神奈川新聞と戦争(77)1941年 防空遂行の“根性論”
- 神奈川新聞と戦争|神奈川新聞|
- 公開:2018/09/20 13:00 更新:2018/09/20 14:13
「勝手な準備罷りならぬ」「代用品でもいゝ」などと記した1941年10月3日の神奈川県新聞
▽警防団、隣組防火群▽防火施設▽防毒施設▽防空壕(ごう)▽救護設備▽食糧▽避難退去▽防空宣伝-の項目ごとに、政府の指示に基づいた「細目」が解説された。
「防火衣は(略)色も何色でもいゝ、要は火事を消す事で服装の統一を図るのが目的ではない」「街頭で販売するインチキ防毒具は絶対に購入せぬこと」など一見、県民の利益を考えた注意喚起のように読める。
だが、記事の主眼はそこではなかった。
例えば次の記述には、物不足の戦時下に「民防空」を遂行するための“根性論”が表れている。防火水槽は「無理にこの設備を行はぬ」。バケツは「なければ手桶(おけ)洗面器等代替品でも差支へない(バケツは配給されぬ)」。防火衣は「古着を仕立て直した」物でよい-。古着に防火機能など、あるはずないのに。
消火活動に使う「火叩(はた)き、柄杓(ひしゃく)、縄、シャベル、蓆(むしろ)、竿(さお)等」は配給されないため、なければ「古布団、炭俵等」でよいとされた。
火叩きは、縄の束を棒の先に結わえ付けた、はたき状の物。むしろは、地面に落ちて火を噴く焼夷(しょうい)弾にかぶせる。シャベルは焼夷弾をすくって投げ出すのに使う。あまりに原始的で乱暴だが、そんな器具さえ配給されず、各自に調達が求められた。袖見出しには「代用品でもいゝ・要は空を護(まも)り火を消す事だ」。
一方で、物不足の不安から買いだめに走る人々には機先を制した。「厚生省で万全の準備を整へてゐるから各家庭ではヨードチンキ等の薬品や其(そ)の他の衛生材料を勝手に購入しないこと」「(食糧は)充分に貯蔵してゐるから何処の家庭でも買溜(かいだめ)の必要はない」
そして、記事は「避難退去」の項で、こう宣告するのだった。「政府は各市町村民の退去を認めず、退去者には食糧の配給を行はぬことになつてゐる」