中国の国防動員法 「戦争法」は有事にヒト・モノ・カネすべて強制接収
国際情勢分析北朝鮮の核・ミサイル開発問題をめぐっては、米下院が本会議で超党派による制裁強化法案を賛成多数で可決。中国の外務省は対米牽制を交えつつも、「朝鮮半島情勢は非常に緊迫している」と警戒を強める。
だが、北朝鮮から最短で数百キロしか離れていない日本では、国会がなおも共謀罪の構成要件を厳格化した「テロ等準備罪」を「戦争法だ」と、近視眼的に決めつける勢力に引きずり回され、危機感に乏しい。
187の国と地域が締約する「国際組織犯罪防止条約」に日本はなお加入できていない。条件となる国内法が不十分なためで、「テロ等準備罪」は重要なステップになる。だが反対勢力はお構いなく、いわれなき戦争論をあおり続ける。
一方、世界に目を向ければホンモノの「戦争法」はなにも珍しくない。中国が2010年7月に施行している「国防動員法」は戦争に備え、国家の強権を保障する法律の典型だ。有事には民間のヒト・モノ・カネすべて“強制接収”できる民主国家ではあり得ない独善的な規定だが、日本ではさほど知られていない。
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例えば第31条。「召集された予備役人員が所属する単位(役所や企業など)は兵役機関の予備役人員の召集業務の遂行に協力しなければならない」とある。
中国国籍の男性18~60歳と女性18~55歳はすべて国防義務の対象者。徴用される人員の場合、戦地に送られるよりも、兵站などの後方支援や情報収集任務が与えられる可能性が高い。
日本企業が雇用している中国人の従業員が予備役に徴用された場合でも、企業は給与支給を続ける義務が生じるが、社内の機密がすべて当局に筒抜けとなっても阻止する手段はない。しかも、海外在住者を除外する規定は見当たらない。
中国国内では、インターネットなど海外との情報通信の遮断から、航空便の運航停止、外資系企業や外国人個人も含む銀行口座や金融資産の凍結、車両の接収まで、すべてが戦時統制下に置かれる懸念がある。
この「国防動員法」は北朝鮮はもちろん、東シナ海や南シナ海、台湾海峡などで、あるいは中国国内で習近平指導部がひとたび「有事だ」と判断すれば、一方的に即刻、適用できる。
対中進出した外資系企業も含め、あらゆる組織が戦時統制の下に置かれる。こうした一党支配の強権を象徴する「戦争法」こそ警戒すべき対象ではないか。
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他方、米国には大統領権限で行使できる1977年10月施行の「国際緊急経済権限法」がある。安全保障や外交面で重大な脅威があると判断されれば、対象国の資産没収、国外で保有されている米国債の価値を無効にすることも可能だ。
安倍晋三首相(62)とドナルド・トランプ大統領(70)による2月の日米首脳会談で、米国の日本防衛義務を定めた安全保障条約第5条の尖閣諸島(沖縄県石垣市)への適用が初めて共同声明に明記された。
米財務省の3月の発表では、昨年6月末時点の米国債保有高で中国は1兆6300億ドル(現在のレートで約178兆円)と、日本の1兆9600億ドルに次いで世界2位。ただ、仮に中国が尖閣諸島や周辺で軍事行動を起こし、トランプ大統領がこれに同法を適用すれば、中国が保有する米国債は“紙くず”にもなる。
中国の国防動員法は独善的だが、米国の場合は少なくとも中国に対し、安易な軍事行動を思いとどまらせる抑止力がありそうだ。
迫り来る危機を目の前にしてもなお、根拠なき情緒的な理屈で反対ばかり繰り返し、「戦争法だ」とレッテルを貼る勢力。心ある世界には「奇異な存在」と映る。日本の安全保障上のパワーをそぎ落として、弱体化させたい何らかの海外勢力の関与すら疑われる。(上海支局長 河崎真澄)
■中国の有事法制関連法■ 1997年に施行された有事基本法の「国防法」があったが、動員の具体的措置に関する法令はなかったため、国防法を補完する「国防動員法」が2010年に成立。道路などの交通インフラの軍事利用を法制化する「国防交通法」が17年に施行された。同法は対中進出した外資系の企業も例外ではなく、企業のリスク管理の必要性を問う見解も根強い。