―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~   作:NEW WINDのN
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 シーズンフィナーレとなります。




 


シーズン4最終話『グリーン・アロー後編』

 

 アインズが変身している“緑衣の弓矢神”アローと、セバスが演じる黒き戦闘者ブラック・バトラーの戦いは、序盤の打撃戦はまったくの互角。中盤からは他の技を使い始めたアインズが押し始めていた。

 

「ぐうっ……」

 右のミドルキックを放ったブラック・バトラーだったが、それをガッチリと抱え込むようにキャッチされ、気が付けば一回転させられてダウンしていた。

(多少のダメージはあるようですが、問題はないようですね)

 ヘッドスプリングで素早く起き上り、ダメージを確認する。アインズの〈ドラゴンスクリュー〉で足へのダメージは受けたものの、さすがに一発で壊されるような柔な体はしていない。

「さすがにタフだな」

 今までの低レベルな相手であれば靭帯をねじ切ることもできたのだが、同じレベルの相手だとそうはいかない。 

「いえいえ。今の技は素晴らしかったですよ」

 殴りかかれば投げ飛ばされ、蹴りを繰り出してもガードされたり、今のように足を殺しにくる。ブラック・バトラーがどんなに技を繰り出してもダメージを与えることができない状態が続いていた。

(ふむ、護身術の類なのでしょうか……防御(デイフェンス)が非常に巧みですね……私も少々工夫をしないとだめでしょうか)

 ブラック・バトラーの構えから力みが消える。

 

(むっ……気配が変わったな。なにか仕掛けてくるつもりか? やれやれ……セバスのことは言えないな。前衛をやっていると気配がわかるものなのか)

 先程、ブラック・バトラーが、“気配が変わった”と、今のアインズと同じようなことをいったのを思い出す。

「何か企んでいるようだな」

 

「ふふ……それはどうでしょうか?」

 ブラック・バトラーは、再び鋭い右のミドルキックでアインズの左脇腹を狙う。

「つうじな……うっ……」

 もう一度キャッチしようとしたアインズを嘲笑うように、途中で軌道を変化させ、左腿を蹴り飛ばす。

「やるじゃないか、フェイントとはね」

 アインズは楽しげな声を上げた。

(……これが100レベルの蹴撃か、重いな。……ちょっと足痺れているし)

 芯に響くような重い一撃に足には軽い痺れがあった。

「まだまだ序の口でございますよ」

 ここからブラック・バトラーの蹴り技が冴えわたる。ローと見せかけてミドル。ローからミドルに見せかけて、やっぱりローと自在に蹴り分ける。

(……まずい。まったく防げないぞ)

 右・左・右と次々に繰り出される蹴りがアインズに確実にダメージを与えていく。

 クレマンティーヌくらいのフェイントであれば見切れるが、さすがに同格相手では簡単にはいかない。

 そして、ついに右ミドルからの軌道変更で顔面を蹴り飛ばされてしまった。

「ぐおっ!」

 左頬を思いっきり蹴り飛ばされたアインズは、30メートルほどブッ飛ばされ、途中にあった建物を2つ破壊し、3つ目の建物に叩きつけられた。。

「うー、頭がクラクラするな……いまのは結構効いたぞ……」

 さすがにダメージが残り、足元がまだふらついている。

 

(本当に全力でかかってきたな。まったく、真っ正直な奴だ。だが、それでも私はナザリック地下大墳墓の絶対的支配者アインズ・ウール・ゴウンだ。負けるわけにはいかん)

 姿はアローのままであるが、アインズの戦いのスイッチが完全に入った、

 

「さすがにタフですね。完璧に入ったと思ったのですが」

「舐めるなよ!」

 アインズは〈ナックルアロー〉を繰り出す。

「〈アイアン・スキン〉!」

 4回目となる拳同士の激突! 

「ぐあっ!!」

 だが、今回はアインズが打ち負ける。ブラック・バトラーはセバス本来の特殊技能(スキル)であるアイアン・スキンを使うことで拳の強度を上げていた。

 

「やるじゃないか」

「いつまでも同じとは思わないことですね。油断は大敵でございます」

「意趣返しというわけか。なかなか楽しませてくれるな」

「私の務めにございます」

 再び向かい合う二人。

 

(さて、どうするか)

 別に全力で倒す必要性はないのだが、やはり勝ちたいという気持ちがある。

(私は非常に我がままなんだよ、セバス。負けたくないんだよ。力では負けるかもしれんが、今までの戦闘経験が私にはある!)

