番外926
――迷宮の新区画を見学してから数日後。
冥府調査のための仕事は順調だ。今日は工房で仕事を進めていたが、特別製のシーカーとハイダーが完成を迎えようとしていた。
基本構造は通常のシーカー、ハイダーと同じではあるが、冥府に縁のある者達の属性を付与した魔石を内部に組み込んでそこに術式を刻む。その過程で寓意を込めて双子に見立てるわけだな。
魔石を埋め込む位置を鏡映しの左右対称にする事で特別製のシーカーとハイダーを一組のものと位置づける。祭壇の側面にも同様にシーカーとハイダーの魔石の位置と同じように魔石が配置される事になるな。
「これで良し、と」
諸々の確認を済ませてから、シーカーとハイダーの背中にウロボロスを翳してマジックサークルを展開。起動を行うと二体が同時に動き出す。テーブルの上で短い手足をちょこちょこと動かし、こちらに振り向いてお辞儀をしてきた。
その一挙手一投足に至るまでがシンクロするように同じ動きだ。五感リンクで互いの事を感じ取れるから、それを使って動きを同調させているわけだな。
「どうやら、起動も問題ないようだね」
「こんにちは」
「双子仲間だね。よろしくね」
俺の言葉を受けてカルセドネとシトリアが前に出て握手を求めると、二体もそれに応じる。短い両手を伸ばしてカルセドネとシトリアの指先を握り、そのままお互い軽く上下に振っていた。
「ふふ、よろしくお願いします」
みんなもそんなやりとりにくすくすと笑ってシーカー達と握手をしていた。セラフィナとリヴェイラと握手をする時はサイズ的にも丁度良いぐらいだろうか。
「さて。それじゃ起動試験と行こうか」
二枚の水晶板モニターを用意する。
水晶板はシーカーとハイダーの視覚と聴覚に対応しており、見たもの聞いたものを映像と音声として中継できる――というのは今まで通り。
シーカーが蹲るようにして両手で目を覆い、ハイダーの方が周囲を見回すと、水晶板には全く同じ映像が映し出された。
双子の感覚同調という奴だ。映像と音声の中継機能も補強されているが、それは副次的なもので、こういう事も出来る、というだけの話である。
現世と常世を跨いでもしっかりと縁で繋げるというのが目的だからだ。
「そう言えば、これでシーカーとハイダーのどっちを常世側に配置しても問題ないんじゃない?」
アルバートが尋ねてくる。
「そうだね。同調能力を使えば潜航能力も偽装能力も、優れた方に合わせられると思う」
消費魔力を抑えて効率的な運用をするために、シーカーは潜入能力に特化、ハイダーは偽装能力に特化してそれぞれ役割分担をさせているのだが……改造型は魔力量が増えている上に双子の同調機能があるので潜入調査と定点監視、どちらの任務もこなせるはずだ。
魔石が組み込まれて魔力量が増えた分だけ隠蔽魔法も出力を上げないといけなくなったから、魔石の容量が増えているのに稼働時間の面では従来とあまり変わらない点に注意が必要だ。
「改造型のシーカーとハイダーと言っているけれど、ここまでくると結構別物よね? 改めて、新しく名前を付けてもいいのではないかしら?」
ステファニアが顎に手をやって言うと、改造型の二体がこちらを見てくる。
「んー。そうだな。それじゃジェミニマーカー……っていうのはどう? 個別の名前は元がシーカーの方がノーズ、ハイダーの方がサウズで」
マーカーというと筆記用具のようでもあるが……この場合は目印や標識の意味だ。目印となる者という意味で、縁を結んで片割れの場所に案内する役割になぞらえた。
両者とも能力的な違いはもうないのと同じだし種類を区分する意味もあまりないが、個別の名前はあった方が良いだろう。
ノーズとサウズは磁石のN極、S極になぞらえたもので互いに引き合うようにという意味を込めたものだ。
磁石のN極、S極はノースとサウスの頭文字なので言葉の由来は方角と同じだけれど。
