―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~ 作:NEW WINDのN
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「ふふふ……やってくれるじゃないか。なかなかよい連携だったぞ」
アインズは首を左右に倒し、コキンと首を鳴らす。
「うーん、あんまり効いてないみたいっすね」
「その通りだ。あの程度の攻撃では私は倒せんぞ!」
今度は、アインズがドン! と地面を蹴ってユリに迫る。
「ラアアアッ!」
そして、右拳をフルスイングして叩きつけた。ストレートでもフックでもない大振りの一撃。だが、100レベルのフルスイングだ。速くそして重い。
「させませんっ!」
ユリもガントレットをはめた手で全力で迎撃! アローとブラック・バトラーとの戦いでも見られた拳同士のぶつかり合いが起きる。
「むうっ!」
観客席のセバスは”その時”を思いだす。
だが、今回は2人の間には、大きなレベル差があった。
「きゃああっ!!」
レベルの低いユリが打ち負け、思いっきり弾き飛ばされてしまう。やはり基本となる攻撃力が違いすぎた。
「……ユリ姉っ!」
ルプスレギナが、受け止めようとカバーリングするが、そのがら空きとなった腹部に加速して踏み込んだアインズの膝がめり込んでいた。
「うげええっ……」
不意をつかれたルプスレギナは、両手で腹部を抑え両膝をガクリとついてしまう。
「膝はこうやって使う方法もあるんだぞ?」
アインズは、動きのとまったルプスレギナの顔面を容赦なく〈トラースキック〉で蹴り飛ばす。
「させないっす!」
だが、ルプスレギナは首を傾けてアインズの蹴りをすかすと、そのままその蹴り足を掴んで、アインズを頭上へと持ち上げる。
「ユリ姉っ!!」
「決めるわよっ!」
持ち上げられたアインズの顔面へ、ユリがジャンプして全体重を乗せた右拳を振り下ろす!!
「おごっ!」
「うおおおおおっす!!」
ルプスレギナは、そのままアインズを後頭部から地面へと思いっきり叩き付けた。
言ってみれば、ジャンピングナックルパートと変形パワーボムによる“変形のダブルインパクト”とでもいうべきだろうか。
「ぐはっ!!」
アインズは明らかにダメージを受けている。
「〈
味方ごと吹きとばすつもりで、ナーベラルはまたもや両手から最強化した魔法をぶっ放した。
「ちょっと早っ! くああああっ!」
「まじっすかっ! うぎゃああああっす!」
「ぬおおおおおおっ!!」
結果的に、ユリとルプスレギナはアインズ以上にダメージを受けてしまった。
「あいたたた……なーちゃん、それはひどいっす。〈
ルプスレギナは自らのダメージを回復させる。
「私はまだ回復できるからいいっすけど、ユリ姉は回復させられないんすよ?」
そう、ユリはアンデッドだ。そのため回復魔法では回復させることができない。職業バランスを重視してパーティを組んだ結果、種族ペナルティのせいでアンバランスになってしまっていた。
(まあ、このあたりは課題だな。どちらにせよ、回復役はまず潰す)
アインズは、まずパーティの回復役であるルプスレギナをターゲットに決めた
「いくぞ、ルプスレギナ! まずはお前からだ!」
殺気を漲らせてアインズは左の拳を振るう。
「ひょえっ!」
両腕上げてガードしたところへ、右の重い拳が飛んでくる。
「くうっ……重いっすね」
これもガードすることはできたが、ルプスレギナの両腕がビリビリと痺れる。さらに左・右・左と顔面狙いの拳を連続してガードする。
「らああっ!」
上への意識付けをしてガードを上げさせておいてから、アインズは左の膝を腹部へと叩きつける。
「ちょ、ちょっとや、やばいっす! アインズ様マジぱねぇっす!」
かろうじて反応し、両腕をクロスして直撃をさける。
「グリーン・アローだ!」
今度は死角から
「ひえっ!」
これは動物的な反応をみせて回避しようとするが、頬を掠める。
「うっ……」
ルプスレギナの足がガクガクと震える。
「掠めただけっすよ! アイいや、グリーン・アロー……マジぱねぇっす!」
