―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~ 作:NEW WINDのN
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「そ、そんな……ありえん!! 信じられん!」
カジットは目の前で起こった光景が信じられなかった。
「……信じるか信じないかはお前の好きにするがいいさ。だが、目の前で起こったことは事実だと認識すべきだな」
すでに双剣を収めたモモンは腕組みをしながらカジットを見下す。やや斜に構えるあたりがパンドラズ・アクターらしい演出だ。
(やるな、パンドラズ・アクター。でも、ちょっとやりすぎかな。オレもモモンを演じることがあるんだぞ)
状況によっては今後アインズがモモンを演じることも考えている。
「……では、私の番だな。行くぞ! カジット!」
残る一体の
「バカなことを。レンジャーごときが敵うものかよ!」
気を取り直したカジットがせせら笑う。
(戦士相手だからあのような結果になったが弓矢使いのレンジャーごとき、相手になるまい)
「それはどうかな?」
「せやっ!!」
アインズは右の前蹴りを繰り出してそれを受け止めてみせる。
「グギャアアッ!」
その一撃で
「なっ!? なんだとおっ!? そんな馬鹿な! やらせはせん、やらせはせんぞっ!! 〈
カジットの手から黒い光線があたると、
「無駄なあがきだ」
「グルルル」
唸りながら
「ふんっ!」
ガシッ! と受け止めたアインズは尻尾を持ったまま、回転を始める。
「な、なにを?」
尻尾を持ったまま8回転ほどしたのち、アインズは
このライダーキック一発で、
「な、なんてパワーだ!? 信じられん」
「グガッ!」
アインズは弓を握ったままの左拳で
「グギャアアアッ!」
一撃決まるたびに
「させるか! 〈
再び黒い光が放たれ、
「無駄だといったはずだ!」
アインズはその場で高くジャンプすると体を横に倒しながら、
「グギャッ!」
ジャンピングハイキックを決めたアインズはその勢いを利用し空中で一回転! 今度は右の踝で顎先を打ち抜く。
「グギャアアッ!」
「フンッ!」
綺麗なスピンキックを叩き込んだアインズは、続いて右の踵を
「グギャアアアアッ!!」
「ダッ! ハッ! タアッ!!」
アインズは着地と同時に連続して腹部を拳で殴りつける。
「グゴオオオッ!!」
スケリトル・ドラゴンは苦し紛れに右腕を振り下ろして反撃するが、アインズは上体をそらして避けると、クルンと右に回転して後ろ蹴りを突き刺す。
「ラアアアッ!!」
今度はローリングソバットの蹴り足である右足を軸にして、体を半身にすると左足を高く蹴り上げ、
「グガャアアアアアアッ!」
「くっ、〈
詠唱の途中でアインズは矢を放ち、カジットの持った黒い水晶を弾き飛ばす。
「ぐあっ!」
(あ、あれは! マジックアイテムでは??)
(やはり、マジックアイテムのようですね……)
パンドラズ・アクターは戦闘に問題はないと判断し、意識をアイテムへと向けた。
「グゴオオオオオオッ!!」
ボロボロになった
「……甘い」
その蹴り足をアインズは左腕でがっちりと抱え込むようにキャッチすると、右手を横に振り上げる。
「いくぞっ!!」
勢いをつけてその手を振りおろし足に絡みつくと、
ズッドオオオオオン!
