―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~ 作:NEW WINDのN
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「では、そろそろ始めるとしようか」
アインズの声が静寂を破り、
「ただし、私がこのままの姿で戦っても意味があまりない……それにせっかくの機会だ。私は姿を変えることにしよう」
アインズの言葉にシモベ達はどよめく。姿を変えるという意味がわからないものも多いのだ。
「……私のこの姿を、今初めて見る者も多いだろう……見るがいい、我が秘宝の力を!」
アインズは大げさに演じながら、小声でアイテム“
「うおおおおおおおっ!!」
観客席が大きくどよめく。先程まで豪奢なアカデミックガウンを着ていた骸骨姿の
「これが“グリーン・アロー”の姿だ。まあ、人間の世界では“
神という言葉を聞き、シモベ達がそれは当然だというような反応を示した。彼らにとって、ナザリックの絶対的な支配者アインズ・ウール・ゴウンとは神に等しい存在いや、神そのものであった。
「やっべ、アインズ様かっけ! くふー」
「いつものお姿もとってもお美しいのでありんすが、やはり……このお姿も大変魅力的でありんすな。……これは下着がまずいことになりそうでありんす」
(せっかく人が決めているのに……あいつら……ま、いいか)
アインズは、この2人の声を聞こえなかったことにした。シャルティアは以前この姿を見たことがある……というより一緒に行動している――ただし、
そして、アルベドは何度もモニター越に見ているが、直に見るのは初めてだった。なお、アインズはすっかり忘れていたのだが……彼はアルベドの前では、この姿にはならないと決めていたはずだった。実際、今までグリーン・アローやオリバーの姿でアルベドの前に出たことはない。今は大丈夫だが、この後暴走する可能性を秘めていることにアインズは気が付いていなかった。
「さて、
「かしこまりました。このユリ・アルファ、全力でアインズ様に挑ませて頂きます。ルプスレギナ、ナーベラルもよいですね」
ユリの問いに二人は首肯し、了解の意を示す。
「ユリ、今の私はアインズではない。グリーン・アローだ。このナザリックへの侵入者、アダマンタイト級冒険者グリーン・アローと考えよ」
「……侵入者は排除いたします!」
ユリは腰を落とし、戦闘態勢に入った。他の二人もそれぞれ構えに入る。
「開始!」
パンドラズ・アクターの合図とともに銅鑼が鳴らされ、大歓声が上がった。
「行くぞっ!!」
アインズは緑色の弓を構えて、矢を高速で連射する。
「は、速い!」
まず標的にされたのは近接攻撃型のユリだった。殴りかかるにしても蹴るにしても接近しないとユリは攻撃できない。
「なんのおおっ!!」
しかし、ユリは次々に飛んでくる矢を、全て左右のガントレットで殴り飛ばして防いでみせた。
「ユリ姉! なんで全部こっちに弾くっすか? こっちに弾かないで欲しいっす!」
ユリが弾き飛ばした矢は、なぜか全てルプスレギナの方へと飛んでおり、ルプスレギナは前後左右にステップしてそれを躱す羽目になっていた。
「あら、私としたことが……オホホホホ」
ユリは笑って誤魔化す。
「絶対、わざとっすね!」
「オイオイ、ずいぶんと余裕があるようだな?」
アインズは徐々に連射速度を上げていく。
「
先程まではユリのみを狙っていたが、今度は
「くっ! はやいっ!!」
ユリは先程と同じように左右のガントレットで弾いて防ぎにかかる。
「うわ、危ないっす!」
ルプスレギナは体捌きでかわし、避けきれない矢を手に持った聖杖で叩き落とす。
「これくらいなら……」
ナーベラルは、なんとそれを全て避けて見せた。
(……ほう。ナーベラルに避けられるとは……)
ユリとルプスレギナの行動は想定の範囲内だったのだが、ナーベラルがこれほどの反応をみせるというのは完全に想定外だった。
「意外とやるわね、ナーベラル」
「ナーベラルは、普段からアインズ様……いえ、グリーン・アローの御傍に仕えております。そのせいではないでしょうか」
アルベドの呟く声に、セバスが解説を加える。
「この程度は対応してくるか。では、これならばどうかな?」
アインズはさらに速度を上げる。
「ちょ、ちょっと待つっすー!」
まずルプスレギナが避けきれずに被弾。体に数本の矢が突き刺さる。
「なっ?」
ユリもかなりの数を防いだものの、やがて防ぎきれずに矢を受けることになる。
「〈
ナーベラルは魔法を発動し、矢を迎撃し全て防ぎきる。
「〈
「しまっ!」
ナーベラルが先程避け、地面に突き刺さっていた矢が爆発する。
「きゃんっ!」
爆風で吹き飛ばされたナーベラルは、可愛い悲鳴をあげながら地面に倒れ込んだ。
「甘いぞ、ナーベラル。油断しすぎだ」
アインズの、“アローとしての戦い方”をナーベラルは実際に見てきている。だからこそ、、ナーベラルはそれを防ぐ手段を用意できていた。だが、アローの矢は
「しばらく大人しくしていてもらおう」
アインズは狙いをつけ数本の矢を放つ。〈
「では残りは……ぐわっ!」
アインズの左頬にユリの右拳がめり込み、アインズの体が吹き飛ばされる。
「油断しすぎではないでしょうか、グリーン・アロー」
ユリの眼鏡の奥の瞳がキランと輝く。
「そういうことっす!」
吹き飛ばされた位置で待ち構えていたルプスレギナが、聖杖をバッティングのようにフルスイングしてアインズの頭部をジャストミート!!
「うぐあっ!!」
アインズの体が持ちあがり、10メートルほど後方へと弾き飛ばされた。
「〈
拘束されていても魔法は打てる。ナーベラルが最強化した二本の雷が、拘束ワイヤーを弾き飛ばしアインズを直撃!!
「ぐあああああああっっ!」
さらにユリが殴りかかり、左右の強烈なフックの連打から、隙を見て右アッパー!! アインズの体が宙に打ち上げられた。ユリの右手を高く打ち抜いたフォームが芸術品のように美しく輝いて見えた。
「ルプスレギナっ!」
「地獄へ送ってやるっす! とりゃああああっす!」
浮き上がったところにルプスレギナがジャンプし、アインズの顎に折り曲げた
「ぐがはっ!!」
並みの人間であれば首が落ちるような強力な一撃にアインズが悶絶する。
「〈
地面に倒れたアインズ目がけて、再び二本の雷が奔る。
「なめるなよっ!!」
アインズはヘッドスプリングで跳ね起きると、そのまま3回バック転して大きく距離をとる。
「残念、よけられたっすか!」
「さすがはグリーン・アロー。二度目は通じませんか……」
ちゃんと“グリーン・アロー”と呼ぶあたりにナーベラルの成長が見える。
(いいですね、ナーベラル殿。きちんと呼び分けることができるようになりましたか)
パンドラズ・アクターは、ナーベラルの成長が自分のことのように嬉しかった。