【ワシントン=河浪武史】トランプ米政権が発動した中国などへの制裁関税で、連邦政府の関税収入が急増している。トランプ大統領は「中国が25%を払っている」と話すが、実際に負担するのは米国の輸入企業で、最終的に消費者価格に転嫁されることが多い。米政権は2017年末に大型減税を成立させたが、関税引き上げがその効果を打ち消す皮肉な結果になりかねない。
米財務省が13日発表した11月の財政収支によると、同月の関税収入は63億ドルと前年同月比でほぼ2倍に増えた。10月も同71%増えており、9月下旬に2000億ドル分の中国製品に追加関税を発動して以降、関税収入が急激に増加している。
米国は3月、日本などから輸入する鉄鋼とアルミニウムに追加関税を発動した。その後、中国の知的財産権の侵害を制裁するため、500億ドル分の中国製品に25%の関税をかけ、9月には対中制裁の対象を2000億ドル分(関税率は10%)追加した。
トランプ氏は13日の米テレビ番組のインタビューで「中国がモノを米国に送る際に、彼らは25%を支払っている」と語った。トランプ氏はツイッターなどで「中国に関税をかけたことで、米国は豊かになる」と主張したこともある。米メディアは「トランプ氏は中国製品にかけた関税の支払いを、米国民ではなく中国側が負担していると誤解しているのではないか」と疑問視する。
米国が課す関税は原則として輸入時に米企業が負担する仕組みで、中間流通などでコストを負担できなければ、最終的には消費者価格に転嫁されることになる。関税の引き上げは事実上の増税であり、トランプ政権が景気浮揚策の柱とした大型減税の効果を損なうことになる。
大型減税の効果は年1500億ドル前後とされるが、関税引き上げによる現在の負担増は、年300億ドル規模に達する。米中の貿易協議が決裂し、トランプ氏がすべての中国製品(5000億ドル規模)に25%の関税をかければ、米企業などの関税負担は1000億ドル強となり、大型減税の効果は大幅に失われる。
米連邦準備理事会(FRB)は関税引き上げによって、物価上昇と景気悪化が同時に進む「スタグフレーション」に陥るリスクを懸念する。トランプ氏が米企業や米消費者の関税負担を誤解したり軽視したりすれば、政策判断そのものの誤りにつながりかねない。