モモです! 外伝集   作:疑似ほにょぺにょこ
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めりーくりすまーす!というわけで、メリクリ短話をお送りします。

ホクト様『モモンガ』『ナザリック』『クリスマスパーティ』です!

ホクト様ありがとうございまーすっ!ひゃっほう!


メリクリ単話 甘い毒<ユメ>

「──さん。──ガさん」

 

 夢。そう、夢だ。緩やかに揺蕩う浮遊感。現実であって現実ではない幻想感。優しき闇の中に微睡む俺の名を誰かが呼んでいる。

 

──モモンガさん、と。

 

「はいっ!?」

 

 まるで弾かれたように一気に意識が覚醒する。今現在、俺の事をモモンガと呼ぶものは居ない筈だというのに。誰かが俺をモモンガと呼んだのだ。そう認識したと同時に俺は一気に起き上がっていた。

 

「もーモモンガさん。寝落ちですか?仕事で疲れてます?」

 

 ふら付く頭を軽く振り、ゆっくりと周囲を確認する。お尻に感じる柔らかい感触。腕に感じる硬い感触。起き上がった勢いで見えた天井から下がる豪奢なシャンデリア。視界が下りるに連れて見えてくる巨大な扉と壁。そして巨大なテーブル。そして──

 

「ぺロロンチーノ様、モモンガ様はここナザリックが為に日々の度重なる実務に邁進しておられます。アンデッドである身とはいえ、心身共に疲弊しても致し方ないと愚行致しますわ。えぇ、日頃遊んでおられるぺロロンチーノ様と違って」

「ひどっ!アルベドちゃんそれはないんじゃない!?」

「まぁ馬鹿弟が日頃からぐだぐだしてるのは良いとして──」

 

 ここはどこだ。

 ここは円卓会議場だ。しかし皆が居なくなり、俺と配下の皆があの世界に飛んでからずっと使って居なかった場所だった。だというのに、どういうことなのか。

 

 俺の視界に映るは懐かしき皆だったのだ。

 俺の事をモモンガと呼ぶ皆が一堂に集まっているのだ。いや、それだけではない。俺の後ろにはアルベドとデミウルゴスがいつもの様に控えており、ぺロロンチーノさん達と普通に会話している。

 

「これは──夢なのか──?」

 

 まるで己が願望を投影したかのような現状に、現実味が全く湧かないのは仕方のない話だろう。しかしそれをあざ笑うかのように、まるで本当に皆がそこに居るかのように俺の言葉に反応している。

 

「やはり内政実務の割り振りを考え直した方がいいのではないか、デミウルゴス」

「はっ!それにつきましてはアルベドと共に協議を行いましたが、至高の御方々皆様はそれぞれ能力が特化し過ぎてしまっており、むしろモモンガ様の足を引っ張る可能性が高いという結論が出ております」

「アルベド、私の方にもう少し仕事を回してもらっても良いと思うのだけど」

「いえタブラ様、タブラ様にはして頂かなければならない仕事がございます。現状としましては──」

 

 俺が疲れている事に眉を顰め、デミウルゴスと話すウルベルトさん。タブラさんとアルベドも、ぺロロンチーノさんとシャルティアも。皆が話し、動いている。

 

(もしこれが夢ではないとするならば、俺は『皆と一緒に飛ばされた世界の俺』と一時的に入れ替わったと思うのが妥当なのか?)

 

 そう、あくまで一時的なもの。これが夢にしろ現実にしろ、この状態が長く続くとは思えない。いや、思ってはいけない。いずれ、戻らなければいけない。

 

(まぁ戻り方も分からないんだから今は現状を受け入れて動くしかないんだけどね)

「すまない、皆。少しばかり寝ぼけていたようだ。会議を続けるとしよう」

 

 努めて冷静に、いつものように皆に話しかける。だというのに、皆の反応がおかしい。いや、明らかに呆然とした顔で俺の方を見て居る。ほんの数秒前まで騒然としていたというのに。

 

「やだ、モモンガおにいちゃんっばイケメン──」

 

 ぽつり、と言葉を漏らしたのはぶくぶく茶釜さんだろうか。視線を向けると、スライムの身体で器用に手を口元──とはいえ本当に口があるのかは分からないが──に持って行き驚いた表情をしていた。

 

