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NFMI型なら水中でも使える

 3番めのNFMI型では、スマートフォンとは左右のイヤホンのどちらかがBluetoothで通信するが、イヤホン間通信にはNFMIという通信技術を用いる。Bragi社がまず採用(図5)。その後、最近になって他のメーカーも続々と使い始めた。当初バイパス型を採用したEARIN社も、近く発売する第2世代品「EARIN M-2」ではNFMI型に切り替えた。

図5 「THE DASH」は左右が半ば独立に動作
Bragi社の「THE DASH」の分解結果。2枚の基板の4面をフルに用いて部品を高密度実装している。左右の基板上の部品構成は、メモリーとInvenSense社のセンサー、小さなチップ2個以外はほぼ同じ。左右のイヤホンにそれぞれQualcomm社のBluetoothの通信ICを実装した上で、さらに左右のイヤホンを電磁誘導でつなぐNXP社のNFMIのICやコイル状のアンテナも実装している。右イヤホンにはInvenSense社の9軸センサーを用いているが、左イヤホンは同社の6軸センサーを用いている。ICの製造元は本誌推定。(分解・解析協力:フォーマルハウト テクノ・ソリューションズ)
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 NFMIは補聴器で利用されてきた、電磁誘導に基づく通信技術。長所は、Bluetoothや無線LANなどの電波と競合しない点や、人体や水による吸収がほとんどない磁界中心の無線であるため、水中でも利用できる点だ注4)

注4)NFMI送受信ICを提供するNXP社は、NFMI無線の人体への吸収率(SAR)は「Bluetoothの1/100」(同社)だとする。

 NFMI型を採用したBragi社のTWSイヤホン「THE DASH」では、右イヤホンに東芝製の4GバイトNANDフラッシュメモリーを実装。音楽再生時は、NFMI通信で左イヤホンにデータを転送するもようだ。こうすると、水中を泳ぎながらでも音楽を聴ける。

今後のハイレゾ対応には課題

 一方、NFMIには課題もある。1つは、アンテナである電磁誘導コイルが比較的大きいことだ。例えば、Bragi社のTHE DASHに採用されたコイルの寸法は5mm×6mm×2mm(図5)。現時点ではNFMI送受信ICもBluetoothのICとは別に必要で、Rowkin社やErato社並みの世界最小級のTWSイヤホンでの実現はスペース上難しそうだ。

 もう1つの課題は、オランダNXP Semiconductors社の仕様ではデータ伝送速度が596kビット/秒と、やや遅いことである。最近登場したBluetooth向け広帯域コーデックである「aptX HD」や「LDAC」をフルに使うには帯域が不足する可能性がある。ただし、ステレオの左右どちらか一方の信号を送れば解決しそうだ。

aptX HD=元英CSR(現Qualcomm)社が開発したBluetooth向けのオーディオ符号化方式(コーデック)の1つ。既に普及が進んでいる「aptX」に比べて、より高いサンプリングレート、または高い解像度の音楽信号を伝送できる。例えば、aptXが44kHz、16ビットの信号に対応して352kビット/秒で伝送するのに対し、aptX HDでは48kHz、24ビットの信号(576kビット/秒)も伝送できる。
LDAC=ソニーが開発したBluetooth向け広帯域オーディオコーデック。最高で96kHz、24ビットの音楽信号を伝送できるが、最大996kビット/秒の帯域が必要になる。Bluetoothの標準コーデックであるSBCと異なり、周波数領域で量子化する。人間の聴覚には聞こえないとされる成分も、解像度は下げるものの削らずに伝送する。これまではソニー製と他2社の製品だけの対応だったが、次世代Android OSの「Android O(8.0)」でオプションとして採用された。今後は対応製品が急増する可能性がある。