―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~ 作:NEW WINDのN
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村は頑丈そうな木製の塀に囲まれている。塀の高さは5メートルほどはあるだろうか。上を乗り越えられないように尖らせており、村を守る防御柵というよりも、砦のような印象を受ける。
(ほう。だいぶ工事が進んだようだな。……そういえばあいつは上手くやっているのだろうか)
アインズは村の守りに派遣した
この村の復興にアインズは直接関わっていないが、力にはなっている。村へはルプスレギナ以外にもゴーレム数体とデス・ナイトを派遣している。
ゴーレム達は人間ではとても出せないような力を持つ上に疲労することがない。そのため不眠不休――もともと眠りも休みも必要ないのだが――で働くことができるため、短期間でここまでのものを作ることができた。大勢の村人が殺され、人手の減っていたカルネ村の住人にとっては、これ以上ない支援と言える。
塀の中央にあるカルネ村の門は閉ざされており、中を伺うことはできない。その門へと通じる道の両側には人の背丈ほどがある草が茂っている。歩みを進めるうち、アインズは複数の生体反応に気づく。
(……何かいるな。うん? この感覚は……”
この”
アインズはそれをカルネ村の住民で、最初に助けた少女、エンリ・エモットに身を守るようにと2つ与えていた。
このアイテムで召喚された
そのうちの数体が道ぞいの草の中に隠れているのが、アローに変身中で感知力が強化されているアインズには手に取るようにわかる。まだ距離は十分あるので、先制することは容易だ。やる気になれば全員の武器を撃ち落とすこともできなくはない。
『アインズ様!』
『わかっている。パンドラズ・アクターよ、この先に伏せているのは
『掃討いたしますか?』
『いや、アレは敵であるとは考えにくい。おそらく私が渡したアイテムで召喚したものだろう。敵意をみせたら別だが、そうでなければ傷つけることのないようにな……まあ敵に回ったところで私たちなら問題はないがな』
『畏まりました。アインズ様』
〈
「変だな。あんな頑丈そうな塀はなかったはずなのに」
何度もここに来たことのあるンフィーレアは村の変化に気づく。アインズよりも遅いのは、レベルの違いというものだろう。
「そう? 開拓村に対モンスター用に備えがあるのは珍しくはないと思うけど」
ブリタはこの村のことを知らない上に、感覚も特に優れているわけではないため能天気な反応をみせる。
「うーん、おかしいですね。元々カルネ村付近は、”森の賢王”という魔獣の縄張りになっていてモンスターはほとんど近づかないはずです。だからほとんどモンスターに襲われることがなかったんですよね。それで塀などは存在しなかったんですが……何かあったのかな?」
まさかモンスターではなく、同じ人間に襲われたとは知る由もない。
「うーん、自衛に目覚めたんじゃない? 最近物騒だしさ」
「だと、いいんですが……」
アインズは真実を知るが、アロー達3人もこの村に来るのは初めてという設定だ。当然それについては何も言わない。もっともアインズ以外のパンドラズ・アクターとナーベラルの二人は事実初めてなのだが。
「……ブリタさん。ンフィーレアさんを守ってください」
「えっ? ああ、わかった」
ブリタはアインズの警告を受け、素早く警護対象者であるンフィーレアの前に出る。
「ナーベもいいな?」
モモンの言葉にナーベは頭を下げて意を示し、ブリタと並んでンフィーレアの盾になる。
「……姿を現せ、
アインズは弓を握っている左手をだらりと下げて、攻撃する意思がないことを示す。モモンも腕組みをして立つのみで、二本のグレートソードは鞘に収まったままだ。
「……この距離でオレ達に気が付くとは、タダモンじゃねえな、アンタ」
精悍な体つきの
それに従うのは戦士風の者、弓矢を持っている者など総勢で10体を超える。数だけなら昨日の
その鍛えられた体つき、しっかりと磨かれた武器や防具、そしてなによりも知性が違うように感じられる。
「こ、こんな村の近くに、
「よしたほうがいい」
ブリタがあわてて剣を抜こうとしたが、ナーベがそれを冷静に押しとどめる。
「それはどうも。……私の名前はアロー。”ンフィーレア・バレアレ”さんの護衛の者だ。ンフィーレアさんは何度もこの村に来られているそうだから、村の人に聞いてもらえればわかるはずだ」
「アローさんだな。オレはジュゲムっていいます。オレには判断が出来ねえから、姐さんに確認させてもらう。その間動かないでいてもらえますかね。動かないでいてくれれば、こちらも危害を加える気はないもんで」
「……了解した」
「ありがてえ。そっちの赤毛の姉さんはオレらで対処できるだろうけど、正直アンタと、そっちの
ジュゲムと名乗った
(ほう……
「まあ、確かにそうだけどさ。私じゃあんた達にはかなわないよ……ただの
「この村はいったいどうなっているんだ! 姐さんって何者だ? そいつがここを支配しているのか?! エンリは無事なのか!」
ンフィーレアが掴みかからんばかりの勢いで声を張り上げる。ブリタとナーベが進路を塞いでいるため言葉だけですんでいるが、いなければ実際に掴みかかっていたであろう。
(おとなしい坊ちゃんだと思っていたが、意外とそうでもなかったのか……それにしてもエンリだと? ……なるほど。彼女が言っていた魔法が使える薬師の友人とは彼……ンフィーレアのことだったのか。てっきり女だと思っていたが)
エンリと聞いた
「エンリッ!!」
「まあ、ンフィー! 久しぶりね」
何事もなかったかのように笑顔で出迎えるエンリの姿に安堵の表情を浮かべるンフィーレア。
「よかった、無事だったんだね。エンリ。よかった~。
「……色々とあったのよ。あ、ジュゲムさん、彼は私の友達だから大丈夫。冒険者の皆さまもどうぞ。ようこそカルネ村に」
エンリの表情が一瞬陰ったが、すぐに笑顔に変わる。
「僕でよかったら話きくから!」
ンフィーレアは精一杯の言葉を伝えた。
この村に起きた悲惨な出来事と、それを救った謎の大
(やれやれ。ンフィーレア・バレアレとエンリ・エモットが友人だったとは。世の中はこの世界でも狭いものだなあ)
アインズは、情報の大切さをさらに痛感する。もっともさすがに人と人とのつながりまで把握するのは難しいだろうが。
(あの時、記憶を弄っておいて正解だったな)
エンリ・エモットおよびその妹、ネム・エモットの記憶を、アインズは書き換えている。書き換えた内容はアインズとの出会いの部分である。アインズは
その後に使用した魔法については、“聞いたことのない魔法で助けてくれたが、どんな魔法かはわからない”こと。そして“傷を治してくれたが、それは赤いポーションではなく何らかの魔法を使った”ことの3か所である。
(この世界の基準は”第3位階魔法で一流”と聞いたからなあ。オレからすれば弱すぎる第5位階魔法の〈
アインズはンフィーレアと、その祖母リイジーの反応を思い出す。
(まあ、彼らがそのことで探りを入れてきたのは明白だからな。上手く赤いポーションのことをチラつかせればこちらに引き込めるかもしれないな)
貴重な