『BLACK ROOM』(世にも奇妙な物語 SMAP特別編)はなぜ面白いのか?
『BLACK ROOM』は2001年の元日に地上波で放映された、「世にも奇妙な物語 SMAP特別編」の木村拓哉が主演した作品でありますが、これがとても優れた作品でして、今でも年一くらいで観たりするので、今回記事にしてみたいと思います。
あらすじ
アメリカに留学していた大学生のナオキは、久しぶりに帰国し実家へ帰省すると、家の様子が一変していた。真っ暗な部屋で、可笑しなことばかり言う両親……。生まれ育ったはずの我が家は一体どうなってしまったのか?!
思いついたモン勝ち?!一本取られる優れた設定
まず何と言っても素晴らしいのは、このストーリー設定ですね。久々に帰った我が家が可笑しなことになっている……部屋が真っ暗でそれを必死に誤魔化す両親。なぜ部屋が真っ暗なの?両親は一体なにを隠しているの??って想像というか、変な妄想がどんどん膨らんでいく話じゃありませんか。
で、これはこれで一つの結論を出してはいます(オチはネタバレになるので伏せます)が、これじゃなくても他にも色々と膨らませたり遊べそうな話の設定だよね、という感じで、星新一の短編とか、伊坂幸太郎の小説なんかにありそうな雰囲気。何にしろこの設定で一つの舞台も出来そうなほどです。脚本を書いた石井克人氏は、これを思いついた時にはテンション上がったんではないかな〜と思います。やっべー!面白いの降りてキターーー!みたいな、自分だったらそうなりますね。ただ、最終的な落とし所は、いかようにも出来るわけなので、最後まで悩みそうなところですが……。
会話が面白すぎる!役者の演技が最高に素晴らしい
ストーリーはいわゆるワンシチュエーションもので、真っ暗な中に食卓と明かりが一つだけポツン、という状況の中、基本的に両親と息子ナオキの会話のみで話が進んでいきます。そのため石井克人氏の台詞回しの好き嫌いで評価が分かれるところですが、わたしは結構好きです。
ですが、それ以上に強調したいのが、何と言っても役者の演技が素晴らしいこと!!父親役の志賀廣太郎と母親役の樹木希林が始終すっとぼけてトンチンカンな会話をしてるのですが、この御二方の演技を見てると、マジでボケてんじゃないの?って思わせるほど自然でリアル。で、息子ナオキ役の木村拓哉はそこにキレッキレでツッコミを入れる、という、3人が本当に素なんじゃないかと見まごうレベルの演技なんですね。
思うのは、この御三方は皆、カメレオン俳優というよりは、「こんな感じの人」というスタイルを持っていてそこをブレない演技を手堅くやる役者なのだということ。ですから、他のどの役者がこれと同じ演技をやってもここまでの面白さは出せないのだろうな〜と思います。
にしても、あれはどこまでが台本でどのへんがアドリブなのでしょうか……?
演出がおもしろさを作り出す
この作品では演出も脚本も石井克人氏が担当しているのですが、個人的に一番勉強になったのは、演出の仕方やカメラワークが面白かったことで、やはり編集次第で作品の良し悪しはかなり左右されるのだ、と改めて思ったことでした。
例えば、この話の一番の謎は、部屋が真っ暗で、しかもすごく広い空間のようだ、という点であり、始終そこがツッコミどころになるわけですが、キムタクが毎度「この家広いよね?」ってツッコミを入れるところでカメラが瞬間的にズームアウトするんですね。
広くね!?って言った瞬間にキムタクが豆粒になり、空間の広さもそのまま感じさせる、編集のキレの良さに感心したし、笑わされました。
そして、「え、そこで!?」というような場所で無駄にスローモーションや顔のアップを入れる過剰演出なところなんかもまた、相乗効果で面白いんです。石井克人氏の名前をチェックしたのはこの作品がきっかけでしたが、個人的にものすごく笑いのセンスがある監督さんだと思います。
笑いを生み出すのって難しい
はっきり行って、泣かせる演出は簡単なんですよ。怒りや恐怖もまた然り。でも笑いはそうじゃなくて、喜怒哀楽の中で引き出すのが一番難しい感情だと思います。
わたしはチャップリンの映画を初めて見たとき、「へーこれが伝説の喜劇王?どこがおもろいのかよく分からんわぁ……」と思いながら観ていたら最後の方のとあるシーンがツボに入って爆笑し、その瞬間チャップリンの凄さにひれ伏しました。人一人を爆笑させるのってものすごく高いハードルじゃありませんか?
特に会話だけで笑いを生み出すのは至難の技だし、役者も演じ方によっては笑い所をハズしてしまう恐れがあるので、なかなか簡単にはいかないところかと。ましてや、不特定多数の人に受け入れられる笑いとなればなおさら。
この『BLACK ROOM』は不条理劇というジャンルに位置する作品かと思いますが、世にも奇妙な物語シリーズは、たまにこういう不条理ものを入れてきますよね。最近の作品はマンネリ感もありますが、またこういったクオリティの高い作品を見せてほしいと思う今日この頃です。