から20%に据え置く法改正を求めたい。年金については名目支給額を前年より減らさないルールを撤廃すべきときだ。団塊世代に「逃げ得」を許さない姿勢が大切である。
真の全世代型社会保障の実現には痛みを伴う。それを丁寧に説明するのが政治の使命である。
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