神奈川新聞と戦争(77)1941年 防空遂行の“根性論”

「勝手な準備罷りならぬ」「代用品でもいゝ」などと記した1941年10月3日の神奈川県新聞

 防空を巡る話題は日中戦争下、新聞の定番だった。本紙の前身である神奈川県新聞の1941年10月3日付紙面には「県民心得べし/これが防空鉄則だ/勝手な準備罷(まか)りならぬ」と題した記事が掲載された。防空への熱意は結構だが、認識不足から「勝手気儘(きまま)な施設」が多い。それで県当局が「正しい準備の細目」を指南する、との内容だ。

 ▽警防団、隣組防火群▽防火施設▽防毒施設▽防空壕(ごう)▽救護設備▽食糧▽避難退去▽防空宣伝-の項目ごとに、政府の指示に基づいた「細目」が解説された。

 「防火衣は(略)色も何色でもいゝ、要は火事を消す事で服装の統一を図るのが目的ではない」「街頭で販売するインチキ防毒具は絶対に購入せぬこと」など一見、県民の利益を考えた注意喚起のように読める。

 だが、記事の主眼はそこではなかった。

 例えば次の記述には、物不足の戦時下に「民防空」を遂行するための“根性論”が表れている。防火水槽は「無理にこの設備を行はぬ」。バケツは「なければ手桶(おけ)洗面器等代替品でも差支へない(バケツは配給されぬ)」。防火衣は「古着を仕立て直した」物でよい-。古着に防火機能など、あるはずないのに。

 消火活動に使う「火叩(はた)き、柄杓(ひしゃく)、縄、シャベル、蓆(むしろ)、竿(さお)等」は配給されないため、なければ「古布団、炭俵等」でよいとされた。

 火叩きは、縄の束を棒の先に結わえ付けた、はたき状の物。むしろは、地面に落ちて火を噴く焼夷(しょうい)弾にかぶせる。シャベルは焼夷弾をすくって投げ出すのに使う。あまりに原始的で乱暴だが、そんな器具さえ配給されず、各自に調達が求められた。袖見出しには「代用品でもいゝ・要は空を護(まも)り火を消す事だ」。

 一方で、物不足の不安から買いだめに走る人々には機先を制した。「厚生省で万全の準備を整へてゐるから各家庭ではヨードチンキ等の薬品や其(そ)の他の衛生材料を勝手に購入しないこと」「(食糧は)充分に貯蔵してゐるから何処の家庭でも買溜(かいだめ)の必要はない」

 そして、記事は「避難退去」の項で、こう宣告するのだった。「政府は各市町村民の退去を認めず、退去者には食糧の配給を行はぬことになつてゐる」

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