―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~   作:NEW WINDのN
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シーズン2第13話『英雄』

 

 

 リ・エスティーゼ王国、城塞都市エ・ランテル。

 この都市は交易が盛んであり、当然珍しいマジックアイテムも多く入ってくる。それが冒険者が多く集まることにもつながっており、王国内では王都に次いで冒険者が多い都市である。

 だが、人数こそ多いものの、これまでアダマンタイト・オリハルコンの上位2階級の冒険者は所属していなかった。

 そんなエ・ランテルに、初のそして王国では“朱の雫”・“蒼の薔薇”に次ぐ三番目のアダマンタイト級冒険者チームが先日誕生した。

 

 

 そのチームは正式名称こそ持たないが、人々からは“漆黒”と呼ばれており、すでにその名で定着している。

 彼らはつい先日まで無名の存在だったが、通常ではありえない偉業を二つも短期間で成し遂げ、瞬く間に最上級の冒険者と認定されている。

 

 一つ目の偉業は、共同墓地から突如現れた数千のアンデッドの大軍を蹴散らし、墓地の最奥で闇の儀式を行っていた秘密結社ズーラーノーンの幹部とその高弟を全て成敗し、大きな被害が出る前に街の危機を救ったこと。

 その功により、最下級の(カッパー)から、異例の措置で一気に4階級を飛ばしてミスリルプレートへと昇級を果たした。

 

 二つ目の偉業は、強大な力を誇る吸血鬼(ヴァンパイア)ホニョペニョコの討伐である。

 この吸血鬼(ヴァンパイア)は、冒険者1チームを、全てたったの一撃で惨殺するだけの戦闘力を有しているうえに、最低でも第3位階の魔法まで使うことのできるという、圧倒的な力を持っていた。

 

 ミスリルへ昇格した“漆黒”に同行したのは、同格の先輩ミスリルチーム“クラルグラ”。実績十分で、オリハルコンへの昇格も近いと言われていた”クラルグラ”が、死体ごと消滅させられて、全滅するほどの強敵だったホニョペニョコを倒し、“漆黒”は誰一人欠けることなく生還してみせた。

 

 彼らが戦ったと跡地という森の一角は、草一つ生えない荒れ地と化し、広範囲に渡って焼け野原となっていた。

  

 この吸血鬼(ヴァンパイア)ホニョペニョコ討伐という偉業達成により、彼らは満場一致でアダマンタイト級へと昇格を果たしたのである。

 

 なお、この“漆黒”というチームは通常のチームに比べて少ない3人のメンバーによって構成されている。

 チームリーダーは、漆黒の全身鎧(フルプレート)で全身を覆い、頭部は面頬付き重兜(クローズド・ヘルム)。その背には真紅のマントを靡かせ、二本の大剣を背負っている。

 この二本の大剣はグレートソード。通常、両手で扱うグレートソードをなんと二刀流で扱うという超人的な膂力を誇っている。たったの一撃で人食い大鬼(オーガ)を屠るという目撃証言がある。

 その性格は誠実かつ高潔。誰もが憧れる漆黒の戦士モモン。そんな彼についた二つ名は“漆黒の英雄”。今やエ・ランテル一の人気を誇る大英雄であった。

 街を歩けば、老若男女問わずに誰もが振り返り、熱い視線を送る存在。その人気を示すエピソードとしてすでに次のような英雄伝説が生まれている。

 

 子供は昔から強い者に憧れるものだ。当然、今の子供たちの遊びの中心は“漆黒の英雄ごっこ”である。

 もっとも漆黒の鎧や剣などが手に入るわけもなく、棒切れを黒く塗って代用するのが関の山だった。中には服を黒く染めたりして親に怒られるものも続出していると言われている。

 

 そんな“英雄ごっこ”に必須のアイテムが、“赤いマント”。子供は真似をするために親にねだり、もしくは小遣いを握りしめて赤い布を買ってマントの代わりにしている。

 そのために、エ・ランテルの布問屋や洋服を扱う店から、赤系統の布や服がすべて売り切れてしまうという事件が起きている。

 

 それを聞いたモモンは苦笑するしかなかったが、彼をさらに困らせたことが別にあった。それは他の色を売りたい問屋連中が宿を訪れ、漆黒の英雄に違う色のマントを着用するように願い出てきたことだった。……いや、ワイロを大量に積んで色変えを迫ってきたといった方が正しいだろう。

 心優しき英雄は断るのに苦労したそうだが、結局チームメイトの女性に「モモンは赤以外着用いたしませんのでお引き取りを」と繰り返され追い返されたという。

 

 そんなモモンの仲間の一人は、年齢問わず男性に高い人気を誇る“美姫”ナーベだ。

 美しい漆黒の髪をポニーテールにまとめており、常に凛とした雰囲気を漂わせている。最近街でポニーテールの女性が増えたという話もあり、男性だけでなく女性にも人気があるようだ。

 

 なお、チーム名の“漆黒”は彼女の髪の色からとったという説も街には流れており、学者の中では“絶世の美女という言葉は彼女の為にあった”という者も出ているという。

 彼女はただ美しいだけではなく、第3位階以上の魔法が使えると噂される凄腕の魔法詠唱者(マジックキャスター)だ。常にリーダーであるモモンを立て、自分は控えめに脇へ控える姿勢も美しいと評価されている。

 

 そしてもう一人のメンバーは、“緑衣の弓矢神”アロー。彼は弓矢の達人であり、墓地の一件で見せた正確な射撃は多くの者が証言している。

 弓矢を扱う者の欠点は接近戦と昔から言われているが、彼は格闘能力にも長けており、実際にアンデッドの大軍を拳と蹴りのみで圧倒した姿は語り草になっている。

 

