日本人の2人に1人がなると言われるほど、身近な病気になった「がん」。近年、新たな予防法や治療法などの研究が進められている。今回は、二次予防である検診や、今年のノーベル医学生理学賞で脚光を浴びた「免疫療法」について、元厚生労働大臣で三重大学名誉博士の坂口力さん=写真=に話を聞いた。

――坂口さんは、厚生労働大臣として初めてマンモグラフィ検診を市町の検診に導入されました。大きな転換だったと思います。どのような経緯でしたか

坂口 特に女性議員の方々からの要請がありました。当時は非常に検診率が低く、何とかしなければと思っていたこともあって、これは良いのではないかと。ただ、がん検診は市町村が行っており、予算の関係でマンモグラフィという高額な機械はなかなか導入できないところがありました。国の予算が付き、全体に行き渡るようになるまでには数年かかりましたね。マンモグラフィへの理解にも時間がかかっています。

――今では多くの人がマンモグラフィ検診について知るようになりましたが、いまだに検診率は低いままです

坂口 それは乳がんに限らず、がん検診全般に言えることです。自分はがんにならないと思ったり、がんが見つかるのが怖いといったりすることもあるようですが、やはり検診でがんを見つけた方が良いのです。

――治療法に関しては、今年のノーベル賞受賞で免疫療法が広く知られるようになりました。「免疫」についてお聞かせください

坂口 人が感染症から守られ生きていけるのは免疫力があるからです。体に細菌やウィルスが入ってきた時、免疫力がなければ負けてしまう。がん細胞についても私たちの体は免疫力があればそれを殺すし、がんは大きくなりません。また、手術をするにしても、どんな薬を使うにしても、がんをやっつける力が回復してこないといけません。ですから私は免疫力を高めることが基本だと思っています。免疫力は、年齢とともに落ちますし、ストレスでも落ちるものです。

――免疫療法については、がん治療への新しい道が開けたと言われていますが、一方で免疫療法への注意を促す情報も多いです

坂口 がん治療には手術、抗がん剤、放射線療法という手段がありますが、この3つとも免疫力を下げます。そうすると、手術でがんを取り除いてもまたなりやすくなる。免疫療法で補えば抗がん剤が使える期間も長くなります。補完医療としても有効なのです。免疫療法について、ノーベル賞を受賞した本庶佑教授の方法以外は「科学的根拠がない」として非難する人がいますが、その「科学的根拠」とは薬が効くか効かないかを判断するもの。薬は人の体にはないものですが、免疫は元々人の体の機能として持ち合わせているものなので、同じように考えるのは間違いの元です。米国では西洋医療にプラスした代替医療や伝統医療、例えばマッサージ、鍼灸、ヨガ、瞑想療法などの研究を重ねています。結果、米国はがんの死亡率を下げてきている。でも日本は上がりっぱなしです。
 免疫療法については、免疫細胞を活性化させる方法は、必ずしも同じようにうまくいくわけではないことが指摘されています。この点については今後の更なる研究が必要です。免疫を高める必要性は誰でも納得できることですから、さまざまな情報についてしっかり勉強することが大事です。

――そのようなお考えは、ご自身ががんを経験されたことによるのでしょうか

坂口 厚生労働大臣を辞めてから大腸がんになりました。ストレスが免疫力を下げたのかもしれませんね。手術をし、免疫療法をしました。余命3年と言われましたがもう10年になります。自分自身、患者となった経験を踏まえ「免疫の力でがんを治す会」を立ち上げ全国で話をしています。

――免疫についての考え方はがん予防にもつながりますか

坂口 その通りです。日々の生活を支えてくれているのが免疫です。年齢とともに落ちますから、高齢になるほど配慮しなければなりません。ストレスをどう解消するのか、免疫を高めるにはどうすれば良いのかなど考えることは大切です。

――免疫療法の今後に関してはどうでしょう

坂口 更に進んでいくでしょう。現在、「光免疫療法」が研究されています。NIH(米国国立衛生研究所)の小林久隆主任研究員が開発したもので、近赤外線をがん細胞にあてて消滅させるというものです。治験も進んでいるので期待したいですね。

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