「良いお名前ですね。可愛いらしくてぴったりです」
エレナが表情を綻ばせ、ノーズとサウズもお礼を言うようにお辞儀をしてきた。うん。
さて。シーカーとハイダーの改造についてはこれでいいとして。
「祭壇もほぼ出来上がっているから、後は測量用の魔道具だね」
アルバートもノーズとサウズの様子に表情を緩めていたが、意識を切り替えたのか、予定を確認するように言った。
「基本形は出来上がっているから、後は機能の確認かな」
測量機については空気や水、地面、それに環境魔力からサンプルを採取して分析する役割を持つ。現世の者が常世に向かった場合の肉体的、魔力的な影響を調べる必要があるからだ。見た目としてはノーズとサウズでも扱えるサイズの四角い物体になるだろう。サンプルを収納するので少し厚みのあるタブレット型といったところだ。
常世に送ってサンプルを採取した後、現世へ召喚術で戻す、という手順になるから、単純な機能ながらもそこそこ高度な術式が使われている。
「後は着替えや食料の準備ですね」
「魔法の鞄は中身を取り出しておいたわ。冥府で活用して頂戴」
アシュレイの言葉を受けてローズマリーが机の上に魔法の鞄を置いた。
「ん。ありがとう」
魔法の鞄は色々利便性が高いので上手く活用させてもらおう。そんな調子で準備は順調である。
「さて。それじゃ予定通りにかな」
「うん。テオ君達が戻ってくる頃には仕上がってると思うよ」
俺の言葉に、アルバートが笑って応じた。
リヴェイラは自分が流れて来た事であまり迷惑をかけたくないと思っているようだし、行動も自粛しているようだからな。
ともすると自室に篭ったりしてしまいかねないので街中の移動の際は同行させたり、迷宮の新区画に案内したりもしたが……それはあくまで仕事のついでに同行してもらっているというのが近い。気晴らしというかもう少し交流の時間は持っておいても良い。
冥府調査の必要が出てきた事もあって俺もみんなと一時的にとは言え、別行動する事になってしまう。みんなと一緒にのんびりする時間を作っておきたい。
それにユイも……修業に力を入れるのは感心するし結構な事ではあるが、頑張り過ぎても何なので肩の力を抜く事も必要だ。
そういった理由から、冥府調査の進捗が順調であるならば、少しばかり仕事とは無関係の息抜きをしてみようと提案したのだ。
「それは良いですね。ユイさんは東国に行きたがっていたようですが」
「うん。鬼の里にも顔を出して見るのもいいかもね」
といったやり取りを交わしていると、ユイの修業の為に訪問していたゲンライも乗ってきた。
「そういう事なら、儂らも弟子を連れてヒタカに向かうというのも悪くないのう。鬼の里の者達と、弟子達の縁も作ってやりたい所じゃからな」
との事だ。タームウィルズ経由で行き来がしやすくなっているという事もあり、使用許可さえ下りれば結構気軽に国外を訪問できる環境があるからな。
少し前にボルケオール達を連れてマヨイガの所に遊びにいったが、まあ居心地の良い場所だし、妖怪達も気の良い面々なのでユイやリヴェイラにも楽しんでもらいたい所だ。
そんなこんなで俺達は東国に出かける、という事になっている。
旅支度もしているし、冥府調査の前にみんなとのんびり英気を養わせてもらう予定なのだ。
それに……ユイはフォレスタニアやタームウィルズの外をあまり知らない。異国の空気の違いを経験しておくというのも重要だろう。
リヴェイラの事もそうだ。記憶がないからこそ、一緒に過ごす時間を作っておいた方が良い。仮に記憶が戻った時に利害が一致しなかったとしても、それで必ずしも関係性を険悪なものにする必要はないはずである。
交流して互いの人となりを知っておけば、いざという時に歩み寄ったり落としどころを模索する事もできるだろうしな。
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