―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~ 作:NEW WINDのN
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漆黒の
「アインズ様。無駄になる可能性が高いのでありんすが、眷属を使って探索をすることをお許し願えないでありんしょうか?」
アインズが漆黒の
「うん? シャルティアよ。……先ほども言ったと思うが、逃げたレンジャーは二人いる。一人は城塞都市エ・ランテルへ向かい、救援を要請。もう一人は別行動しているもう一つの冒険者チームへ戻り、合流する予定ということだ。 彼らが動き出してから、どれくらい時間が過ぎているかは正確には分からないが……それなりに時間は過ぎている。それに前者はこの”漆黒の
「はい、アインズ様。狙いは後者の方でありんす」
シャルティアの瞳に力が入る。もともと赤い瞳ではあるが、心なしか赤みが増したように感じる。
「それを行いたいという理由を聞こう。それとメリットもだ」
アインズは表情を変えずに尋ねる。もっとも顔は骨だけなので、表情を変えるのは難しいのだが。
「……はい。眷属の能力を試すよい機会かと考えたでありんす。もっとも追跡できそうな者は少ないのでありんすが。……それと、これは勝手なお願いではありんすが、私にリベンジの機会をお与えいただきたいのでありんす」
シャルティアは
(私は……今回失敗したのでありんす。このままではだめなのでありんす)
シャルティアは今回自分に与えられた使命を果たせたとは思っていない。
(本音は後者っぽいな。失敗したのなら取り戻すチャンスを与えるのも上位者の務めか)
アインズは
「そうか……リベンジか。今回はお前の活躍もあって、ブレイン・アングラウスという武技を使う者は手に入ったし、私……いや、アローとモモン、そしてナーベという冒険者の名声を上げる準備はできた。……十分な功績だと思うのだがな」
アインズは顎に手を当て、考えながら話す。
そもそも“血の狂乱”を持つシャルティアをこのような血を浴びる機会の多い任務に出したこと自体が過ちであり、自分の失敗だと考えている。ユグドラシルにおける設定が、現実化した時のことを深く考えていなかったのだから。そのためシャルティアの失態ではないと思っていた。
「しかし、それはアインズ様のフォローがあっての結果でありんす! 私だけでは失敗に終わってありんした」
シャルティアはスカートをギュッと握りしめ、唇を噛みしめる。
(……まあ、シャルティア自身がそういうのであれば、気が済むようにさせるか)
「よかろう、許可しようではないか」
「ありがとうございます。アインズ様!」
シャルティアはいきおいよく、立ち上がって両手でスカートの裾をつまむと、軽く持ち上げて、優雅かつ可憐にお辞儀をして謝意を示す。
「眷属よ!」
そしてキリッと表情を引き締めて、眷属を召喚する。
(ほう。こういう時は上位者の顔になるんだな)
アインズが知っている上位者としてのシャルティアといえば、愛妾である
シャルティアは、バッ! という音とともに右腕を振りかざした。その動きに応え、闇から漆黒の毛並みの狼が10体ほど姿を現した。その瞳はシャルティアと同様に真っ赤に燃えている。
「グルルルルルゥ!」
これはもちろんただの狼ではなく、
「いけっ! まだ森にいる可能性がある。人間を見つけ出せっ! ……でありんす」
「がう」
シャルティアの命令に
「ふむ。一応援軍をつけるか。下位アンデット作成・
アインズはスキルを使い、飛行できるアンデッドを複数体召喚する。
「行け。シャティアの眷族とともに人間を探せ」
「アインズ様! ここは私にお任せください……でありんす」
シャルティアは、自分ひとりでやると抗議の目を向ける。
「シャルティア、一緒にやろうじゃないか。共同作業だよ」
「あ、アインズ様と、き、共同作業……ゴクリ。わかりましたでありんす。は、初めての共同作業でありんすね!!」
「あ? ああそうだな」
