―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~ 作:NEW WINDのN
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真夜中……通常は皆が寝静まっている時間帯であり、静寂が支配しているのだが今日はまったく様子が違っていた。
王城の一角にあるそれほど広くない部屋には、様々な武装に身を包んだ男女――緊急招集に応じた冒険者――が多数集まっている。
彼らが首から下げているプレートは、オリハルコン、ミスリルといった上位クラスの冒険者だけではなく、
彼らは、なぜ集められたのかは薄々感じている。それは「今、王都の一角を包んでいる謎の“炎の壁”。これに関連する内容ではないか」というものだ。そうでなければ、これだけの人数が、ランクを問わずに集められることなど考えにくい。
また、上位の冒険者は、部屋の隅で直立不動の姿勢で待機する白い
そんな中、冒険者たちの喧騒とはやや離れた部屋の最奥の壁際に立つ3人の冒険者に、彼らの注目が集まっていた。
彼らが下げるプレートは、最上級冒険者を示すアダマンタイト。同格の冒険者は“朱の雫”・“蒼の薔薇”の2チームしかおらず、王都では顔が知られている。
王都の冒険者に顔が知られていないアダマンタイト級冒険者チーム。ほんの一握りの上位クラスの冒険者は、彼らを……いや、彼らのチームのことを知っていた。
エ・ランテルで誕生した王国第3のアダマンタイト級冒険者チーム“漆黒”であると。
「……注目されているようだな、アロー」
「ああ、我々は良くも悪くも目立つからな」
モモンに扮しているパンドラズ・アクターの言葉に、アローに変身中のアインズが頷く。
“漆黒”の3人は、アダマンタイトのプレートがなくても目を引く存在だ。
3人の右側、腕組みをして立っている漆黒の戦士。彼が身に纏う漆黒の
真ん中にいるのは、緑のフードで顔を隠した男。背中に背負う矢筒、そしてこれも逸品と見える弓。ここにいる冒険者は知らないことだが、いつもと彼の服装は異なっており、長袖の服を着ている。左の前腕部には15センチほどの短い投擲用の矢が数本見えていた。
先のブラック・バトラーとの戦闘で服が破られたため、違うバージョンに変えている。
この二人だけでも十分目立っているのに、さらに左側に漆黒の髪をポニーテールにまとめた絶世の美女ナーベまで控えているのだ。目立たないわけがなかった。
そして、扉が開かれ冒険者たちの前に、一人を除いて女性の集団が入ってきた。彼女らは王都の冒険者であれば、皆が知っている大物たちであった
アダマンタイト級冒険者“蒼の薔薇”のリーダー、ラキュースを先頭に、”黄金の姫”と呼ばれるリ・エスティーゼ王国の第3王女ラナー。そして王都冒険者組合の組合長が続く。
その後ろには、”蒼の薔薇”のイビルアイ。最後に王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。
ラナーの美しさは冒険者の間でも評判となっており、冒険者たちは評判通りいや、評判以上のラナーの美貌に目を奪われていた。 壁際に立つ”漆黒”の”美姫”ナーベとはまたタイプの違う美しさである。
「皆さん、まずは非常事態に集まってくれたことに感謝いたします」
40歳くらいの女性――冒険者組合の組合長――が口火を切り、続いて“黄金の姫”ラナーが挨拶と感謝を述べ、ラキュースが相手の戦力を説明する。
こうして、ラキュースとラナーから示された今回の依頼内容をまとめると、冒険者は、敵の首魁であるヤルダバオトと、その腹心と思われるブラック・バトラーを、モモンとアローが
その話の中で明かされた驚愕の事実。それは、相手が強大な力を持ち、アダマンタイト級冒険者チーム”蒼の薔薇”のメンバーが3人も殺された、しかもイビルアイの言葉によれば、3人とも“一撃で殺された”。かろうじて生き残った二人もまるで相手にならなかった……人類の希望の光といえるアダマンタイト級冒険者がまったく歯が立たない相手だという。
