―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~ 作:NEW WINDのN
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王都の高級住宅街の一角に目的の家はあった。この地域も治安がよく、先ほどまで
この家は、一族と使用人家族二世帯程度が同居することを前提に建てられており、周辺の館と比べてみればこじんまりとしているが、それでも大きな家である。
ここは帝国からやってきた“商人の娘”ソリュシャンお嬢様ことソリュシャン・イプシロンとその
「戻りましたよ、ソリュシャン」
布袋から出したボロボロの女を両手で抱えながら、セバスが先に入る。
「お帰りなさいま――」
白いドレスをきた金髪のロールヘアの女性が出迎えたが、セバスの持っているものに目をとめ、あいさつを打ち切った。
「セバス様、そのようなものを持ち込まれては困ります」
ソリュシャンは、その美しい顔を曇らせる。ナーベラルとはタイプが異なるが、彼女もまた絶世の美女と呼ばれるレベルの美貌を誇っている。
「まあ、そういうなよ、ソリュシャン。これは俺がお願いしたことだからさ」
「まあ、オリバー様! これは失礼いたしました。いらっしゃいませ、オリバー様」
「久しぶりだなソリュシャン。息災だったか?」
「はい。元気にしております。ところで、これをどうさせるおつもりでしょうか?」
「ソリュシャンにはスクロールを預けてあっただろう? それで回復させてほしい」
「オリバー様、まずは体の状態をみさせてからの方がよろしいかと思います」
セバスが提案する。
「そうだな。ではソリュシャン頼む」
「かしこまりました。ところで、そちらは?」
「ああ。お前とも初めてだったか? コレはクレマンティーヌというものだ。新参だがよろしく頼むよ」
「クレマンティーヌです。よろしく、ソリュシャンさん」
「……こちらこそ。では一旦お預かりいたします」
ソリュシャンは別室のベッドへとセバスが抱えてきたものを持って行く。
「……なんだか、オリーの周辺って美人ばっかりだね、私も入っているけど」
「気のせいじゃないのか」
まともに取り合う気のないアインズであった。
しばらくした後にソリュシャンが戻ってくる。
「どうだった?」
「はい、オリバー様。梅毒に、その他二つの性病。ろっ骨の数本と指にヒビ。右手と左足の腱は切られ、前歯の上下は抜かれています。内臓も痛めているようですね。それに裂肛。また薬物による中毒もあるようですね。他にも無数の傷がありますが」
「ひどいものだな。これを同じ人間がやったというのか」
「私、前に聞いたことあるけど、王都にはあらゆる快楽に対して提供する娼館があるんだって。あそこはそういうところだったんじゃないかなー」
なにげにクレマンティーヌは情報通である。
「屑だな。どうせそこにも八本指が関わっているのだろうが、その八本指と王国の貴族、商人らも手を組んでいるという情報がある」
「噂ですが、第一王子もそれに関わりがあるとか」
「やはりこの国は腐っているのだな。ところで、ソリュシャン。治せるな?」
オリバーとしての眉根を寄せながら、王国への評価を大幅に下げる。
「はい、容易く。ところで、どこまで治しますか? 無傷の状態……あのような行為が行われる前までの、肉体の状態に戻せばよいでしょうか?」
「ああ。それで構わない。頼むぞ、ソリュシャン」
「かしこまりました。病気と傷は治せますが、精神的な傷は私では治せません」
「わかっている。そちらは私の方で対処しよう」
ソリュシャンは頭を下げると、部屋を出ていく。
(では、誰にも気づかれていないようですし、いただいてしまいましょうか。あなたもその方がよいでしょう? どちらにしても、至高の御方たるアインズ様のご命令。しっかりと役目をはたしてみせますわ)
ソリュシャンは邪悪な笑みを浮かべていた。
◆◇◆ ◆◇◆
屋敷の応接室。オリバーが一番奥の席に座り、その前にはセバスとソリュシャンが左右に別れて立っている。
「オリー、連れてきたよ」
相変わらずの調子で、金髪の女性を連れたクレマンティーヌが入室してくる。
「失礼いたします」
後から入ってきた女性は、昨日のボロボロだった姿ではなく肌にはつやが戻り、腫れ上がっていた顔もちゃんと戻っている。決して美女というわけではないが、愛嬌のある顔立ちであり、人に好意を持たれるタイプだと思われた。
「気楽にしてくれ。オリバー・クイーンだ。オリバーと読んでくれて構わない」
「はい。……この度はお助けいただき、ありがとうございました。オリバー様」
女性は深々と頭を下げる。
「名を聞こう。本名を」
「はい。ツアレ……ツアレニーニャ・ベイロンと申します」
「そうか!……やはり、そうだったか」
「なにかございましたか、オリバー様?」
セバスが主の変身している姿を凝視する。
