全面禁止令は
連帯責任を増長する
これらの全面禁止令は、手間がかからない。経営側は「手っ取り早く全面禁止してしまえば、リスクを回避することができる」と、安易に考えていないだろうか。規制を発令して通知して、違反していないかの管理をすればよい、と。しかし、規制管理の代償は大きい。管理する必要のない人までも管理せざるを得なくなるからだ。そのことによるパフォーマンス低下の影響は甚大だ。
問題を起こしておらず、今後も起こす可能性が極めて低い大多数のメンバーをも規制してしまうことにもなりかねない。台風接近のケースで言えば、台風の影響を受けていない路線の社員まで帰してしまうことになる。また、病院のケースでは、全面禁止にまじめに従っていれば、いまわの際にある入院患者が、意識があるうちに親族と話をするという、重要な機会を奪うような事態になる可能性だってある。
規制を受ける側も、全面規制に慣れきってしまって、「台風なので、早く帰りたいので、一斉帰宅の全社通知を早く出してください」などという依頼が人事部長に寄せられたりする。全面禁止は、連帯責任を増長し、一斉通知がないと行動できない社員を増やしてしまうのだ。
航空会社は、乗務前の飲酒禁止期間を定めたり、飲酒の限度を厳格にしたりして、違反した際の罰則を強化している。そのような個別対応にとどめて、全社員に禁酒令を出すことを思いとどまることができないだろうか。
都庁は、健康状態や勤務状態を個別に把握し、全庁一斉消灯をしないという判断ができないだろうか。また、企業の人事部長は、全社員に帰宅命令を出すかわりに、「個別の帰宅通路と天候情報を考慮して、各自で判断して帰宅してください」という個別対応を促すことができないだろうか。
病院は、インフルエンザの時期であっても、見舞いが貴重な機会だと判断される親族に対しては、検温や必要に応じてインフルエンザ検査を行って、問題なければ見舞いをさせるという方法をとり、全面的な入室禁止に踏み込まないという決断ができないだろうか。
例外なく患者の病室に入ることを禁止していた病院の入院患者の親族は、ここで帰っては、もう話すことは永久にかなわなくなるかもしれないという強い胸騒ぎがして、病院に強く掛け合った。そして、面会が許され、意識があるうちに話ができたという。全面禁止ではなく個別対応の方針を、経営者や人事部は考えるべきだ。
もちろん、飲酒して乗務することを認めるような個別対応はあってはならない。ただ、十分にルールを守っている乗務員にまで全面禁止しないという個別対応をすべきなのだ。個別対応の煩雑さを嫌って、安易に全面禁止を連発するようでは、経営者は十分な責務を果たしているとは言えない。