―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~ 作:NEW WINDのN
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「ボ、いえ私が必ずグリーン・アローを倒します。援護お願いしますね」
ガントレットを打ち鳴らし、ユリが気合いを入れた。
「大船にのったつもりで任せるっすよー」
左胸をバンと叩いてルプスレギナがとびっきりの笑顔をみせる。
「不安だわ……」
「不安……」
ナーベラルとシズが同時に呟く。
「どうしてっすかー。安心するっす!」
「ルプーと安心という言葉が結びつかないのよね」
「……そう……そう」
ナーベラルとシズは息ぴったりで頷き合う。
「むっきー、私だってやるときゃ、やるっす! 見ているっすよ―」
「……信用できないけど……期待はしている……つもり」
「一応、頼りにしておくわ」
場が和やかになったが、今は戦闘中である。
「ふぎゃっす!」
アインズの右のジャンピングハイキックが、ルプスレギナの顔面を見事に捉えた。ルプスレギナはサッカーボールのように縦回転しながら闘技場の壁に突っ込んでいく。
「おおっ! これはナイスシュートというやつですかな」
パンドラズ・アクターが拍手を送った。確かに華麗なジャンピングボレーシュートといった感じにも見えなくもない。
「きゅう……」
ポテっという音とともにルプスレギナが地面に倒れ伏す。
「……油断しすぎだ」
アインズは冷たく言い放ち、素早く弓を構えると矢を連射しそれを
「ルプスレギナ殿の
パンドラズ・アクターの指示により、アウラ配下のドラゴン・キン2体が現れ、ルプスレギナを担架のようなものにのせて闘技場のフィールド外へと運び出す。
「まずは一人だな」
アインズは、残る3人の顔を見た。そのアイマスクから覗く瞳はギラリと強く輝く。
「さすがはアインズ様。相手の油断を見逃さない完璧な攻撃でしたね」
アルベドは満面の笑みを浮かべ満足そうに何度も頷いている。
「んー、ルプスレギナがマヌケなだけじゃないのー?」
「お姉ちゃん、それ……マズいよ」
アウラの呟きにマーレが困惑の表情を見せながら、姉の袖を引っ張っている。
「ソレハ不敬ダゾ。今ノハ、ルプスレギナノ油断ヲ見抜イタ、アインズ様ガ素晴ラシイ!」
コキュートスが興奮して冷気を吐き出してしまい、周りは迷惑そうな顔をしているものの、満足そうなコキュートスの顔を見て何も言えなくなっていた。
回復役を失った
「まったく、あの子はっ!」
ユリは顔を顰めるがもはや後の祭りである。
「……期待して損した。私の期待……返せ」
回復役を失った以上、ここからは攻勢に出ざるを得ない。
「ボ……私がいきます。援護お願い!」
「了解!」
シズは素早く銃を構えて狙撃する。
「させるか!」
アインズは超高速で飛んでくる弾丸を、矢で射落とすという離れ業を見せた。
「うむむ……さすがは“緑衣の弓矢神”というわけですな」
「さすがアインズ様! 素晴らしすぎますわ。くふー」
セバスが唸り、アルベドが舞い上がる。
「ですが、十分役目は果たしていますよ」
デミウルゴスの眼鏡がキラリと光る。
「〈
アインズの背後へと転移したナーベラル。出現すると同時にその両手から最強化した雷撃を奔らせる。
「そうくると思ったぞ」
だが、これを予期していたアインズは、ナーベラルが出現する直前にジャンプしており、ナーベラルが雷撃を放った直後に腿で首を挟み込まれていた。
「これはっ、アローのっ!」
ナーベラルの放った雷撃はアインズが先程までいた地点をむなしく打ち抜き、そして彼女の視界は反転する。ナーベラルがナーベとして何度も見ている技〈フランケンシュタイナー〉。華麗かつ的確に急所にダメージを与える破壊力も十分な技である。
「うぎゅっ……」
その証拠に地面に後頭部から叩きつけられたナーベラルは呻き声をあげて気を失ってしまった。
「同じ手を何度も食わんよ。それに出現位置が正直すぎるな。毎度毎度同じ位置に出現するとは芸がなさすぎるぞ」
アインズはナーベラルの攻撃の単調さを指摘する。もっとも肝心な本人には聞こえていないのだが。
パシッ!
