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【社会】入管法改正 日本語苦手な在留日系ブラジル人 「仕事奪われる」募る危機感
外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法などの改正には、既に在留資格を持つ日系ブラジル人が危機感を募らせている。これまで日本語を話せなくても定住が認められ、単純労働にも就いてきたが、新資格で一定の技能と日本語を備えた外国人が来れば「仕事を奪われかねない」と警戒。日本語学習を後押しする動きも始まっている。 (井上靖史) 「群馬とブラジル人は切り離せない。日系の子どもに日本語をしっかり教えたい」「建設現場で働いてほしいけど、日本語を話せないと難しい部分がある」 今月上旬、群馬県大泉町の東武小泉線西小泉駅近くにある複合商業施設ブラジリアンプラザ。日系ブラジル人や日本語教室の主催者、日系人を雇っている企業の経営者ら十人ほどが集まり、意見を交わしていた。 呼び掛けたのは横浜市鶴見区の日系ブラジル人三世で会社員の橋本秀吉さん(55)。福岡県から一九一四年にブラジルに移住した祖父母を持ち、来日して約三十年になる。 新たな在留資格の創設を見据え、今秋からブラジルや日本のビジネスマンや住民が、さまざまな課題を話し合う会議を開催。住民の18%を外国人が占める大泉町と、多文化共生の取り組みに積極的な鶴見区で月一度、テーマ別に開いている。 これまで日系人は必ずしも地域に溶け込めてきたわけではなかった。国は生活支援を自治体に丸投げし、「共存」の模索は今も続く。大泉町を含む全国十五の市町でつくる「外国人集住都市会議」は十一月、「共生施策を伴わない外国人材の受け入れ拡大は地域に大きな混乱を招くことを私たちはこれまで経験してきている」とつづった意見書を政府に提出。とりわけ全ての外国人が日本語を学べるよう、公的な仕組みの確立を切望した。 経営する工業部品製造工場などで日系ブラジル人を多数雇う「アバンセホールディングス」(愛知県一宮市)代表の林隆春さん(68)は大泉町の事情にも明るく、「言葉が分からないから仕事に就けず、税金も納められずに地域で浮いている人は少なくない」と指摘する。会社に貢献してもらった謝意から、ブラジルに恩返ししたいと会議に参加。「一定の日本語力と技能を持った若い外国人が入ってくれば日系は駆逐される。ますます困窮することにもなりかねない」と懸念する。実際、シャープの亀山工場では今年二月以降、日系人約二千九百人が雇い止めされる事態も起こっている。日系人を取り巻く環境は厳しさを増している。 会議では、林さんの親族がブラジルで日本語教室を今年から始めたことや、群馬県の地銀の元行員が無償で日本語教室を始めたことなどを報告した。 橋本さんは「日系ブラジル人は四十~五十代も増え、高齢化も迫ってきた。将来、多くの人に支えてもらうためにも地位向上に向け頑張らないと」と話す。 <国内の日系人> 1990年施行の改正入管難民法で、日系2世と3世に定住資格が認められ、日本人移民の多いブラジルやペルーなどから「デカセギ」のため多数来日した。4世は簡単な日常会話の理解などを条件に就労可能な最長5年の「特定活動」の在留資格が今夏から認められている。公益財団法人海外日系人協会によると、日本に住む日系人は約25万人(2017年現在)。
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