―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~   作:NEW WINDのN
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シーズン2第10話『帰還』

 

 墓地での事件を解決し、冒険者組合への報告を終えたアインズは、宿屋の一室から転移門(ゲート)を開き、漸くナザリックへ帰還する。

 漆黒聖典から奪った『傾城傾国(ケイ・セケ・コウク)』を預けるために寄って以来となるから、おおよそ一日半ぶりの帰還というところだろうか。

 

(なんだか濃い二日間だったな。色々なことありすぎ)

 アインズは二夜連続で起きた色々な事件を思い出す。

 

(まず、トブの大森林での森の賢王(ハムスケ)との出会い。正直ハズレかと思ったが、名声を得るという面では十分な利益を生み出しているからよしとするか)

 アインズのことを殿と呼ぶ魔獣にアインズは愛着を感じ始めている。リアルではペットなど飼ったことはなかったので、動物との触れ合いを楽しんでた。

(エンリ・エモットのおもてなしもよかったな。家庭の味というのはよいな! 憧れる部分がある)

 アインズはまた味わってみたいと素直に思っていた。

(そして、その後の父兄参観。正直シャルティアの血の狂乱はゲームを超えてた。これは俺の失態だ。だが、そのおかげで武技の使い手であるブレイン・アングラウスが手に入ったことは喜ばしいことだ。……魔王ロールなら「それは重畳」とでもいえばいいのか? さらに漆黒聖典……まさかワールドアイテムがあるとは。早めに奪えたのはまさに重畳だな。法国は許さんぞ。私の大事なシャルティア(仲間たちの子供)にあんなものを使おうとした報復は必ず行ってやる)

 すでに十分な被害を与えているのを彼は気づいていない。

(あとはあのズーラーノーンの連中か。赤毛(ブリタ)坊や(ンフィーレア)には悪いことをしたが、これも十分役立ってくれたな。あとはあの女か。素直になってくれるといいんだがな)

 

 この二日で状況は動きつつある。さらにこの後も大きく動き続けるだろう。

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさいませ、アインズ様」

 そのアインズを守護者統括アルベド自ら地表部で出迎えた。

「アルベド、どうしてこんなところに?」

 アインズは予想外の出迎えに驚くが、もちろん顔には出さない。いや、出ないといった方が正しいか。

「はいっ♪ アインズ様に一刻も早くお会いしたくて、お待ち申し上げておりました。だって最後にお会いしてから……」

 人によっては「ああっ、女神様」とまで思うであろう絶世の美女。その美女が心からの笑顔で自分を出迎える。そんな最高のシチュエーションのはずだが、アインズの心は重い。そのせいもあって途中からアルベドの言葉を聞いていなかった。

 

「……そ、そうか。嬉しいぞ、アルベド」

 ユグドラシルの最終日……アインズはちょっとした遊び心で、アルベドの設定を弄った。

 文字制限一杯まで書かれた設定文。その最後の一文『ちなみにビッチである』を不憫に思い、アインズ――当時はモモンガだが――は『モモンガを愛している』と書き換えた。

「タブラさん、これはひどいよ。まあ、どうせゲームは今日で最後なんだし、いいか!」と軽い気持ちで。

 その設定が効果を発揮したのか、あるいは元々の性格なのかは不明だが、ことあるごとにアルベドは激しすぎるくらいにアインズへの愛をアピールし続けていた。正直恋愛経験の乏しいアインズには重すぎる。

 

「まあ、照れますわ。嬉しいだなんて、うふふ。私の方が嬉しくなってしまいますわ♪ ……アインズ様、それでいかがなさいますか?」

 アルベドの腰に生えた黒い翼がバサバサと動く。この翼と、頭に生えた角こそが彼女が人間ではないことを証明している。

 

「……どういう意味だ?」

 アインズは意味を測り兼ねたため、素直に聞き返すことにした。

「はい。ではきちんと形どおりに。お帰りなさいませ、アインズ(あなた)様。……先に私になさいますか? それとも私でしょうか? いえいえ、私ですよね?!」

 両手を胸の前で組み、天使の笑みで、ズズズズーンと迫るアルベドにアインズは思わず一歩後ずさる。

「そ、それでは選択肢がないではないか。普通は食事か風呂か……」

「それとも私か? ですよね! そうですよね? ね、アインズさま~ん♪」

 アルベドは豊満な胸を強調し、それを前に突き出しながら、両手を広げて飛ぶ! いわゆる“ダイビングボディアタック”を仕掛けたのだ。

 

「ぬ! おっとぉ!」

 だがしかし、アインズはそれをヒラリとかわした。

「あっ!」

 当然受け止めてもらえるものと思っていたアルベドは驚きの顔を見せたがもう遅い。そのまま、ベッタ~~ンという音とともに、大地に激突。地面に人型の大穴が開いた。

 

(ふー。ビックリした。不思議だ……アローとしての格闘経験があるせいか、スムーズに体が動いたな)

 アインズは頬の冷や汗を拭う。もちろん気のせいであり、アンデッドであるアインズは汗をかかない。

 なお本人はまったく覚えていないようだが、アインズは前にこの技を受けたことがある。もっとも相手はアルベドではなく、森の賢王(ハムスケ)であったが。なお、その時は受け止めてからの連続攻撃で切り返している。(※シーズン1第10話『アローVS森の賢王』参照)