轟音とともに大地が揺れる。
「な、なんだとおおおお?! ば、ばかなーっ!!」
カジットは信じられない光景に目を奪われ、動きをとめてしまった。
(おおっ! さすがはアインズ様! 華麗かつ効果的な技! さすがでございます。ドラゴンがスクリューのように回転しましたね……『ドラゴン・スクリュー』とでも名付けますか)
意識を戦闘へと戻したパンドラズ・アクターは、心の中でネーミングを決めた。
(あとでアインズ様にも、共有せねば)
「終わりだっ!」
なんとか無事な左膝をついて立ち上がろうとする
その太腿に相当する部分を踏み台にして、飛翔したアインズは飛び膝蹴りを額へと叩き込こんだ! まるで閃光のようなスピードで放たれた一撃が
(ふむ。まるで閃光のような技だったな。閃光の……
アインズにしては悪くないネーミングである。
「くうっ! 〈
しかし何も起きない。カジットは黒い水晶を失い、強化されていた魔法力を失っていたためだ。もっとも魔法が発動していたとしても、回復する前に終わっていたのだが。
アインズが放った〈
「な……なんだとおおお!!! ワシの
これが、カジットがこの世で吐いた最後の言葉となった。
◆◆◆ ◆◆◆
首謀者を滅したアインズ達は奥の霊廟で、失明し自我を失ったンフィーレア・バレアレを発見する。
「まあ失明くらい魔法で治るんだがな」
さて、どうしたものかとアインズは考え込む。
「アインズ様!」
「パンドラズ・アクターよ。ンフィーレアの処置を任せる。……まあ、失明は回復してやれ。勿体ないがな」
「かしこまりました。ちと勿体ないですな」
パンドラズ・アクターはンフィーレアの額に光るアイテムを見る。これは叡者の額冠と呼ばれるスレイン法国の秘法である。簡単にいえば自我を奪い、装備者をMPタンクにして強力な魔法を使うための道具にするアイテムで、ユグドラシルでは再現不可能な貴重な一品だ。
「ふっ……お前は私譲りだな。たしかに貴重なアイテムだが」
アインズは笑う。自分が設定したとはいえ、ここまで自分に似ているとは思っていなかった。
「だが……壊すしかないだろうな」
これを聞いたパンドラズ・アクターはがっかりした顔になる。
「承知いたしました」
「それよりもンフィーレアだ。コレは貴重な
「かしこまりました。誘拐された有名人を救うという演出は我々の名を売り出すには、うってつけかつ貴重なものですし」
「ああ。それにすでに祖母リイジー・バレアレから”すべてを差し出す”という言質をとっているからな。今回はそれでこちらへ取り込むきっかけとしよう」
アインズはリイジーとンフィーレアを自分の目が届くカルネ村へと送り込むつもりだった。
「さすがはアインズ様。ところで、残る“もう一人”はどうなさいますか?」
「ああ、あの人間にしては”スピーディ”な女か。……私にちょっと考えがある。ここにはいなかったようだが……まあ、だいたいの居場所は掴んでいるから問題はない……あとそいつらのマジックアイテムや装備品は回収し、カジットの死体は証拠品として突き出そう。その黒い水晶はお前に預ける。たしかインテリジェンスアイテムだったか?」
「はい。死の宝珠というアイテムですな。では保管しておきます」
「任せた。では私はいってくるぞ」
「かしこまりました。アインズ様!!」
パンドラズ・アクターはクルンと踵を返し、カジットの遺体の方へと向かっていく。
こうしてエ・ランテルの街を襲ったアンデッド軍団襲撃事件は、首謀者カジット・デイル・バダンテールをモモンとアローという二人の冒険者が、討ち取ったことにより、大きな被害を出す前に終結を迎えた。
エ・ランテル冒険者組合は、この未曾有の大事件の解決を考慮し、モモン達をミスリル級冒険者として認定することにした。通常実績を積んだ上で試験をクリアして認定されることを考えると異例の昇級といえる。
それも最下級の
モモン達は、一夜にして、エ・ランテル冒険者組合に所属する最高ランク冒険者の一角を占めることになる。
チーム名がない3人と一体の魔獣で構成される冒険者チーム。リーダーの漆黒の戦士モモン、緑のフードの男アロー、美人魔法詠唱者ナーベ、白き大魔獣ハムスケの名は、この一件により一気に街に広まった。
そして人々には、チーム”漆黒”として名が浸透し、それぞれ”漆黒の英雄モモン”・”緑衣の
後に伝説として語り継がれることになる冒険譚の始まりとなる事件であった。
「ちょ、ちょっと待つでござるよ~! なんでそれがしだけそのままなのでござるか~!!」
ハムスケの絶叫に答える者は誰もいなかった。
今回がシーズン1最終話となります。
クレマンさんとの一戦は、シーズン2に持ち越しになります。