「そんな規格外の相手が2人いや2体もいるんだろう? 勝てるわけがない。王都から逃げ出すべきじゃないのか?」
それを聞かされた冒険者たちは絶望することしかできなかった。アダマンタイト級冒険者が勝てない相手に自分たちでどうするのかと。
「いや、希望の光はあるんだ!」
「ええ。それもとびっきりのがね」
イビルアイとラキュースが、壁際で立っている二人の人物を指し示した。
そしてアダマンタイト級冒険者チーム“漆黒”“。チームリーダーの”漆黒の英雄“モモンは、敵の首魁ヤルダバオトと、”緑衣の弓矢神アローは、ブラック・バトラーと。それぞれ互角に渡り合うことができるのだと告げられる。絶望の思いにとらわれていた冒険者達の心に、彼らの存在が希望を与える光となった。
先程までとは違い、モモン達”漆黒”の周りには上位の冒険者達が順番に並び、次々と挨拶を交わしていた。彼らは口々に装備を褒め、成し遂げた偉業について尋ね、そして今度ゆっくりと英雄譚を聞かせてほしいとせがんでいく。
アインズは握手をかわしながら、上位の冒険者の名前を頭に叩き込んでいく。頭脳明晰なパンドラズ・アクターも隣にいるので安心ではあるが、やはり今後も絡む可能性が高いミスリル以上の冒険者の顔と名前は覚える必要がある。
となると、当然
「初めまして!
「アローだ」
握手を交わしたアインズは、彼の装備について気になることがあった。
(服装は
「やはり、気になりますか?」
「
「“蹴って唱える”が私の二つ名です。支援魔法が得意とする
カッターレの言葉には中途半端ではないのですという自負が見えた。
(なるほどな。私の正体は
「両方を極めるのは大変でしょう。でも、私も思いますよ。魔法が使えたらなと」
「わかります。アローさん、王都を守るためにもお願いしますね」
「ああ。任せてくれ。ブラック・バトラーは私が仕留めて見せよう」
もう一度握手をかわして、短い邂逅は終わりを告げた。
「はじめまして。
ナグロスは武骨なガントレットを外し、握手を交わす。
「“鉄拳”ですか。ああ、その使いこまれたガントレットを見れば戦闘スタイルはわかりますよ」
「“
グッと拳を握り込んでみせる。だが、彼の眼には迷いがあるようにも見えた。
「なるほど。気持ちはわかりますから」
「ぜひ一度手合せ願いたいものです」
ナグロスは気楽にそんなことを言い、去って行った。
「ご、
モモンとアローを前にしてリュウマは固くなる。
「り、両刀使い?」
モモンとアローは一歩下がる。
「ちょ、ちょっと待ってください。ち、違いますって! これですよ、これ!」
リュウマは背負っている直剣と刀を指差す。
「ああ。二刀流ということですか」
「はい。そ、そのモモン様の活躍を耳にしまして」
リュウマの持つ直剣は“漆黒”の公認ショップ“
「それは漆黒モデルですね。わざわざエ・ランテルまで?」
「ええ。依頼のついでにですけど。それにしてもモモン様達はあっとういう間にアダマンタイトまで昇格されたそうですね。自分たちもそこを目指しているので、抜かれたと聞くとちょっと悔しいですけど、憧れます。早く追いつきたいです」
リュウマはちょっと悔しげな表情を見せた。
「さあ、いきましょう皆さん! 王都を救うのです!!」
ラナーの号令に、皆が応じ部屋を出ていく。
王都における悪魔に大軍と、冒険者および衛兵による大規模戦闘がこれから始まろうとしていた。
冒険者たちは生き延びることができるだろうか。
今回登場した冒険者達は、先日実施させていただい登場人物募集に、ご応募いただいたキャラクターになります。
カタッターレは毒々鰻様、ナグロスは炬燵猫鍋氏様、リュウマは、丸藤ケモニング様の案になります。
ご協力ありがとうございます。