だが、それでも足に来る。こうなっては反撃することすらままならず、ルプスレギナは亀のように両腕を上げてガードを固め直撃を避けようと必死だった。
「らあああっ!!」
「た、たすけってっす!」
ガード越しでもアインズの打撃は効いている。衝撃を吸収しきれず、ルプスレギナの体力を確実に奪っていた。アインズは回復魔法を唱える暇を与えることなく、一気呵成に攻め立てる。
「まずい!」
ユリが状況を打開すべく拳を握りこんで繰り出すが、助けること……そして攻撃することに意識がいきすぎて防御が疎かになり、カウンターで強烈な横蹴りを腹部に受け壁際まで吹き飛ばされてダウンしてしまう。
「うっ、ううっ……」
「ユリねえっ!」
しかし、ルプスレギナは何もできない。手も足も出ない状況だった。
「〈
突如アインズの後方に現れたナーベラルが、至近距離から雷撃をぶっ放す。
「うおおおおおっ!!」
「ちょ、なーちゃん!! またっすか! うぎゃああああああっっすー!」
アインズの体を突き抜けた雷が、ルプスレギナをも貫く。
(くそっ! 本来の姿ならこのような攻撃は受けなかったのだが)
アローの姿では魔法はほぼ使えない。
「シッ!!」
ダメージを受けながらもアインズは体を回転させてナーベラルの腹部をソバットで蹴り飛ばす。
「〈
しかし、ナーベラルは魔法を発動させることで回避し、またもやアインズの後方に出現。
「〈
「なにっ!? くそっ!」
アインズは、至近距離からのナーベラルの魔法の直撃を再び許してしまう。
「ヒ、〈
その間にようやく危機を脱したルプスレギナは回復魔法を発動し、自分の傷を癒すことができた。
「やれやれっす! 危なかったす。さっすがアインズ様っすね」
額の汗を拭うふりをしたところで、アインズの右の弓引きナックルパート〈ナックルアロー〉が、ルプスレギナの顔面にハードヒット!!
「うぎゃああああああっっすー!」
いきなりHPが半減するような一撃を受け、ルプスレギナはガクンと右膝をついてしまった。
「……勝機見逃すわけにはいかない!」
アインズはナーベラルに数発矢を牽制で放ちながら、素早くルプスレギナのスリットから見える肉付きのよい太ももを踏み台にして、両手を大きく広げながら膝を叩きこむ。
「あれは、〈
技を知っているパンドラズ・アクターと、セバスが同時に声に出す。
タイミングとしては完璧だった。ユリはまだダウンしているし、ナーベラルは〈
「なにっ!」
アインズは“それ”に気づいて慌てて技をキャンセル。無理やり後方に体を戻しながら不格好で不完全な形ながらも踵をルプスレギナの肩口に叩きこみ、抜群の身体能力でルプスレギナの体を蹴って後方宙返りして距離をとり、観客席の一点を睨みつける。
「……残念。外した……掠めただけ……」
そこには、ライフルのような魔銃を構えた
(避けきれていなかったか。すべて避けたつもりだったのだが……いや、これは慢心だな)
アインズが変身しているアローの左頬から一筋の血が流れ落ちていた。
「シズ、貴女は何をやっているの!」
愛する人への不意打ちに、守護者統括アルベドが美しい顔を歪めながら声を荒げた。髪は逆立ち、いまにも飛びかからんばかりであったため、シャルティアとセバス、そしてデミウルゴスといった面々が彼女を押えこんでいる。
「……チームメイトが合流した」
シズはそれだけを呟くようにいうと、魔銃を持って客席から飛び降り、闘技場のフィールド内へと入った。
「なるほど……そういう趣向か。悪くないぞ、シズ・デルタ。実際チーム全員が同時にくるとは限らないからな」
アインズはシズの乱入を容認する発言をする。さすがにこの世界において、銃で撃たれるということは考えにくいが、もしアインズと同じようにユグドラシルのプレイヤーが存在するのなら、シズのような
また、そうでなくても伏兵や別働隊が不意に攻撃してくるということは、現実的に考えられた。もっともナザリックで迎撃する場合はそんなことはありえないだろうが。
「しかし、アインズ様!」
「よいのだ、アルベド。何を怒ることがある? ……私は逆に嬉しいくらいだぞ? こういう自己主張は大歓迎だ。皆が成長している証だからな。よし、ここから先は1対4だな。かかってこい!」
アインズは、