「落ち着いてしゃべると随分と威厳が出ますね、モモンガさん。いや、そちらの方がずっといいですよ」

「ここアインズ・ウール・ゴウンの長としての意識が芽生えた、と思って良いのかもしれないね」

「いやいや、俺としては『ちょ、ちょっと皆さんもうちょっと落ち着いて──』ってあたふたしてるモモンガさんの方が良いと思うな」

「モモンガさん、ちょっと格好良く見せたとしてもアルベドとの結婚は認めませんよ?」

「いやですわ、タブラ様。私の身も心も。既に全てがモモン様のモノです」

「えっ──あっ──いや、ちょっと待って下さいよ!」

 

 確かにユグドラシルに居た時は今の様に精神の鎮静化などおきるわけもなかったので結構慌てることも多かったけれど、今は結構沈静化が起きるお陰で冷静に話すことが出来ていた。しかしこちらの俺はそうではなかったのだろうか。少し慌てた感じで皆を止めようとすると『どっ』と笑いが起き、『やっぱりいつものモモンガさんだ』と皆が口を揃えて言い合って居る。

 どことなく懐かしい。どことなく悲しい。もう二度と戻らぬ日々が走馬灯のように脳裏に蘇る。

 皆に釣られて笑う俺の心は、やはり現状を受け入れ切れては居ないようだ。

 

「さて、モモンガさんの笑いもとれたことだし今回の議題『クリスマスパーティー』について話し合っていこう」

「はいはーい。クリスマスといえばやっぱり巨大な木でしょ。あんちゃんやまちゃんにうちの子たちが居れば超でかいの持って来れるし。ね、アウラ、マーレ」

「勿論です、ぶくぶく茶釜様!」

「は、はい。任せてください!」

「んじゃ、付近に強そうなのが居たらとりあえずぶん殴る方向だね」

「食べられそうなのが居たら持って帰ってペストーニャと料理しちゃおうかな。美味しそうなの居るかなぁ」

「あ、試し斬りに付いて行ってもいいですか?」

「建御雷さん行くんだ。じゃ、俺も行きます。ぶくぶくさんも居るんだしワールドエネミーでも湧かないかなぁ。あ、ぬーぼーさんも行きませんか?」

「行きます行きます。この世界でも熱素石とか面白いもの見つかるかも」

「え、ちょ。木を持って帰るって話なのに、いつの間にそんな話になってんのよ!」

「では飾りつけは──」

「場所は──」

「じゃ、今から設置しに行ってきますね」

「誰かるし★ふぁーさんを止めろぉぉ!!!」

 

 いつもの様にいつもの如く。いや、あの時と同じように。皆が意見を出し、ぶつかり合い、一つに集まり、物事が決まっていく。アインズ・ウール・ゴウンとしての本来の姿がそこにあった。いや、俺の理想とするアインズ・ウール・ゴウンがそこにあったのだ。

 

(あぁ、これは毒だ──)

 

 甘い、甘い毒。もしこれが敵の攻撃だったとしたら、なんと残酷な攻撃だろうか。

 

 

 

 

「はぁ──」

 

 会議が終わり、皆が出て行って一拍。ゆっくりと深呼吸をする。

 そして見る我が手。そこにあるのは人の手ではない。無論、ゲームでもない。

 そこにはるのは紛れもなく現実。夢であったとしても、異世界であったとしても。俺の身体は今居るここが現実であると言って居る。

 一体いつまでここに居るのか。一体いつまでここに居られるのか。帰らなければ、戻らなければと思う自分が居る。しかしこのままここに居たいと思う自分も居る。

 この身体になって、久方ぶりの葛藤だった。

 

 ドアを潜り、会議室を出る。見知った空間が続いている。ここがナザリックであるのは間違いない。視界の端に忙しそうに走り回るメイドの姿が見えた。

 一瞬呼び止めようかと思い手が伸びるが、そのまま止まる。忙しくしている者を止めてしまうのが申し訳なかったのもある。

 いや、正直に言うならば──

 

(何が切欠でこの状態が崩れるのか──それが怖いんだ、俺は)

 

 少しでも今を享受したいと思って居る自分が居るのだ。なんて弱い。なんて──

 

(──やめよう。少なくとも今ここには皆が居る。情けない姿を見せるわけにはいかない)

 

 ナザリックの主たる姿を作ったのは、皆に胸を張りたかったからだ。皆とまた会った時に、頑張ったんだぞって言いたかったからだ。だというのに今の俺はどうだ。何と情けない。

 ゆっくりと頭を振り歩く。そういえば、今回の俺の仕事って何かあったっけと思いながら。

 

 

 

 

「準備が整いました、モモンガ様」

「あぁ、分かった」

 

 それから数時間。手持無沙汰になってしまった俺は玉座の間に行き、ただただ玉座に座り続けるという仕事──仕事なのか?──をしていた。

 結局今回に限って言えば俺に仕事は回してもらえなかったようで、気が付けば準備すら終わってしまって居たようだ。本来ならばもっと積極的に動くべきだったのだろうが、動けなかった。いや、動く勇気がなかったのか。

 デミウルゴスに呼ばれ、第六階層に飛ぶと──そこは雪国であった。

 

(え、雪?)