 アインズは勝負をつけることを決断する。

「こい、ブラック・バトラー」

「では、決着つけさせていただきます」

 ブラック・バトラーの拳が唸りをあげてアインズに迫る。

「でええいっ!!」

 アインズは、それを避けながら拳を振り上げる……フリをして、ブラック・バトラーの意識を上に集めると、がら空きとなった腹部へとヒザを突きたてた。  

「ぐおおっ……」

 強烈な一撃にブラック・バトラーの体がくの字に折れる。

「逃がさん!」

 首を抑えると、ヒザの連打! 連打! 連打! その一発一発が的確に急所を抉っていく。

「おごっ! おぐおおおっ……がっ……」

 容赦のない膝の連打は20回を超える。さすがのブラック・バトラーも反撃する余裕すらない。

(これは魅せるための攻撃ではないからな……)

 アインズがアローとして格闘戦に臨む際は“観客を意識した魅せる戦闘”を主に行っている。ただし、レベル差がある相手に殺すつもりで仕掛けた場合は除いてだが。

 先程までは魅せる戦い方をしていたが、ここは目撃者もいない場所。それに相手は同格のモンクだ。本気で倒すつもりでないとダメージは通らない。

 

「ぐはっ……」

 ブラック・バトラーが仮面の中で血を吐き、ついに崩れ落ち片膝をついた。

「ブラック・バトラー! これで終わりだっ!!」

 フィニッシュ宣言し、必殺技を放つ体勢に入る。

「〈閃光式不死鳥弾(シャイニング・フェニックス)〉!!」

 太腿を踏み台にして、飛翔し、大きく手を広げながら膝をブラック・バトラーの顔面へと叩き込む。

 

『アインズ様、お時間でございます』

 しかし、パンドラズ・アクターからの、〈伝言《メッセージ》〉が入ったため寸前で技をとめ、ブラック・バトラーの肩を軽く蹴って後方に回転し華麗に着地を決めた。

 そして近隣の家屋の中へと飛びこむ。ブラック・バトラーもそれに続く。

 

「さすがはアインズ様。素晴らしい攻撃でした」

 室内へ入ったところで、ブラック・バトラーいや、セバスはグレーの仮面を外して素顔を見せながら跪く。

「世辞はよい。セバスもさすがの戦いぶりであったぞ。非常に楽しめた」

「ありがとうございます。私も楽しませていただきました」

「もう少し楽しみたいところだが、どうやらここまでのようだな」

 アインズもアローの変身を解き、本来の死の支配者(オーバーロード)の姿へと戻る。

「さて、セバス。ブラック・バトラーとしての役目ご苦労だった。脅威の存在がいること、そしてそれに伍する我々漆黒の名声を高めることは十分にできただろう。ただ、ブラック・バトラーという存在をここで消すのはいかがなものかと思っていてな」

「デミウルゴスからは、アインズ様にお任せすると言われております。こうやって戦う機会を与えられるのは非常に嬉しいことですが」

「わかった。セバス、お前を〈転移門(ゲート)〉でナザリックへ転送させよう。後は任せておけ」

 アインズはそう告げると、素早く〈転移門(ゲート)〉を開いた。

 

 

 

 ◆◇◆ ◆◇◆

 

 

 

「逃がしてよかったのですか、モモン様」 

「……さすがに今から王都中に悪魔を放たれてはとても対処しきれないだろう。私を含め皆疲れ切っている状態だからな」

 イビルアイの質問に対し、モモンはヤルダバオトの去った空を見上げたまま応えた。

「とっくに限界を超えていますからね。ここからさらに戦闘となったら、数刻も持たないでしょうね」

 そう言ったラキュース自身も、ここへ来るまでの激戦で大きなダメージを受け、魔力も尽きている状態だった。

「奴を倒せなかったのは残念だが、ここは王都を守ったことで満足すべきだとは思いませんか、イビルアイ」

 漆黒の戦士モモンの鎧は大きな傷が入っている他、無数の傷が残っている。どんなに激しい戦いだったかはそれを見れば一目瞭然だった。

「たしかに。脅威をひとまず取り去ったという成果で満足す……」

 ここでやや離れた場所から爆発音が響き、いくつかの建物が粉々に砕け散った。

「な、なんだ!?」

「あちらはアローさんが戦っていた方角では?」

 ラキュースが心配そうな顔で爆発のあった方向をみる。アローの戦いで爆発音がするのは2回目だ。前回よりも今回の方が大規模な爆発だった。

 

「……様子をみにいきましょう」

 モモンは返事を待たずに歩き出す。イビルアイとラキュース、そしてナーベがそれに続いた。

「……アローさんは大丈夫でしょうか……」

 ラキュースは、か細い声で呟く。

「アローなら大丈夫でしょう。あの方はとても強いですから」

 ナーベがキリッとした顔を崩さずに応える。

(ほう、彼女は信頼しているのだな。アロー様の事も)

