2012年に政権に返り咲いた安倍晋三首相にとって、日本経済の底上げはいまも変わらぬ重要課題だ。民間の活力を引き出す成長戦略の仕上げを急ぎ、今度こそデフレを完治させる必要がある。
金融緩和、財政出動、成長戦略の3本の矢からなるアベノミクスが、一定の成果をあげたのは間違いない。政権再始動と同時に始まった景気回復局面は戦後最長の73カ月に並び、日経平均株価はこの間にほぼ2倍に上昇した。
ただ、13~17年の実質成長率は平均1.2%にすぎず、景気回復の恩恵も広く行き渡っているとは言い難い。日本生産性本部の17年時点の比較によると、日本の1時間当たりの労働生産性は、経済協力開発機構(OECD)加盟36カ国のうちの20位にとどまる。
自律的な成長の基盤を固め、金融緩和と財政出動への依存から脱却するには、成長戦略のてこ入れが不可欠だ。安倍政権が実行した法人税減税や働き方改革、企業統治改革などは評価できるが、積み残しの課題は多い。
とりわけ重要なのは、産業の新陳代謝を高める施策だ。上場企業が事業の再構築などで稼ぐ力を高めた結果、18年3月期の純利益は2年連続で最高となり、自己資本利益率は初めて10%台に乗せた。
だが、「ユニコーン」(企業価値10億ドル以上の未上場企業)と呼ばれるスタートアップ企業は小粒で、数も少ない。企業の開廃業も総じて停滞しているといわれる。
成長分野に人材や資金が集まる流れを太くしたい。雇用の流動性を高め、企業の参入・退出を促す構造改革をもう一歩進めるべきだ。事業の障害になる法規制を一時的に停止する「サンドボックス」の活用も有効である。
第4次産業革命とも呼ばれるデジタル技術の革新を取り込み、成長の糧とする努力も必要だ。安倍政権が未来投資会議で検討しているデジタル政府やオンライン医療、フィンテックの推進などを早急に具体化してほしい。
日本の成長に資する自由貿易圏の拡大も忘れてはならない。米国を除く11カ国の環太平洋経済連携協定(TPP11)は30日、日本と欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)は19年2月に発効する。これに続く東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉妥結を急ぐべきである。
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