第2話
慣れない街中を歩いた。人々は薄い板を頬に当てて喋っていたり、耳から糸をぶら下げていたりと、少し気味が悪い。
どうやらここは「日本」という国の「東京」と言う場所らしい。転生先や、言語は魔術によって頭に埋め込まれたのか。それがあの酷い頭痛の理由なのかな。
そんなことを考えているうちに重要なことに気づいた。
お金がない。
どうやらこの国のお金の単位は「円」らしいが、そんな知識だけでは腹は満たされない。このままでは何も食えず餓死してしまう。
生きるためにはやむを得ない。
俺は食い物を盗むようになった。
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転生から1週間、まだ食い物を盗む生活は続いていた。俺は橋の下の薄暗い場所で生活していた。
こんな惨めな生活をするんだったらいっそ死んだ方が良かったかもな
日本に来てから1週間。気づいたことがいくつかある。
一つ目、ここの人々からは魔力を微塵も感じない。そして俺の魔力も前世よりはかなり弱くなっている。これらのことから、魔術はこの世界に普及していないと思われる。
二つ目、争いが全くない。街中での口論などはあるが、戦争自体は起きてないようだ。
三つ目、魔力を一切感じないのに、あの薄い「スマホ」とやらで遠くの人と会話したり、街がしっかり整備されていたりと、高度な科学技術が発達している。
まあ転生先はそこまで悪くなさそうだ。
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転生から10日後、いつものようにコンビニで昼飯を盗もうとしていた。
「あ!やっぱりレンだ!」
声をかけられ、心臓が一瞬凍ったが、その驚きは一瞬にして安堵に変わった。
真横にいた美少女は俺の幼馴染、リズだった。
いつもは俺のことをからかって、いいように使い回しているこいつも、転生後の孤独で不安だった俺にとっては女神のように思える。
「リズ!お前何やってんだここで!」
驚きと嬉しさの入り混じった声を出してしまった。
「それはこっちのセリフよ。あんたもまさか転生したの?」
「した...と言うよりはされたと言った方がいい」
*
話を聞くと、どうやらリズも同じように転生したらしいが、転生してからなんと4ヶ月も経っているらしい。転送先の時間は同じとは限らないのか。
リズは今居酒屋でアルバイト(?)として働いているようだ。優しい店主が泊めてくれてるらしい。
俺は10日間ずっと盗みをはたらいて過ごしていたことを告げると、その居酒屋に働かせてもらえるか聞いてみよう、とリズは提案した。
俺も橋の下での生活はもう御免だ。働く代わりに泊まらせてもらえるかダメ元で聞いてみよう。
『まるっこ』
変な名前の居酒屋から出てきたのは優しそうなおばあちゃんだった。
「おっとリズちゃんがとうとう男を連れてきたよ、ハッハ」
「ちょっとやめてください、あきこさん」
俺は透かさず自己紹介をした。
「はじめまして、リズの幼馴染のレンです。あきこさん...会って早速失礼ですが頼みごとがあって....」
あきこさんは詳しい事情は聞かず、気前よく俺たちの要望を承諾してくれた。
僕たちには一つずつ部屋が渡された。
なんて優しい人なんだ。
これで橋の下の生活は終わるし、働く場所も見つけたし、リズとは会えたし、ひとまずはひと段落だな。
と思っていたところ、
あきこさんが、
「リズ、レン。2人ともいま何歳だ。」
「「16です」」
「なら高校に行きなさい。」
高校か...あっちの世界では魔法科高校しか行ったことなかったし、行ってみたいなぁ。
「行きたいとは思いますが、僕たちみたいなのが行って大丈夫なんですかね」
「書類とか手続きとかは任せときな。こう見えても昔は国のもとで働いてたんだ」
あきこさんは早速準備に取り掛かってくれた。この平和な日本での高校生活...どんなんだろうな。
久しぶりに感じたワクワク感を抑えられなく、リズの部屋に押しかけた。
「なあリズ!日本の高校ってどんなとこなんだ?」
「そんなの知らないわよ。1週間後にはもう入学なのよ。日本のこともっと勉強しないとヤバイわよ。特にあんたみたいなバカはね。」
そうか、俺たちは高校1年生としてスタートするのか。ワクワクするなぁ〜。こんな可愛げのないやつじゃなくて可愛い子との出会いが待ってるんだろうな〜。
「レン。ニヤニヤしててキモいから出ていって。」
「言われずともそうするさ。このクソビッチ」
「んあ?もっぺんいってみろ魔術師の出来損ない」
リズは怒ると怖いのでさっさと逃げた。
まあこうして平和な高校生活が始まる....
はずだった