 イビルアイは、勝手に恋のライバルと思っている相手の評価を一段上げた。

 

 

 

「これは……いったい……」

 イビルアイが息をのみ、ラキュースは無言で目を見開き、固まった。

「何があったのでしょうか」

 ナーベは刀の柄に手をかけ周囲を警戒する。

 

 そこは、街であったとは思えないような場所になっていた。家が立ち並んでいたはずの場所には建物はなく、ただそれを構築していた不燃物が残っているだけになっている。木で作られていたものはすでに燃えてしまったかのように存在していない。

 

「あれは!」

「ラキュース?」

 ラキュースが地面に落ちている緑色の弓を見つけ、慌てて駆け寄る。

「やっぱり、アローさんの弓だわ……」

 拾い上げたのは間違いなくアローの使っている弓であった。販売されている“緑衣の弓矢神”モデルの量産品とは質が違った。

「アローさん……」

 ラキュースは弓を大事そうに抱えながら、辺りを見回した。だが、そこにアローの姿はなかった。

「ブラック・バトラーもいないが、アロー様の姿もないな」

「むう……簡単に死ぬような男ではないはずだが……」

「アローさんは、死にません! もし死んでいたとしたら、私が生き返らせてみせます!!」

 ラキュースはそう力強く宣言した。

(……死体がなければ生き返らせるのは難しいのではないしょうか)

 モモンのヘルムの中で、パンドラズ・アクターはそんなことを考えるが、口には出さなかった。

 

 

 

 ◆◇◆ ◆◇◆

 

 

 簡素なものではあったが勝利を祝う宴が終わりを告げた。もっとも完全勝利ではなかったし、かなりの数の犠牲を出しているので“慰労会”の方が表現とすれば正しいかもしれない。

 

「アロー様、結局戻ってこなかったな」

「そうですね……あの方が死ぬとは考えたくないのですが……」

 ラキュースは冒険者の復活のために魔力を使い切り、疲れ切った顔をしている。

 

「あいつは死なん。私はそう信じている」

「……はい。私もそう思います」

「モモンさんとナーベさんを私も信じることにします。だって、私達よりもずっと彼のことを知っているはずですから」

 ラキュースは王都を照らす太陽を見つめる。自分たちが守った王都は、いつもよりも美しく見えた。

 

 

「……遅くなったな、宴には間に合わなかったか?」

 角を曲がって姿を現したのは、緑色フードの男アローだった。右袖が千切れている上に、服のあちこちが破れたり、焦げたり煤けたりしているが、いたって元気そうだった。

「おかえりなさい、アローさん。無事だったんですね」

「ああ、無事だ。少々爆発のせいで、遠くに飛ばされてしまってね。しばらく気を失っていたようだ」

「ブラック・バトラーは倒したのか?」

 イビルアイが尋ねるが、アローは首を左右に振った。

「わからん。止めをさそうとしたところで、爆発が起きてしまってね」

「そうか。まだ生きているのかしれないな」

「かもしれん。だが、生きているのであれば、また戦うだけさ」

「ヤルダバオトとブラック・バトラーか。私達も漆黒の皆さんの役に立てるようにもっと精進しないといけませんね」

 ラキュースの言葉に、イビルアイが頷く。

「それはそうと、ラキュースさん」

「は、はい!」

 突然名前を呼ばれラキュースはドキマギした反応を返す。   

「……私は強敵と戦ってパワーアップして帰ってきたんだ。今後はグリーン・アローと名乗ることにした。ああ、呼び方はアローで構わないぞ」

 真顔でそんなことを言い放つグリーン・アロー。

「それじゃあ、変わらないじゃないですかっ!!」

 ラキュースは笑顔で指摘する。

「まあ、そういうことだな」

「もうっ!」

 皆が笑顔をみせる。

 

「まだ、食べ物は残っているぞ。帰ってくると思って残しておいたんだ」

 イビルアイがない胸を張るが、やはり子供にしか見えなかった。

「それはありがたい。実は……空腹で倒れそうだった」

 これがオリバーであれば“実はハラペコだったんだ”というところだが、今はアローの姿なので真面目に答える。

「さあ、二次会の始まりですね!」

 ラキュースがアローの腕を引っ張っていく。

「おいおい、私は一次会だぞ?」

 

 この後、“蒼の薔薇”と“漆黒”の2つのアダマンタイト級冒険者の宴が始まり、楽しい時間をすごしながらお互いに情報の交換を行ったと伝えられている。

 

 

 

 王都の長い、長い一日が、ようやく終わりを告げた。 

 




 
 
 今回でシーズン4のフィナーレになります。

 ここで連続更新をいったん区切りとさせていただきました。


65話までお読みいただきありがとうございました。

 
  






 
 

  





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