―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~   作:NEW WINDのN
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シーズン2第11話『参謀』

 ナザリック地下大墳墓第九階層にあるアインズの執務室。

 

 アインズは主にここで部下とのやりとりをすることが多い。玉座の間は多くのシモベに一斉に指示を伝えるのには向いているが、少人数での会議には広すぎて不向きだ。

 

(それに俺は一般人だからな。広すぎる場所は落ち着かないんだよ)

 それでも今アインズの目の前にある黒檀の執務机は、リアルでのアインズ(鈴木悟)が務めていた会社の社長室にあった机よりも遥かに立派なものであった。

 

 

 

「ブレイン・アングラウスはどうだ?」

 アインズは執務室に呼びよせたパンドラズ・アクターへと尋ねた。

「はい。アインズ様! ブレイン殿には忠誠を誓わせた上で、宝物庫にございました”ミラクル”を一回分投与致しました」

「“ミラクル”か。ハムスケを初めて見た時はハムスターに“ミラクル”を使ったのかと思ったな」

「はい。もちろん使う対象の種族や質量、また投与する量によっては、そのような副作用を起こす可能性も当然否定できません。強い効果を得られるものには、マイナスの要素も同じくらいあるものですから! ……ただ、今回は成功といってよいかと思われます。アインズ様」

「そうか。それは重畳。……パンドラズ・アクターよ。では投与前と比べるとどうだ? 何か変化はあったのか?」

「はい。アインズ様。投与前に比べてみますと、筋力・瞬発力・耐久力などのステータスが大幅にアップしております。あとはHPも大きく影響を受けています。ただ、残念なことにこと知力に関しては低下が見られます。つまり、ブレイン殿のような戦士職には合うアイテムでございますが、魔法詠唱者(マジックキャスター)には不向きなアイテムといえます」

 以前のパンドラズ・アクターであれば、ここでビシッ! と敬礼をしてもおかしくはない場面だが、彼はちゃんと言いつけを守っており、敬礼とドイツ語はあれ以来使っていない。ナーベラルに自分が指導した経緯もあり、きちんと守らねばと心に誓っているのだ。

 先程から会話に出てきている”ミラクル”とは、ユグドラシル時代に”DCコラボイベント”でアインズが手に入れたアイテムの一つで、投与された者の戦闘能力を大きく上げることが可能だ。もちろん多少のマイナス点はあるのだが……。

 魔法職であったアインズは、使うメリットがなかったため、宝物殿に投げ込んだままになっていたが、今回アインズは実験材料として手に入れたブレインに投与し、効果を確かめるようにパンドラに指示していた。

 

 

「まあ、奴の強くなりたいという望みは叶うのだ。それくらいのマイナスはよしとしてもらうとするか」

「はい。問題はないかと思われます。低下したといっても多少のことでございますし、もともとブレイン殿は頭もよいですから。 それにしてもアインズ様、よい素材を手に入れられましたな。ブレイン殿は、この地の人間にしては高い能力を持っています。およそレベルにして30程度。ハムスケ殿と同じくらいのレベルですな」

「そうか。なかなかやるとは思っていたが。たしか、ガゼフ・ストロノーフはハムスケより若干上だったかな。そのガゼフと過去に互角の勝負をしたということだから、ブレインのレベルもその程度なのだろうよ。そう考えるとハムスケが伝説の魔獣と呼ばれていたのも納得だな」

「はい。ハムスケ殿の強さは、生半可な冒険者では歯が立ちません。そうなるのも必然かと。なお”ミラクル”を投与しますと、おおよそ7レベル程度増加するようです」

 パンドラズ・アクターは楽しげに報告する。顔はつるっとしたピンクの卵なのでわからないが、声は明らかに弾んでいた。

(マジックアイテムを使わせたせいなのか? 機嫌がよさそうだ)

 パンドラズ・アクターにはマジックアイテムが大好きというような設定をした記憶があった。

「そうか。まあ、あまり多用してよいものでもないからな。それでブレインの反応はどうだ?」

「そうですな。自分の持つ力が急激にアップしたことに驚きながらも感謝をしておりました。第一段階でも十分彼の望みは果たせるとは思います」

 ブレインの望み。それはガゼフ・ストロノーフに勝つことだ。8レベルの増強を施し、装備を強化する。これだけでも十分渡り合えるだろう。ただ、漆黒聖典のような相手が出てきた場合は力不足となってしまう。