 

 一瞬第五階層の氷河に間違えて飛んだのかと錯覚したが、どうやら違う。遠目に見えた超絶に巨大な木が見えたからである。

 

「でかっ!?」

 

 まだ皆は米粒程度にしか見えないというのに、その巨大な木の異様さたるや凄まじいとしか形容が出来ない。何しろこの距離だというのに大きく見上げないと頂上が見えないのだ。しかもあまりにも巨大すぎるためか頂上が少し霞んで見える。一体何百メートル──いや、何千メートルあるのだろうか。

 

「なんでもユグドラシルという名前の木なのだそうです。全く素晴らしきは至高の御方々!世界の根幹たる大樹すらも意図も容易くナザリックへと運び込まれるとは!このデミウルゴス、皆様の素晴らしきお力にますます敬服するばかりでございます」

(それ、抜いてきて大丈夫だったのかなぁ──)

 

 ぶくぶく茶釜さん達はかなりガチな編成で突撃して来たらしく、予想以上に巨大な木を運び込んでしまったらしい。

 装飾はあまのひとつさんをはじめとする生産系の皆が頑張ってくれたらしく、恐ろしい程に煌びやかに輝いている。

 

 近付くほどにその異様さが目立ってくる。何より装飾と一緒にあるあの人型で動いているアレは一体何だろうか。結局るし★ふぁーさんを止めきれなかったのかもしれない。

 さらに近付けば見えてくる、雪原に置かれた巨大なテーブル。その中で目立つのは中央に置かれた巨大な鳥の丸焼きのようなもの。焼き過ぎて焦げた、などということは一切なくきれいに焼けているのが遠目でも分かる。『遠目』でも。

 

(あれ、何十メートルあるんだよ!?)

 

 何しろそのスケールがすごい。隣に置いてある十段以上もあるケーキが小さく見える程なのだから。

 

「お、きたきた。モモンガさーん!こっちこっち!」

 

 近付く俺にいち早く気付いたぺロロンチーノさんさんが俺に向かって手を振っている。その横には普段のドレスとは違い、ファーをふんだんにあしらったドレスを着たシャルティアが居た。

 

「モモンガ様、このドレス──如何でありんす?」

「あぁ、とても似合って居るぞ、シャルティア」

「あぁ、ありがとうございんす。このドレス、ぺロロンチーノ様に選んでいただいたでありんすえ」

「えぇぇぇ、娘同然の配下に生着替えさせるとかドン引きなんですが」

「いや。コイツ本気でやろうとしたけど、私が止めたから」

「なんで止めるんだよ!ぶくぶく姉だってアウラとマーレを──ゴバァッ!?」

「ぶくぶく姉って呼ぶな!」

 

 本当に生着替えさせようとしたのか、ぺロロンチーノさん。ぶくぶく茶釜さんに後頭部をぶん殴られて一発で沈んだ彼を見ながらため息一つ。しかし似た者姉弟である。ぶくぶく茶釜さんの方はしっかりと生着替えしたらしく、少し恥ずかしそうにアウラとマーレがサンタのコスチュームを着ていた。相変わらずスカートはマーレが履いていたが。

 

「あぁ、モモンガ様ぁ!この服如何ですか?」

「あぁ、アルベド。すごく似合っ──ぶふぅっ!?」

 

 後ろからアルベドに話しかけられ、後ろを振り向く。そこには可愛いサンタのコスチューム姿のアルベドが居た。一見すれば。

 だが実際は採寸が全く合っていない。どこもかしこも締め付けるほどに小さく、豊満な胸は今にも零れそうだ。何よりスカートが小さすぎてミニスカ状態になっている。俺とアルベドの身長差であってもそのまま下着が見えてしまいそうな程に。

 

