第19話 どおりで..... 「いや、下ってんだよ、下痢だから」。 「つまんねえんだよ、馬鹿。さあ、入るぞ」。 「俺はあんまり気が進まねえな。なんか怪しいぜ」。 「おい、ここまで来て帰れるかよ。一体この村に何があったんだかどうしても知りてえ。いや、知らなきゃならねえ。いいか、入るぞ」。 むしゃぶろうはそうっとカレー屋の戸を開けた。戸はむしゃぶろうが住んでいた頃とそのままの古い木戸だった。中を覗くと、横に長くカウンターが設えてあり、その前には丸椅子が並んで備え付けられてあった。まるで又しゃぶ郎が想像していた通りの作りだ。 「ほら、俺の言っていた通りだろ。まるで俺の言ってた通りの造りじゃないか。きっとうんこが出てくるから、入るのよそう」。 「違う。お前の言っていた通りじゃねえ。見てみろカウンターの中を。立っているのは若い女じゃねえぞ。しわくちゃの爺いだ」。 「じゃあ、爺いのうんこだ」。 それにしてもその爺い、何かに似ている。どこかで見た。と、むしゃぶろうは思った。しわくちゃの丸顔に頭には毛がポヤポヤとしか生えてない。しかもその髪の毛は縮れていた。 「見覚えがある。何かに似てる、なにに?.....。あ、そうだ!。金玉だ!。金玉に似てる!」。 どおりで見覚えのあったわけだ。そう思うとむしゃぶろうは無性に可笑しくなった。そして気分も少し楽になり、態度も大胆になった。むしゃぶろうは店の中に足を踏み入れた。そして入ってすぐの丸椅子に堂々と腰掛けると、 「おい、親父、一杯くれ」。 と、カレーを頼んだ。そして早速に核心に迫った。 「この店はいつからここにあるんだい。以前来た時には見かけなかったが」。 「へえ、まだオープンして一月足らずでございますので」。 「一月足らず?。じゃあ、前に居た者が出ていったのも一月足らずか」。 「いいや。わしがここに来た時にはもう中身はもぬけの殻で。廃屋になっていたのをこれ幸いと商売を始めさせてもらったと言う訳で」。 「じゃあ、前にどんな人が住んでいたのか知らないのだな?」。 「はっはっはっは」。 「何が可笑しい」。 「はっはっは、知っておるよ」。 「なに?」。 「調べ上げたからな」。 「何を不敵な、金玉おやじ!」。 「金玉おやじとはご挨拶だな、むしゃぶろう」。 「何故俺の名を?」。 「ここはお前が住んでいた家だろう。そしてお前の名は、お前の顔は、忘れようと思っても忘れられん。ここであったが百年目じゃ。覚悟しろ!」。 「お前は誰だ!」。 「ふっふっふっふっふ」。 金玉おやじはその顔の皮をはいだ。するとそこには別の顔があった。 「おお〜、お前は、雲国斎!。そうか、どおりで見覚えがあったわけだ」 つづく |