漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! 【アニメ・小説版オーバーロード二次】   作:疑似ほにょぺにょこ
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さぁ始まりました第8章!
今回の舞台は法国です。

先週お休みしましたので、先行公開無し。直の一般公開でお送りいたします。


8章 ケイ・セケ・コゥク編
8章 法国 ケイ・セケ・コゥク編-1


 アインズ・ウール・ゴウン対ヤルダバオトの戦いが終わり、早一ヶ月。件の大戦にて心身共に大怪我を負ったことにした俺──漆黒の英雄モモン──は、一時リ・エスティーゼ王国を離れ──

 

「ここか──」

 

 ここ、スレイン法国へと来たのであった。

 

(アインズ・ウール・ゴウンに受けた精神支配。そして狂化による意識混濁状態でのヤルダバオトとの戦闘。そして、姫に力によって覚醒した英雄は常軌を逸した動きを行って身体もボロボロ。そういう設定にしてみたんだけど──)

 

 随分と効果があったようで、蒼の薔薇のメンバーを始め色々な人が『あれがいい』『これが効果がある』とナザリックに無いアイテムや魔法についての情報を意図せず得ることが出来たのは僥倖と言えた。そしてここ、スレイン法国に強力な力を持つヒーラーの存在を聞き、俺はここに訪れたのである。

 

──建前上は。

 

 本来の目的はスレイン法国に居るであろう、もしくは居たであろうプレイヤーの痕跡を見つける事。そしてシャルティアを操ることが出来たワールドアイテム『傾城傾国』の所在。それについでではあるが、ここの宝物庫に保管されているらしい過去の遺物とされる強力な武具についても調べておかないといけない。

 プレイヤーがいることを前提としないといけないため、通常利用している影の悪魔<シャドウ・デーモン>や二重の影<ドッペルゲンガー>を利用することが出来ない。スカウト職や神職が居れば簡単に看破されてしまうからだ。そのため運用に耐えうるのは上位・二重の影<グレーター・ドッペルゲンガー>や──

 

「ご安心ください、モモン様!不忠者はこの私、パ──ナーベが須らく排除致しましょう!」

「お前、もうちょっと落ち着け。な?」

 

 最高位の二重の影<ドッペルゲンガー>であり、俺が最も信頼する存在。パンドラズ・アクターである。

 初めて俺と出かけるという事もあるのか、テンションが少しおかしいことになっている。そのため現在ナーベの姿になっているというのに、全くの別人ではないのか(実際別人なのだが)と思う程にナーベラルとは似ても似つかない行動ばかりしている。

 ほとんど無表情であるナーベに比べて、喜色満面の笑みを浮かべながら今にも踊りだしそうなコイツを見て居ると──

 

(本当にコイツでよかったのかなぁ──)

 

 ため息とともに若干の後悔が来てしまうのは仕方ないのかもしれない。能力は超一流の筈なのだが、一体どこを間違えてこんな奴になってしまったのか。

 

(もっとニヒルで格好良くて、何事もスマートに終わらせるプロフェッショナルという設定だったはずなんだけど。まぁ軍服とか。ドイツ語とか。ちょっとばかり趣味を入れてしまったことは認めるけどさぁ。なんでこうなるかなぁ──)

 

 天を仰ぎため息を一つ。

 今回のミッションはかなり重要なものであるが故、失敗は出来ない。だからこそこいつを連れてきたというのに。

 まるで子供の様にはしゃぐナーベ──じゃない、パンドラズ・アクターを見て居ると思わずため息が出てしまうのは仕方が無いのかもしれない。

 

(いや、実際子供なんだよな。俺の──)

「さぁモモン様。いきましょう!」

 

 立ち止まったまま放っておくと、そのままどこかへ──ただひたすら興味のある所へと走って行ってしまいそうになっているパンドラズ・アクターに苦笑しつつ俺は法国の都へと足を踏み入れるのだった。

 

 

 

「随分と清廉としているな。流石は法国と名乗るだけはあるのか」

 

 整然と並んだ市場。誰も盗みを働くことなく、活気良く皆働いている。何より子供たちの笑顔が印象的だ。子供の笑顔が多い国と言うのはそれだけ弱者への対応が充実していることの証左でもある。流石は宗教国家、といったところなのだろうか。

 当然こういう光が強ければ同時に闇も強くなる。それはどの国、どの世界でも同じだ。清濁は共存する。光ばかりを集めたとしても必ず影が出来るように。

 

「いらっしゃい、いらっしゃい!今日とれたての子が居るよ!さぁ寄った寄った!」

「奴隷商か」

 

 まるで野菜や果物を売るかのように違和感なく普通に一般の店と軒を連ねる奴隷商。あまりにも異質な空間であるというのに、それを異質だと思う人間は誰も居ない。まるであるのが当然だとばかりの対応である。