 

「……まあ、それでもよいのだがな」

「はい。すでに第二段階として転生実験を行っております。彼も強さを求めておりますし、話はスムーズの進みました」

 第二段階……それは”人とは違う何か、人ではない何か”に進化させることにある。もっとも人間の世界で使う予定の実験材料だ。あまり人とは違う外見にはできない。

「そうか。で、首尾はどうか?」

「はい。上々でございます。ブレイン殿はすでに転生に成功しております。レベルはそうですな……元の2倍弱でしょうか。なお、元々使っていた武技もそのまま使えるようです」

「なるほどな。元々武技を使えるのであれば異形種になったとしても使うことができるのか」

「その可能性は高いですが、まだ我々が使えるようになる可能性がなくなったわけではございません。引き続き実験が必要かと」

 パンドラズ・アクターは大げさに胸に手をやりポーズを決める。

「うむ。引き続きブレインで実験させよ。それと例の武装を渡しておくように。せっかく手間をかけたのだ。役に立って貰わねばな」

「かしこまりました。アインズ様」

 

 

「うむ。……ところでもう一人の方はどうだ?」

「ああ、ブロンド(スピーディ)でございますな。私は、直接関わっておりませんが、わりと早く根を上げたとの報告を受けています」

 自らナザリック入りを望んだブレイン・アングラウスと、強制的に連れてこられたクレマンティーヌ。当然扱いは変わり、クレマンティーヌは敵対行動を取らぬように“強制”いや、“矯正”されている。もしシャルティアに与えれば“嬌声”を上げることになっただろうが、アインズにはそういう趣味はなかった。

 

「役には立ちそうか?」

「はい。嬉し涙を流しながら、アインズ様に忠誠を誓うと申しているとか。すでにその証拠として色々と情報を話しているそうです。元漆黒聖典第9席次“疾風走破”だけあって、持っている情報はかなり多いようです。もっとも座学は苦手なようで、歴史などはかなりあいまいです」

「なるほどな。まあ、賢そうではなかったからな」

「はい。戦闘力は高いのですが……頭はともかく、戦闘力はブレイン殿よりも実力は上ですな。ミラクルを投与したブレイン殿でも勝てない可能性が高いです」

「私に直撃を喰らわせる奴だからな。一点特化というのはなかなか厄介なものだ」

「アインズ様がお気に召されたのはそういう点なのでしょうか?」

「そうだな。見どころはあるだろうし、カルマ値はこちらよりだろうよ」

 英雄の領域に入ってるそうだが、人間性にはかなり問題がある。

「確かにそうですな」

「本当に役に立つかは確かめるが、奴にも装備一式は渡しておけ。出番はわりと近いはずだ。早ければ今日だろう」

「だいぶ早いですな。ああ……吸血鬼(ヴァンパイア)の件ですな」

「ああ。冒険者組合が対策に動くだろうよ」

 

 

『アインズ様』

 アインズの頭にナーベラルの声が響く。

『どうした、ナーベラル?』

『お忙しいところ申し訳ございません。冒険者組合から召集がかかっております』

 ナーベラルの声は真剣なものだ。

『召集だと?』

『はい。詳しいことはわかりませんが、どうやらミスリル級プレートの冒険者チームリーダーを招集しているようです』

『と、いうことはモモンを呼んでいるのだな』

 アインズはすぐに察する。

『はい。いかがいたしましょうか?』

『すぐに行くと伝えよ。今回は私がモモンとして赴こう。まあ、だいたいの用件はわかっているのでな』

『かしこまりました』

 〈伝言(メッセージ)〉が終わるとアインズはパンドラズ・アクターを見る。

 

「ナーベラル殿からですな」

「うむ。モモンを招集しているようだ。今回は私がモモンとして赴こう。すぐに出ることになるだろうから、お前も後から宿屋へ来るのだ」

「かしこまりました。シャルティア殿に〈転移門(ゲート)〉を開いていただきます」

「そうするがよい。では、またあとで会おう」

「かしこまりました。アインズ様!」

 

 アインズはエ・ランテルへと向かう。

 






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