米、「車・農業・薬価・為替」に矛先 対日貿易交渉

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2018/12/22 21:50
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【ワシントン=河浪武史】米通商代表部(USTR)は21日、日本との新たな貿易交渉に向けて22分野の要求項目を議会に通知した。自動車貿易の改善や農産品の関税引き下げを盛り込んだほか、薬価制度や為替問題にも矛先を向け、難題となりそうだ。通信や金融などサービス分野も協議するとしており、「物品貿易協定」(TAG)と主張する日本側との温度差が早くもにじむ。

米国の貿易関連法では、貿易協議に入る30日前に、USTRが米議会に「交渉目的」を通知する必要がある。21日の通知によって、米国は制度上2019年1月下旬から日本と正式に貿易協議を開始できる。米国は強硬な交渉スタイルで知られるライトハイザーUSTR代表が協議を主導し、日本は茂木敏充経済財政・再生相が交渉役となる。

USTRは対日貿易協議の交渉目的として22項目を列挙した。真っ先に挙げた「物品貿易」では「対日貿易赤字の削減」を優先課題と明示し、自動車や繊維、医薬品、通信機器などの品目を具体的に挙げて、輸入規制の見直しなどを要求した。

日本が警戒するのは、自動車の対米輸出に数量制限を課されることだ。数量規制は世界貿易機関(WTO)ルール違反だが、米国は韓国との交渉で、鉄鋼の対米輸出を直近の7割に抑える厳しい数量制限を盛り込んだ。カナダやメキシコにも自動車の輸出に数量制限を設けるよう要求した。

21日公表した「交渉目的」では、数量規制のような具体的な手法に触れなかった。環境・安全基準など「非関税障壁の引き下げ」を求めたのが目立つ程度だ。ただ「輸出制限はライトハイザー氏の得意技」(日本の通商担当者)で、「数量規制についての懸念は常に残る」(経済産業省幹部)。

農業分野は「関税の引き下げ」を明確に盛り込んだ。日米は9月の首脳会談で「日本の農産品の市場開放は環太平洋経済連携協定(TPP)など過去に結んだ経済連携協定での合意が限度」と確認した。

農林水産省幹部は「今まで米国が主張してきた内容から大きく外れたものではない」と受け止めているが、米政権には「TPP以上の譲歩を日本に求める」(パーデュー農務長官)という声が早くも浮かぶ。1月以降の交渉では「TPP並み」が攻防ラインとなる。

「医薬品や医療機器に公正な手続きを求める」。米政権の「交渉目的」には、わずか数行だが日本が神経をとがらせる項目が入った。文言は「透明で公正な規制によって、米国製品が完全に日本市場にアクセスできるようにする」と抽象的だが、日本の当局者は「薬価制度の見直しに切り込むつもりだ」と警戒する。

米国ではがん治療薬などが極めて高額だ。ただ、政府が薬価を決める日本は、財政を圧迫する新薬の価格を下げやすくする制度に変えた。高額医薬品を日本でも販売したい米製薬会社は一斉に反発。トランプ氏も米製薬会社に対し、米国内の薬価引き下げを求める一方、海外で収益を上げやすくする「取引」を持ちかけており、薬価問題は日米交渉の火種となる。

円ドル相場に影響しかねない為替条項も要求するとした。円売り介入を制限されれば、円が投機的な売り買いにさらされた際、通貨当局は対処しづらくなる。トランプ政権に影響力を持つ米自動車業界は、円安を武器とした日本車の輸出攻勢を恐れており、日本側に為替条項の導入を厳しく突き付ける。

為替条項について日本側は受け入れない構えだ。条項の具体的な内容がどうであれ、合意文書に入ると、トランプ政権が日銀の金融緩和をけん制するといったリスクも排除できなくなる。「貿易量と為替の相関は薄まっている」(国際金融筋)ことなどを今後の交渉で訴える構えだ。

「対米協議は包括的な自由貿易協定(FTA)ではなく、物品に限った交渉だ」。安倍政権は繰り返しそう説明してきたが、USTRは通信や金融などサービス分野も「交渉目的」に明確に盛り込んだ。日米の思惑の違いは交渉前から浮き彫りで「米国第一」を掲げるトランプ政権のペースで協議が進む懸念もある。

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