 それなりに奴隷の地位が認められているのかとも一瞬思ったがそうでもないようだ。

 ちらりと奴隷の子たちを見た限り、人間の奴隷は一人も居ない。つまり他種族の奴隷のみ販売しているわけだ。特にエルフの奴隷が目立つ。皆の目に光が無い。薬や調教によって徹底的に反抗心を折っているのだろう。

 しかしよくよく考えてみれば、金さえ払うだけで後腐れなく労働力を手に入れられるというのは大きいのかもしれない。とはいえナザリックに奴隷は必要ない。単純な労働であればスケルトンなどに行わせれば良いわけだから──

 

「パ──ナーベよ。あの奴隷商の様にスケルトン共を売ってはどうかと思うのだが、どう思う」

「大変すばらしい案かと。あの惰弱なエルフの奴隷と比べるべくもありません。まず食事が要らない。休憩が要らない。力も成人男性並。最低ランクですらあの奴隷など足元にすら及ばないでしょう」

 

『いらっしゃい、いらっしゃい。食事は要らない休憩も要らない。延々と働かせ続けられる素敵な労働力、スケルトンは要らんかねー。書類仕事も出来る上位も居るよ!さぁ寄って見てみなぁ!』

 

 頭に浮かべるは奴隷商ならぬ不死商である。なんと素晴らしい。ファンシーな恰好をした死者の大魔法使い<エルダーリッチ>や吸血鬼の花嫁<ヴァンパイア・ブライド>に客引きを行わせれば連日満員御礼。毎日ザクザクと入ってくる大量の金貨に笑いがとまらないこと間違いなしだろう。

 そのあまりの売れ行きに一般の奴隷商は軒並み潰れることとなるだろうが、その時は折衷案としてそいつらにアンデッドたちの販売を任せるのも良いかもしれない。彼らであれば俺たちにはない販売ルートも持って居るはずだ。全国展開もそう難しくないだろう。

 

(うん、良いな)

 

 一家に一体──いや、一人一体──いやいや、一人で複数体持つ時代が来るかもしれない。ならばただのアンデッドだけでなくイケメンなアンデッドや可愛いアンデッドを作った方が良いかもしれない。

 子供ができる心配もなく、病気にかかることも絶対にない。性病や性犯罪、それに浮気の撲滅にも繋がるだろう。

 

(素晴らしい。アンデッドだけでなく、異業種の地位向上にも役立つだろうし、良い事尽くめじゃないか!)

 

 弊害があるとすれば、『人間の女なんて糞。俺はアンデッドちゃんと結婚するんだ』等と云う輩が出てきて少しばかり結婚率と子供が減るかもしれない事くらいであるが、まぁ誤差だろう。

 もう少しすれば懸念材料が落ち着くことになる。そしたらそう言う事に手を出していくのも良いだろう。

 

「ナーベ」

「万時お任せを。いつから開始いたしましょうか」

「む──落ち着いたら、だな」

「──なるほど。畏まりました、モモン様」

 

 こういうやり取りで済ませられるのは精々デミウルゴスかコイツくらいないものである。次落ち着いたら早速始められるよう、準備だけでも済ませてもらっておこう。

 にこやかな笑みを浮かべながら頭を下げるナーベ──パンドラズ・アクターに鷹揚に頷く。手の届かぬ細かい話はこいつらに任せた方が早いのだから。

 

「英雄様も可愛い奴隷に興味があるみたいねぇ。英雄は色を好むって、ことなのかしら?」

 

 不意に話しかけられ、視線を向けるとそこに居たのはスレイン法国が誇る六色聖典が一つ漆黒聖典の一人。確か零番──だったか?そんな感じの番号の子だ。確か通称は──

 

「絶死絶命殿、で良かったかな」

 

 正解、とばかりに口角がつり上がる。笑みを浮かべている感じはしないのだが、そういうものだと思えばどうということもない。

 

「それで、何の用だ。あまり親しくする間柄ではないと思ったが」

「親しい間柄ではないけれど、蛇蝎の如く嫌われる謂れも無いないはずよ?」

 

 シャルティアを襲ったのは六色聖典の一つである漆黒聖典であることは分かっている。そして彼女は実行犯である可能性も少なからずある。そうでないとしても、少なくとも実行犯の味方であることに間違いはない。敵ではないかもしれないが、少なくとも味方であるはずがない。そういう部分が出てしまって居る事を感づかれたのだろうか。人を食ったような薄笑いを続ける彼女に不信感が募るばかりである。

 

「私としては親しくしていきたいと思って居るのだけれど」

「こんな、でもか」

 

 フェイスガードを上げて素顔を曝す。周囲に見えないよう、彼女にだけ見える様に。

 流石に俺がアンデッドであることは知らなかったのだろう、少しだけ目を見開く。その後、少しばかり悲しそうな顔をしたのは何故なのだろうか。

 

「確証はなかったけれど、やはり『そちら』だったのね」

「問答無用で抜いてくると思ったが、違うのだな」

「私は占星千里ほど弱くも無ければ、神領縛鎖ほど信心深くないもの。それに──」

 