「ああ、すまんな。ツアレ、君には妹がいるね?」
「ど、どうしてそれを??」
ツアレは目を見開き、オリバーの顔を見つめる。
「私は、エ・ランテルという都市で“
「い、妹が?」
ツアレの驚愕が大きくなる。
「ああ。妹さんは、今は“ニニャ”と名乗っているよ。女性であることを隠し、男装して冒険者になっていたんだ、今は休業中だがね」
「妹が……冒険者……そんな子では……なか……ったのに」
「聞くところによると、ニニャは姉を探すために冒険者になったそうだ。彼女は魔法適性という
「……私のため……に」
ツアレはギュッと唇を噛む。自分のせいで妹の人生を変えてしまったのだと知り、自分を責める気持ちで一杯だった。
「ツアレよ。自分を責めるな。……これはお前の妹の決断だ。彼女はツアレを助けるために、自ら決断し今の道を進んでいるのだ。――たしかにきっかけはツアレだったかもしれない。だが、それは彼女の人生の分岐点における道標でしかない。だから、ツアレ。お前が自分を責める必要なんてないんだよ」
(まあ、今俺がロールしているオリバーは、すぐに何でも自分のせいにして、自分を責めていたのだけどなあ。もしここに、あの“ドラマ”を知っている者がいれば、お前が言うなと総ツッコミを入れているだろうよ)
アインズは内心自分のロールにツッコミを入れる。別にアインズはオリバーになったわけではなく、オリバーの姿に変身して、それを演じているのだから、多少違ったところで問題はない。
「……わかりました。オリバー様」
「さて、ツアレよ。今後お前はどうしたい? 妹と会いたいか?」
「会いたいです……でも、私は汚いですし……」
「ツアレ、お前は綺麗なままだよ」
この発言にそれまで静かだった場がざわりとする。
「その瞳を見ていればわかるさ。心根が綺麗なのだな」
「……あ、ありがとう……ご、ございます。オリバー様」
ツアレは頬を染め俯く。
(また、オリーってばナチュラルに口説いているし、それに気づいてないし。まったく、やめてよねー。ライバルばっかり増えちゃうじゃない)
入口付近で控え、様子を窺っていたクレマンティーヌは、なんとか不満を顔に出さずに抑え込む。
(ま、それも魅力なんだけどねー)
「よいか、ツアレ。汚いのは、相手の方だからな。あの屑どもには、いずれ天誅が下るだろうさ。それでどうする?」
「はい。妹に会いたいと思います。その上で、私もオリバー様の店で働きたい……です」
「よかろう。セバス、問題はないな?」
「ハッ。それがよろしいかと思います」
「うむ。まずは体調を整えよ。お前の回復を待ってエ・ランテルへと案内しよう」
「ありがとうございます。オリバー様」
ツアレは丁寧に頭を下げる。そしてその瞳には涙が浮かんでいる。人の優しさに触れたのは彼女にとって久しぶりの出来事だった。
もっとも、ここにいる者はクレマンティーヌを除いて人ではないのだが。
ツアレがクレマンティーヌに付き添われて退出した後、アインズは、変身を解いて本来の
「セバス、ソリュシャン」
「「ハッ!」」
二人はぴたりと同じタイミングで跪く。
「ここまでの王都での情報収集の役目ご苦労だった」
「「ありがとうございます、アインズ様」」
ここも二人そろって応える。
「うむ。すでに情報は十分に集まっている。……ツアレを連れていくタイミングで、ここを引き払うから準備をしておけ。そろそろデミウルゴスも動くだろう。セバスには別の役目があるそうだ」
「かしこまりました」
「さて、ここからはちょっとした質問だが、セバス、お前は人間を殺せるか?」
アインズはセバスのカルマ値がナザリックでは珍しく善に傾いているのを知っている。
「はっ。正当な理由があれば。またはアインズ様のご命令でございましたら」
「そうか。では問題ないだろう。少々お前には酷な仕事になるかもしれんが、デミウルゴスと協力してことにあたって欲しい」
「…………はっ!」
アインズはセバスの顔にほんの一瞬だけ浮かんだ困惑も見て取る。
「ふふ。少し返事が遅れたな。――やはりデミウルゴスとは反りが合わないか?」
「申し訳ございません、アインズ様。同じナザリックの仲間ではあるのですが……考え方が合わない部分がございます」
セバスは非常に言いにくそうに答える、
「そうか。――お前の創造主である“たっち・みー”さんと、デミウルゴスの創造主である“ウルベルト”さんもそりが合わず、よく喧嘩していたものだ。お前たちは創造主の影響を受けているのだろうよ。意見をぶつけあうのも大事なことだ。そうすることでよりよいアイディアが生まれることもあるのだから。まあ、もう一度言うが協力しあってよい結果をナザリックにもたらして欲しい」
「かしこまりました。このセバス、必ずアインズ様のお役に立ってみせます」
「うむ。今後も、期待しておるぞ。セバス、ソリュシャン」
「ハッ!」
セバスとソリュシャンは偉大なる支配者に深々と頭を下げた。