「あぁぁぁアルベド?そ、その服は少々小さくはないのかね」

「いいえ、全く問題ありませんわ。えぇ、全く。あぁ、モモンガ様が私の姿に興奮してくださっている──これほどの栄誉は──きゃっ!」

「はい、おしまい!全く茶釜さんのところにわざわざ小さいサイズを借りに行くなんてね。お父さんはそんな破廉恥な娘に育てた覚えはありませんよ」

「愛するモモンガ様の前では大胆でありたいんですぅぅ──」

 

 驚きと羞恥が入り混じって混乱するのも数秒。どこから現れたのかタブラさんにマントで包まれたアルベドはそのままタブラさんに引きずられていった。

 しかしあの小さなサンタコスチュームはぶくぶく茶釜さんから借りたのか。ちらりと彼女に視線を向けると、それに気付いたのか俺にドヤ顔を向けてきた。嬉しかっただろう、と。役得だっただろう、と。無言ながらも彼女の顔はそう物語っていた。

 

(わざとか。わざとかぁぁ!!)

 

 いつもならば精神安定されるはずの俺の心は沸き立ったまま止まらない。無い筈の心臓の動悸激しい。全く何なのか、この世界は。

 

「モモンガさん、ほら。仕事仕事」

 

 たっち・みーさんに促され、皆の中央に連れていかれる。俺の手にはグラスになみなみと注がれた真っ赤なワイン。いや、飲めねえよってツッコんで欲しいのか。それとも飲んでバシャリと溢してボケろということなのか。

 

──あぁ、コホン。皆がこうして集まってくれたこと。集まれたこと。とても嬉しく思います。

 

 乾杯の音頭なんてそう何回もしたことないと言うのに。飲めぬワインを片手に。

 

──また皆と会えたこと、とても嬉しく思います。

 

 きっと皆分からぬ話を。

 

──でも、俺の居場所は

──ここではありません。

 

 俺は続ける。

 

──ここに呼んでくれた事。とても嬉しく思います。とても感謝しています。

──皆、ありがとう。また、皆との楽しい思い出が出来ました。

──でも、俺には俺の居場所があります。俺を待ってくれている者たちが居ます。

 

 それを、誰も止めることは無い。

 

──だから、俺は帰ります。俺を待つ皆の所へ。

 

 俺は笑って居るだろうか。泣いていないだろうか。

 

「ありがとう、みんな。メリークリスマス!」

 

 皆に胸を張れる俺で居られているだろうか。

 それを確かめる術は、まだ──無い。

 

 

 

 

「めりー──」

 

 伸ばす手が抜かす先は、天井。いや、天蓋か。やはり、夢だったのだろう。

 ゆっくりと手を下ろし、ゆっくりと見回す。見知った部屋。俺の寝室だ。

 

「アンデッドでも──夢は見るものなのだな──」

 

 あぁ、とても良い夢だった。とても、楽しい夢だった。そのまま覚めねば良いと思えてしまう程に甘く、甘美な夢だった。

 もう少し、もう少しと思い続けてしまう甘美な毒だった。

 戻ってこれたのはきっと、ふにゅん。

 

「──ふにゅん?」

「あんっ──」

 

 右手が柔らかい。あぁいや、右手そのものではなく右手で触っている物が──

 

「──って、えぇぇ!?」

 

 ゆっくりと、まるで錆付いたドアを無理矢理開けるかのようにゆっくりと。ふにゅふにゅむにゅむにゅと、どうも癖になりそうな柔らかにナニカを揉んでいる右手へと視線を向けていく。

 

「メリークリスマスです、アインズ様。プレゼントはわ、た、し。です。ウフフフフフ!」

「ヒィッ!?」

 

 夢で見た、あの楽しい夢で見たあの時のアルベドそのままに。彼女は俺を熔けた顔で見詰めて来る。俺の手は──何故だろうか、服の中に隠れているようだ。

 あぁ、右手が熱い。灼熱に焼かれたかのように。

 

「あぁ、アインズ様!アインズ様がここまで積極的になってくださるなんて!今夜こそ、私はアインズ様のお世継ぎをこの身に授かるのですねぇ、アインズ様ぁ!!」

「ちょ、待て落ち着けアルベド!」

「落ち着けるわけがありませんわ、アインズさまぁぁぁん!!」

 

 あぁ、きっとこれも夢なのだろうな、と。どことなく他人事のように。

 俺は覆い被さろうとするアルベドに必死に抵抗しながら思うのであった。

 




かなり真面目なアインズ様とはっちゃけたアインズ・ウール・ゴウンの面々でお送りしました。
よくある夢落ちですね!





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