 すぃ、と彼女が身を寄せて来る。音もなく、気配もなく。情報では常軌を逸した強者であると言われていたが、確かにそうだろう。準備もせずに不意を受ければ随分と面倒なことになるかもしれない。そう思う程度には強いと感じた。感じてしまった。

 そう、この世界の住人には決して感じたことのなかった感覚。強者の感覚を。

 当然だ。プレイヤーばかりが強いわけではない。彼女のような強者が居ない筈が無いのだ。でなければ、この世界は現れたプレイヤー達にただただ蹂躙され、貪られるだけの哀れな子羊に成り下がってしまうのだから。

 

「あぁ、強い。強いわ、あなた。こんなにも強いマジックキャスターなんて見たことないもの。あぁ、残念。なんであなたはアンデッドなのかしら!」

「──っ!!」

 

 まさか、と思った。いや、当然だ。現在傷ついているという体を保つために《パーフェクト・ウォーリア/完璧なる戦士》を掛けていない。魔力を抑えているだけなのだから。

 確かに、と平坦に戻った頭で頷く。確かに、見る者が見れば今の俺は単に鎧を着ただけのマジックキャスターであることを看破するのは然程難しい事ではないだろう。

 

「──あまり驚かないのね、それに私がなぜ知っているのかについても興味なさそう。つまらないわ」

「別に隠しているわけではないからな。それに、知っていると言っても全て知っているわけでもないだろう」

 

 何故知っているのか。それは、看破したのか。それとも、ナザリックに斥候を放ち情報を得たのか。どちらかで考えれば、看破であることの方が可能性が高い。背後にプレイヤーが居る可能性がある以上、下手を見せるわけにはいかない。

 

「物凄い警戒心ね。そんなに見られると、ドキドキしちゃうわ」

 

 全く真意が掴めない。しかし彼女が実行犯であったとするならば、無警戒だったシャルティアを捕縛することは難しくは無かった筈だ。

 

(こいつが実行犯である可能性が高い、か)

 

 ちらり、とナーベが俺に視線を送ってくる。捕縛するのか。いや、殺すのかと。実行犯であったならば生かしておく必要はない。まず殺して、ニューロニストに渡して情報を抜き取って貰えばそれでいい。それで十分だ。しかし──

 

(まだ、だ。何より彼女は前回の余興に参加している。彼女が死ねば色々と不都合が生じるだろう。となれば──)

 

 やはり、リ・エスティーゼ王国にて確定ではないにせよ、俺の情報を得たのだろう。『モモンとヤルダバオトは繋がっている』という情報を。だからこそ、こうやって俺の前に無防備に姿を現した。

 

(だとするならば、俺が手を出した時点で俺の負けが確定する。周囲にも《パーフェクト・アンノウンアブル/完全なる不可視化》等を使用し潜伏しているプレイヤーが居る可能性が高い、か──やってくれる)

 

 確かに彼女は強い。だが脅威ではない。その程度でしかない。だが、全力で逃げの手を打つのならば話は別だ。まず間違いなく俺たちは全力を以て彼女を追わないといけなくなるだろう。そうなれば、隠しておきたいパンドラズ・アクターの能力等の一部が敵側にバレる可能性が高い。いや、まず確実に情報が渡ると思っていい。

 

「ふふふ──」

 

 頬を上気させ、うっとりとした眼つきで俺を見る様は、まるで俺がいつ罠にかかるかを待っているかのようにも見える。

 どうする。どうすればいい。既に包囲は完了しているだろう。逃げてはいけない。攻撃してもいけない。だが、そこに付け入る隙はある。

 

(俺は英雄だ。俺に手を出すことはいくら法国とはいえ、出来るはずもない)

 

 そう、俺たちが手を出せないのと同じく相手も俺たちに手を出せない筈なのだ。でなければ、潜伏などせずにとっくに俺たちを捕縛しようとする動きがあるはずなのだから。だというのに、周囲には戦闘力を持たない一般人がたまに通るくらいで高レベルプレイヤーやこの世界の強者の影も形も無い。

 

(今俺たちは危うい天秤の上に立っている──)

 

 少しでも傾けば、全面戦争は必死。相手の情報が無い今、出来るだけそれは避けておきたい。

 ではどうするか。問題ない程度に話を切り上げてこの場を離脱するのが望ましい。

 しかし、そういうわけにはいかないようだ。

 

「いらっしゃい、こちらへ」

 

 俺は──俺たちは絶死絶命に招かれるままに、敵の本拠地へと向かうことになってしまったのだ。

 




絶死絶命の喋り口調がよく分からない!ということで完全オリジナルです。
わりと適当とも言う。
この章はさらっと終わります。さっさと終わらせて山場となる9章にいかなくては。

私の内なるモモンガ様がパンドラズ・アクターにもっと出番をと囁いています。
なのでナーベからパンドラズ・アクター(ガワのみナーベ)に配役変更となりました。




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