ECBはリスク踏まえた出口戦略進めよ

社説
2018/12/15付
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欧州中央銀行(ECB)が国債を大量に買い入れる量的緩和策(QE)の年内終了を正式に決めた。緩やかな景気拡大を映して物価が徐々に上がり始め、デフレ転落の恐れが遠のいたと判断した。

だが米国発の保護貿易主義の拡散など世界経済の先行きは不透明感を増している。足元の欧州経済も、英国の欧州連合(EU)離脱をめぐる混乱やユーロ圏最大の債券発行国であるイタリアの財政悪化などリスクが山積している。

こうした状況を十分に踏まえてECBは超低金利政策からの出口戦略を周到に進めるべきだ。

米連邦準備理事会(FRB)に続くECBのQE打ち切りで、潤沢な資金供給が市中金利を押し下げてきたリーマン危機後の金融環境は転換点を迎える。欧米マネーの還流といった変化が新興国市場の変調などにつながらないか、世界的な目配りは欠かせない。

QEを導入した15年にはマイナスに沈んでいたユーロ圏の消費者物価は上昇圧力が強まり、一部の指標では物価目標である「2%未満でその近辺」に近づいた。

ECBは今年6月、QEを年内に終了する方針を市場に事前予告していた。新規の資産購入を停止するのは予定どおりといえる。

一方で、満期を迎えた債券の償還金は再投資に回し残高は長期にわたって維持する構えだ。債券相場に過度の動揺を与えるのを避けるうえで適切な対応だろう。

今後の焦点は、現行のマイナス金利政策を見直し利上げに移るタイミングだ。ECBは現行の政策金利を「少なくとも19年夏まで維持する」と表明している。

このところの欧州景気はむしろ減速気味だ。来年3月末に予定している英国のEU離脱をめぐる交渉は難航しており、仮に無秩序な離脱となれば英国への打撃はもちろん、欧州の経済活動への悪影響も避けられまい。

EU共通のルールに違反するイタリアの財政問題もECBにとっては頭痛のタネだ。11年に伊中央銀行トップから転じたドラギ総裁は内心じくじたる思いだろう。

格差問題などを底流とする欧州政治の混迷は、ポピュリズム(大衆迎合主義)政党が政権を握るイタリアにとどまらない。

遠心力が強まる欧州統合の支柱として、物価の安定と景気の持続的な拡大を実現できるか。ECBと、来年秋に任期を終えるドラギ総裁に課された重責である。

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