アインズは突然テンションが上がったシャルティアに戸惑うが、「まあ、いつものことか……」と納得する。
(これで、あの大口ゴリラより一歩リードでありんすね。ざまあみろ! でありんすえ♪)
シャルティアはこの場にいない守護者統括の顔を思い浮かべた。
<<あんの
この光景を見ていた守護者統括アルベドは、シャルティアの口の動きで言葉を理解し、ぶち切れていた。その隣で、姉ニグレドは怯えを隠せない。
アルベドの隠れたスキルとでもいうべき……“愛の狂乱”が発動し、ナザリック全関係者を震え上がらせていたことを、アインズ達は知らない。
「……今、なにか聞こえなかったか、シャルティア?」
「いえ、何も言っておりんせんし、何も聞こえんせんでした」
「そうか? ふむ……何か女の叫び声のようなものが聞こえた気がしたのだがな。気のせいか……」
アインズは首を傾げる。もう一度耳を澄ませてみたが、葉が風に揺れる音しかしない。
(確かに何か聞こえたような気がしたんだがなあ……)
アインズは「先程死んだ冒険者の恨み声か?」と考えてみたが、それも違う気がする。
(結局気のせいか)
アインズは気持ちを切り替えた。
「アインズ様……眷属がやられたようです」
シャルティアは離れた場所で眷属が次々に葬られていくのを感じ、憎々しげに森を睨みつける。ここから見えないところに、何かがいるのは間違いない。
「なにっ? ……
「ど、どうしたのでありんすか? アインズ様! まさかどこかお体が? 腹痛でありんしょうか?」
突然アインズが呻いたのに驚き、シャルティアはありえないことを口にする。
「痛む部分はないんだが……。どうやら私の呼び出したアンデッドもやられたようだ」
召喚者と被召喚者の間には精神的なつながりがある。アインズ・シャルティアの両名ともそれが突如消滅したことを感じ取っていた。
「アインズ様!」
「ああ。そこに転がっている冒険者と同レベルならやられることはないはずだ。少し警戒が必要かもしれないな」
「私、行ってまいります……のでありんす」
「待て! そのまま行かれては困るな。そうだ、ひとまずこれを使え」
アインズは黒いアイマスクと、金髪のウイッグを手渡し、さらに黒いボンテージ風のバトルスーツを貸与する。
「これはなんでありんすか?」
シャルティアは見たこともない衣装に戸惑う。だがアインズから渡されたものを拒む理由などはない。ただ、知りたかっただけである。
「
この
(この骸骨頭で金髪のウイッグ。骨の顔にアイマスク。骨の体にボンテージ……無理だろ)
自分が着る所を想像したアインズはあまりのおぞましさに卒倒しそうになる。
「じゅ、準備できました! でありんす」
マジックアイテムなので、装備者の体格に合わせてくれるのだが……。
「う、うむ。に、似合っておるぞ、シャルティア」
(なんというか……なに、このコスプレ感は? うーん、お遊戯会のような? なにかが違う)
シャルティアは14歳程度の外見だ。なにかが色々と足りない。子供が大人の真似をして化粧をした結果に似ているといえば伝わるだろうか。
(ま、いいか。似合うとか似合わないではなく、正体がバレないことが優先だからな)
アインズはそういう意味では問題はないと判断した。
「では私も“ダーク・アーチャー”の方になっておこうか」
アインズはアローの色違いバージョンである黒いフード姿に変身する。
「おお! 普段のアインズ様も美の結晶でいらっしゃるのでありんすが、こちらのお姿も凛々しく素敵でありんす。……ところで緑ではないのでありんすな?」
先ほどシャルティアの前に現れた時は、緑のフード姿だった。
「ああ。緑は
「なるほどでありんすな。さすがは我が君。美と智謀の王でありんす」
「行くぞ、
「了解でありんす。あ」
「“ダーク・アーチャー”だ」
「かしこまりんした。ダーク・アーチャー様」
「様はいらん。ダーク・アーチャーだ」
「かしこまりんした。ダーク・アーチャーさ―――ん」
アインズはありえないことだが頭痛を感じる。痛むはずがないのに。
(シャルティアよ、お前もかーーっ!!!)
まさかの