 アローは常に緑色のフードを被り、アイマスクを装着しているため素顔は見えないが、モモンとナーベが南方の出と知られているため、彼もそちらの出身ではないかと噂されている。

 また女性たちの間ではそのミステリアスさが評判になっているとか。モモンに比べて人気は低いが、最近弓を習いたいという者が多く弓の道場に押しかけているというエピソードがある。

 

 彼らは強さだけでなく、優しさや誠実さを備えており、彼らに憧れて冒険者になる若者も増えており、そんな新人たちに人気なのが、“漆黒の英雄モデル”の片手剣や盾・帯鎧・皮の鎧・小手などといった装備品である。どう見ても普通の装備品を漆黒に塗り潰したものにしか見えないのだが、英雄にあやかりたいという者が多く、一部店舗では入荷待ちになっているそうだ。

 

 

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「……なんだ、これは……」

 エ・ランテル最高級の宿“黄金の輝き亭”。アインズ達は宿泊場所をアダマンタイトに相応しい場所へと移していた。当然出費は数倍に膨らむのだが、最高ランク冒険者が木賃宿のような場所に宿泊するわけにはいかない。

 

「いわゆる便乗商法……でございますね」

 パンドラズ・アクターも苦笑せざるを得ない。

「……値段は元々の2倍以上はするとの情報が入っています」

 ナーベラルが的確な報告をする。

 

「……ボッタクリだな」

 アインズは「どこの世界にもあるのだな」と考えてしまう。

「まさにボッタクリですね。……どうでしょうか、我々(ナザリック)で、そういった商品を開発して売りさばくという方法もありますが」

「うーむ。それともライセンス制にでもするか? 許可なく作成できないようにしてライセンス料をとる。正規ライセンスの持ち主しか販売できず、売上の数%を入れるようにさせるとか」

 アインズは昔の知識を引っ張り出す。

「そうですね。悪くはないかと思いますが。……これも有名税ではないでしょうか?」

「そうか? なんだか、詐欺会社の広告塔にでもなった気分だ」

 アインズはリアルの世界を思い出す。

 

「なるほど。では我々(ナザリック)直営の”漆黒”公認ショップを出すというのはいかがでしょうか?」

「直営の公認ショップか? ……悪くはないな」

 アインズはひとしきり考える。冒険者として稼ぐ以外の外貨獲得手段も欲しいところだ。

「仮に出店するとした場合ですが、店番はどうなさいますか?」

「あ……それが一番の問題だな……」

 アインズはナザリックの面々では難しいと瞬時に判断する。戦闘メイド(プレアデス)のユリ・アルファぐらいだろうか。

「支配下においた“アーセナル”と“スピーディー”を使うという方法もありますが……」

「いや、無理だろ。一人は戦闘技術を磨くことにしか興味がないし、もう一人は問題だらけだ。気に入らない客の額にスティレットを突き刺すことだってありえるぞ。まあ、用心棒くらいならできるだろうが接客などは無理だろう」

「確かにそうですな。……他に伝手でもあればよいのですが……」

「伝手か。現地の知り合いといえば、ブリタと漆黒の剣くらいか。他にもミスリルの連中とは話す機会も多いが彼らは無理だろうしな」

「接触してみるのもよいかと。何しろ彼らは九死に一生を経験しております。今後の身の振り方を考えているやもしれませんからな」

 パンドラズ・アクターの言葉に感じるものがあったアインズは、ちょうど依頼の合間ということもあり、彼らに接触することにした。

 

「ナーベラル、G計画(ネットワーク)に伝令、ブリタと漆黒の剣を探させよ」

「かしこまりました。すぐに手配いたします」

 ナーベラルは繋ぎをとるため一旦部屋の外へ出た。

 

「物件があるとよいが」

「手ごろな物件はすでにリストアップしてございます」

 ドヤ顔をしているはずだが、埴輪の顔のためよくわからない。

「……やるなパンドラズ・アクター」

「光栄です。ところで、アインズ様。このようなものもあったのですが、ご存じでしょうか?」

 パンドラズ・アクターは数枚の葉書サイズの羊皮紙を差し出す。

 

「な、なんだ、これは……」

 そこにあったのは、様々なポーズを決めた、ナーベの(イラスト)だった。

 

「“美姫”ナーベコレクションという名称で販売されています」

 それぞれの(イラスト)には……

 

 “颯爽と雷撃(ライトニング)を放つ美姫ナーベ”。

 

 “刀を抜こうとする美姫ナーベ”。

 

 “刀を最上段に構える凛々しいい美姫ナーベ”

 

 などというタイトルが付けられている。

 

 

「むう。この世界風の“ブロマイド”というものだろうか。人気アイドルみたいだな……」

「……握手券でもつけますか?」

 パンドラズ・アクターはさらっと言い放つ。

(……なんでお前、そんな100年以上前に流行った古い商法を知っている?)

 アインズは不思議に思ったが、きっとデータクリスタルにまぎれていたのだろうと結論づけた。

 

 

「いや……それは、どちらかといえばファンが減る気がするんだが……」

 アインズは冷たい目でファンを見下し、暴言を吐くナーベの姿をリアルすぎるくらいリアルに思い浮かべ、ないはずの眉をしかめ眉間に皺を寄せた。 

 

 もちろん、骨なので実行は不可能であったが……。

 

 

 

 

 

 

 

 






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