日産自動車のカルロス・ゴーン前会長がまたも東京地検に逮捕された。今度は特別背任容疑だ。会社の「私物化」があれば事実解明を望む。一方で海外から批判の強い長期勾留は見直すべきである。
空港にジェット機で降りたところを電撃逮捕された。今度は拘置所から保釈される直前に、電撃的に再逮捕された。
ゴーン容疑者には二十一日は保釈どころか、特別背任という新容疑で勾留が続く日になった。
勾留申請却下の翌日に検察が素早く再逮捕したというのは、初めから検察に準備ができていた証しだ。
つまり検察は当初、金融商品取引法違反で四十日間、特別背任容疑で二十日間、計六十日間もの勾留を見込んでいたのであろう。
確かに検察の発表どおりならば、私的な投資で生じた損失を日産に付け替えていたのは悪質といえる。「私物化」の言葉があてはまる。検察には徹底捜査を望む。
疑問に思う点もある。被疑事実となったリーマン・ショックが原因の損失約十八億五千万円の負担義務を日産に負わせたのは二〇〇八年だ。翌〇九年から約十六億三千五百万円の損害を日産に与えたとされる。ほぼ十年も昔の事案なのだ。
当時、証券取引等監視委員会がその事実を把握し、関わった銀行に会社法違反(特別背任)にあたる可能性を指摘していたという。
日産側はこの事実をどう把握し、どう処理していたのか。見逃していたのか。監査は適切に行われたのか。日産側がこの点をきちんと説明できない限り、国内外の人は納得しないだろう。検察の詳しい説明も求めたい。
そもそも損失付け替えの疑惑は、既に報道された。弁護人の大鶴基成弁護士は「ゴーン容疑者は事実を否定している」と語っている。確かに損失の付け替えは選択肢の一つであったが、金融当局から「違法」との見解を得たため実行しなかった-と。
ゴーン容疑者をめぐっては、自白しないと勾留が長くなる「人質司法」に海外から厳しい批判が出た。取り調べで弁護人の立ち会いができない日本の刑事司法も奇異に受け止められている。
自白偏重ではなく、適正手続きを重んずる欧米の刑事司法の在り方に学ぶべきことも多いはずだ。真実の発見と人権擁護の両立が今、捜査に求められる。
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