政府が新たな防衛計画の大綱と中期防衛力整備計画(2019~23年度)を閣議決定した。宇宙やサイバー、電磁波の攻撃も想定した「多次元統合防衛力」を打ち出し、装備調達に必要な総額は過去最大となる。防衛力を有効に強化していくには、予算の一層の効率化と重点化が不可欠となる。
多次元統合防衛力は、前回の13年大綱の「統合機動防衛力」の考え方をさらに一歩進めた。「宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域については、我が国としての優位性を獲得することが死活的に重要」と明記し、陸海空自衛隊の枠を超えた全領域横断による防衛体制を重視する。
政府は中国や北朝鮮の脅威の増大や新技術を使った多様な攻撃手段を踏まえ、大綱の見直し作業を急いだ。「積極的な防衛体制」の考え方に沿って、敵の情報通信ネットワークを妨害する能力などを強化していく。
中期防は当面5年の防衛装備の目標を示す。海上自衛隊で最大級の「いずも」型護衛艦2隻を改修し、短い滑走で離陸し垂直に着陸できる戦闘機「F35B」を購入する方針を盛り込んだ。
「いずも」型をヘリコプター搭載護衛艦に区分する方針は変えないが、事実上「空母」としての運用が可能となる。これまで政府は憲法9条によって「我が国は大陸間弾道ミサイル(ICBM)、長距離爆撃機、攻撃型空母は保有できない」と説明してきた。
敵の射程外から攻撃できる長距離ミサイルなど「スタンド・オフ火力」も導入する。政府は専守防衛の基本原則との兼ね合いについて丁寧に説明していく責任がある。中国に対抗して日本が防衛力を無原則に増強している印象を国際社会に与えるべきではない。
中期防は当面5年の必要総額として「おおむね27兆4700億円程度」と明記した。14~18年度の整備計画よりも3兆円弱増える。防衛省はこのうち2兆円程度は長期契約の活用やコスト管理の徹底で圧縮するとしている。
厳しい財政事情を考えれば、防衛予算の増額は限界がある。日本が米政府と直接契約して最新鋭装備を調達する有償軍事援助(FMS)も「米国の言い値で買わされている」との批判が強い。
日本の安全を守っていくには、陸海空自衛隊の定員を含む組織の見直しと装備品調達の効率化を並行して進める必要がある。