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【社説】

あおり運転判決 路上の悪意と向き合う

 あおり運転で停車させられた車に後続車両が追突し夫婦が死亡した事故の裁判員裁判で、横浜地裁はあおり運転の男に懲役十八年を言い渡した。路上の悪意とどう向き合うか今後も議論が必要だ。

 今回の裁判の立証は、走行中の様子を動画で撮影するドライブレコーダー(DR)の普及によるところが大きかったのではないか。検察側は周辺を走行していた車のDRを解析するなどして、石橋和歩被告(26)のあおり運転の詳細を明らかにした。

 神奈川県大井町の東名高速で起きた事故では、パーキングエリアで駐車方法を注意されたことに憤慨した被告が、注意した男性や家族が乗る車の進路を繰り返し妨害。追い越し車線での停車を余儀なくさせ、追突事故を誘発した。

 運転中の行為を前提としている自動車運転処罰法の危険運転致死傷罪が、停車後の事故に適用されるかが最大の争点となった。検察側は被告が高速上に車を止めた行為が同罪の構成要件の「重大な交通の危険を生じさせる速度での運転」に当たると主張。弁護側は無罪を主張した。判決は「危険を生じさせる速度」に停車を含めることは「無理がある」として検察側の主張を採用しなかったが、一連の行為と事故との因果関係を認め同罪は成立すると判断した。

 長く交通事故は「過失」として扱われ、刑事責任は業務上過失致死傷罪(最高懲役五年)が適用されることが多かった。飲酒事故で家族を亡くした遺族らの無念が厳罰化を促した。遺族らが三十万筆以上の署名を国に提出したことが二〇〇一年の危険運転致死傷罪(最高懲役十五年、後に二十年に引き上げ)の新設につながった。

 恣意(しい)的な運用にならないか、厳罰化が抑止効果に本当につながるかなどについて議論はある。一三年に初めて、脱法ハーブを吸って死亡事故を起こした男に危険運転致死罪が認定されるなど、起きた事故で「危険」の線引きが更新されていく現実もある。

 今回の判決もその一つといえる。裁判員の一人は会見で「法律はなぜこんなに融通がきかないのか」と苦悩の末の判断だったと明かした。路上の「故意」「悪意」にどう法の網をかけるのか。たゆまぬ議論と検証は必要となろう。

 痛ましい事故を契機にDRの普及はさらに進んだ。免許の更新時講習などあらゆる機会をとらえ、路上の悪意を未然に摘み取る努力を続けていくことも必要だ。

 

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