これだけの大型上場がつまずくとは誰も思わなかったはずだ。携帯大手ソフトバンクの株価が初日から低迷した。市場の期待を裏切った形だが、同社を取り巻く環境をみると逆風は当然ともいえる。
同社の親会社であるソフトバンクグループ(SBG)は、孫正義会長兼社長らが一九八一年に立ち上げた。二〇〇六年に英ボーダフォン日本法人を買い入れ携帯事業に乗り出した。SBGは、成長の見込める企業に資金をつぎ込んで、事業の拡大を目指す投資会社ともいえる。
今回の上場も、SBGがAI(人工知能)事業などに投資するための資金調達が目的という。だが上場前、不安材料が次々浮かび上がった。
六日に大規模な通信障害が起き、契約者の七割以上の回線に影響が出た。障害後の解約件数は一万を超えているという。
一方、米中貿易摩擦の影響で、取引先の中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)締め出しの動きが強まった。ソフトバンクも機器の調達先見直しを検討しているとされ、余計なコストが増える懸念が浮上している。
SBGが共同運営する基金の出し手でもあるサウジアラビアのムハンマド皇太子が、トルコで起きたジャーナリスト殺害に深く関係したと疑われる事態となった。これもイメージを悪くした。
さらに安倍政権が主張する携帯料金の引き下げ圧力もやむ気配がない。これだけそろえば新規上場株としての魅力が失われ、投資家が敬遠するのは無理もない。
SBGは上場後もソフトバンク株の六割以上を握る。親会社の投資の都合で利益が吸い取られる懸念があり、携帯事業を行う子会社に経営上の不利益が生じかねない。ソフトバンクの宮内謙社長はSBGの取締役でもある。独立性を保てるか疑問はぬぐえない。
携帯事業は公共性が極めて高い。災害時には命を守る手段にもなる。利益優先は許されない事業だ。親会社の投資動向で、社会基盤であるサービスの質が低下することがあってはならない。
SBGが自らのリスクで投資を行うのは自由だ。中長期的に見れば、今回の上場が株式市場活性化に貢献する可能性もある。ただ暮らしに欠かせない携帯事業会社を傘下に収めているという自覚だけは、何度もかみしめる必要があるだろう。
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