「なっ!?」
ユリは完全に不意をついたつもりでいたのだが、そのユリの右拳をアインズは、シズの方を見たまま楽々と片手で受け止めてみせた。
「あまいな。お前が接近しているのはわかっていたぞ」
すかさず逆の手でユリの腹部を打ち抜く。
「うぐっ……」
苦悶の表情を浮かべるユリの腹部に今度は膝を打ち込んだ。
「ぐげっ……」
ユリと同じ表情を客席に座るセバスも浮かべていた。
「手を……放せ!」
シズはそう呟くようにいうとトリガーを引き、銃弾を撃ち込む。
パシッ!
アインズは事もなげに銃弾をつかみ取ってみせた。
「……この距離で?」
シズは表情こそ変わらないが驚きを隠せない。
「……出来るものなのだな」
「助ける……」
シズは銃を撃ちまくるが、アインズは大ダメージを受けているユリを投げ捨てて両手ですべての弾をキャッチする。
「ふふ……」
アインズが両手を開くと弾丸がパラパラと地面に落ちる。
「……信じられない」
「今度はこちらの番だな?」
アインズは〈
「これは……参った……
「ナーベラル殿
これで残るはユリだけである。
「くっ……さすがに……」
ユリはよろよろと立ち上がる。先程のボディーブローと、ニーリフトでかなりの体力が削られており、危険水域へと入る一歩手前だった。
「さあ、あとはお前だけだ。かかってこいユリ・アルファ!」
「いかせていただきます!」
ユリは最後の攻撃と決め小細工なしの
「ぬんっ!」
アインズは歯を食いしばってそれを耐えると、ギュッと右拳を握りこんで鉄拳をユリへと叩きこむ。
「あきらめてはなりません!」
セバスの声にユリが反応し、アインズの拳はなぜか空を切った。
「なにがっ?」
完璧に捉えたと思ったところでの空振りにアインズは若干の動揺をみせる。
「そんなのあり?」
良く見ると、ユリの首から上……つまり頭部が消えていたのだ。頭部はどこへ消えたのかといえば、宙を舞っている。そして、ちょうどアインズの首元に落ちてきた。
ユリは
「ぐああああああっ!」
アインズは予期せぬ攻撃に叫び声を上げた。そう、ユリは、首筋に吸血鬼のように噛みついたのだ。
「まあ、アインズ様のお首にき、キスをするなんて、許せないわ!」
「落ち着きなよ、アルベド。あれは噛みついているだけだってー」
「わらわも噛みつきたいでありんす」
アルベドをなだめようとしたアウラは、さらにシャルティアまで暴走しかかったために、あきらめモードになる。
「てりゃあああああっ!!」
首のないユリの体はアインズのボディに蹴りとナックルをコンボで叩きこむ。
「ぐぬぬ、舐めるなよ」
アインズは攻撃を耐えきると噛まれたままユリのボディへ膝を連打で叩きこみ、体がくの字に折れ曲がったところで、片腕でユリの胴体を抱えて引き寄せると、勢いを利用して縦に回転させる。そして引っこ抜いたユリの頭部と一緒に回転させて地面へと叩きつけた。これは変形ではあるが、いわゆる〈スーパーフリーク〉と呼ばれるフィニッシュホールドである。
「ぐううっ……」
「そこまでです。ユリ・アルファ殿、戦闘不能と判断いたします。この戦いはグリーン・アローに変身されていたアインズ様の勝利となります」
場内のシモベ達は至高の御方の素晴らしい闘いぶりに感動の涙を流しながら拍手を送り、そして「アインズ・ウール・ゴウン万歳」と心から叫んだ。
「
アインズは、元の
「ありがとうございます。アインズ様」
「だが、それぞれに課題が残る部分がある。そこを今後修正していこうではないか。そうすることでこのナザリックはより強くなれる!」
「「「「はい、アインズ様!」」」」
「アインズ様、次は私と手合わせをお願いいたします」
「セバス、オ主ハ、スデニ手合ワセヲシテイルデハナイカ。今度ハ、私ノ番ダ」
セバスの立候補をコキュートスが止める。
「いえ、先日戦ったのはブラック・バトラーであって、私ではございませんよコキュートス様」
「同ジデハナイカ!」
「いいえ、違います。あれは私ではありません。私は演じていただけでございます」
「ナンダト!」
「よさぬか! ま、また今度考えるとしよう」
アインズは面倒になり、
「ア、アインズ様~~!!」
アルベドが気付いた時……アインズは転移していて姿を消していた。
アインズは気づかぬうちに危機を脱していたことを知らない。
”The day of battle” は今回で終了となります。
本作では冒険者アローとして活動するアインズ様の話がメインです。
結果的にプレアデスやナザリックのメンバーが出番少ないので焦点をあててみました。