 

 その経験もあって技を見ただけで判断できたのだが、アインズ自身もアルベドもそんなことには気づいていない。

 

「あ、アインズ様、どうしてよけるのですかっ! ふ~っ! ふーっ!」

 肩で息をしながらアルベドが立ち上がる。綺麗な白いドレスが土まみれになり、顔にも砂がついているが、それでもアルベドの美しさは損なわれない。

 

「お、落ち着くのだ、アルベド!」

 アインズは“リック・フレアー”ばりに両方の掌を顔の前に出して、首を左右に振りながら、ジリジリと後ずさりしてアルベドとの距離をとっていく。

 

「あ、アインズ様――!!」

「おおっと!」

 アルベドが距離を利用した助走をつけて地を這うような低い位置から、アインズの胴体目がけて頭からタックル! ……(スピアー)を突き出すかのような猛突進を、アインズは闘牛士のように漆黒のガウンを靡かせて避けてみせる。

「さ、さすがのスピードだな。アルベドよ」

 アインズはまたもや冷や汗をかいている感覚になる。

 

「むうう……アインズ様~~っ!」

 またもや土埃にまみれたアルベドが鬼気迫る表情で振り向く。

「だ、だから落ち着くのだ! アルベド!!」

 再びリック・フレアーポーズをとって後ずさりするアインズ。ナザリックの絶対的支配者は女性には弱かった。

「アインズ様っ♪」

 今度は後ろ向きに飛んで、魅惑的なヒップを強調して突っ込む。

(そういえばこのドレスの中って何を穿いて……いかん!)

 アインズは一瞬魅了(チャーム)されかかったものの、ぎりぎりのところで抵抗し、スッとスマートによける。

「くうううっ! やりますわね、アインズ様!」

 アルベドは素早く距離を詰めると、アインズの眼前で、両手をパチーンと合わせ、大きな音を立てた

「うっ……」

 一瞬怯んだアインズの顔を100レベルの戦士職とは思えないほどの柔らかな太腿が挟み込み、さらに白い布のようなもので覆われる。

 闇視(ダーク・ヴィジョン)を持つアインズの目の前には、魅惑の光景が広がっている。詳細はアインズの心のみに留めておく。

 

(こ、これはああああああっ!)

 自分がおかれている状況を理解し、アインズの精神が沈静化する。

「てええええいっ!」

 アルベドはそのまま勢いをつけて後方へと回転する!

 

「おわっ!」

 アインズの体がいとも簡単に持ち上がってしまう。

 

(これは(アロー)がよく使う技かっ?!)

 アインズがアローの時に良く使う〈フランケンシュタイナー〉と思わせつつ、アルベドは、アインズの股の間に潜り込んで丸め込もうとする。

 このまま回転すれば、アインズはアルベドに抑え込まれてしまう。ウラカン・ラナ! いや技の美しさ・華麗さはすでにオリジナルといって良い。ここは彼女の名をとって“アルベド・ラナ”というべきか。 

 

(このまま丸め込まれると、私の顔面にアルベドの、ひ、“秘密の花園”が押し付けられてしまう。は、外さねば!)

 

「くっ!」

 アインズは咄嗟に〈負の接触(ネガティブ・タッチ)〉を全力で発動すると、アルベドの太腿から流し込んで支配を緩め、技から脱出してみせた。

「おしいっ!」

「こ、こら! アルベドよ。こんなところでスパーリングをしている暇はないのだ」

「だってアインズ様っ! アインズ様はあの女と楽しそうにじゃれ合っていたじゃありませんかっ!」

(あの女? ああクレマンティーヌのことか) 

 アインズは戦闘を思い出す。

「……見ていたのか?」

「当然です。アインズ様のお姿を、見は……見守っておりました」

 

(お前今見張っていたといいかけただろう)

 アインズは心の中で溜息を吐き出す。

「そ、そうか。さすがだな、アルベド」

 じりじりとにじり寄ってくる守護者統括。アインズは自分が獲物として狙われる動物になったような錯覚を覚える。

「クレマンティーヌのことを言っているなら、あれは相手の戦力の調査にすぎん。他意はない」

「では私もすみずみまで調査なさってくださいませ」

「馬鹿者!! お前にはやってもらうことが多くある。それに留守中のことを報告してもらわねばならんからな」

「……かしこまりました。ちゃんと”妻として”アインズ様の御留守の間、しっかりとお守りしておりました」

 留守というキーワードを出したとたん大人しくなり、さりげなく妻アピールをしてくる。

(はあ……デミウルゴスが説得できたのはそういうことか)

 アインズは自分が人間の街へ行くと言ったときに猛反対したアルベドを、デミウルゴスがたった一言で説得した理由を理解する。

「そうか。き、期待通りだぞ、アルベド」

 アインズはアルベドの頭を撫でてやる。

「あ、アインズさま~」

 アルベドは恍惚とした表情を浮かべ、骨の手にすりすりとしてくる。

「行くぞ!」

 アインズはくるりと背を向けると霊廟の中へと入っていく。

「あ、アインズ様ー!」

 

 アルベドはそれを慌てて追うはめになった。

 

 

 

 






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