―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~ 作:NEW WINDのN
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翌早朝、再びグリーン・アローの姿に変身したアインズと、その冒険者仲間の戦士モモンに扮するパンドラズ・アクター、
組合の中は数多くの冒険者たちが集まり、活気に満ちている。
奥にあるカウンターに座る3人の受付嬢から依頼内容を聞いている者、掲示板の前で依頼を選ぶ者、また顔見知りらしき冒険者と情報交換をしている者。
その中にはアインズ達と同じ
その装備は様々で、革鎧の戦士、法服にクロスを下げた神官らしきもの、髪を逆立て派手な色のバンダナを巻いたレンジャーと思われるものなど多岐に渡るが、どの冒険者の装備品もアインズにはゴミ以下のレベルにしか見えないものだった。
「……さてどのような依頼があるかな」
「楽しみだな。アロー、ナーベ」
「そうですね、モモン」
3人は依頼の記された羊皮紙が多数貼り付けられている掲示板の前に立つ。
「……なるほど、なるほど」
羊皮紙には見たことがない文字で依頼内容が書かれており、アインズには当然読むことができなかった。
この世界の言葉はどういう訳かはわからなかったが自動的に翻訳されているらしい。どういうことかと言うと、誰かが話せば、その内容はアインズには日本語で聞こえてくるのだが、よく見ると聞こえてくる言葉と口の動きが合っていない。
要は吹替版の映画を観ている時に、たまに気になることがあるズレである。口は”あ”の動きなのに、言葉は”う”で聞こえるというようなことだ。
残念なことに言葉は自動的に翻訳されても、字は翻訳してはくれない。
(誰がどうやってこの自動翻訳システムを導入したのかはわからないけど、どうせなら字も翻訳してくれるようにすればよかったのになあ……まてよ? これはプレイヤーの影響と考えるべきなのかもしれないぞ。不自然すぎる)
先日捕縛した陽光聖典から引き出した情報から推測を立てると、スレイン法国の建国にはプレイヤーが関わっている可能性が高いとアインズは考えている。
『……読めるか、パンドラズ・アクター』
吟味している演技をしつつ、アインズは〈
『はい。アインズ様……アイテムを用意してございます』
『ほう……セバスに貸し出していたもの以外にもあったのか?』
アインズの認識では、セバスに渡してあるもの一つだけしかない。
『はい。私は僭越ながら、ナザリック地下大墳墓の宝物殿の管理を任されております。至高の御方々が集められた数多くのアイテムの中に眠っておりました』
頭に響く声はモモンではなく、パンドラズ・アクターの声である。
「依頼を探しているのかい?」
突如
「……その通りだ」
モモンが重々しく応えるかたわらで、ナーベが警戒し剣を抜くべく中腰になりかけていたが、アインズがそれに気付き手で動きを制する。
「……見たことがある顔だ」
アインズはこの女冒険者が昨日宿にいた人物だと気付く。
「ああ、昨日宿にいたからね。私はブリタってんだ。たしか、アローだったっけ? 昨日の宿屋での一件見ていたけれどアンタ凄かったね」
「それはどうも。……やはりそうか。あの時にポーションを眺めていた人だな」
アローの姿になっている場合、視野が広くなり、観察力が上がる自覚がアインズにはあった。レンジャーかアサシンの職業レベルによる効果と思われる。
「へえ、さすがだね。アローさんとモモンさん、それにナーベさんだったよね。見たところ慣れてないようだし、よかったらガイドしようか?」
ブリタは笑みを浮かべる。
『アインズ様、どうなさいますか?』
『我々は冒険者としては“初心者”だからな。ここは先輩の顔を立ててやろうじゃないか』
『畏まりました』
〈
「それは助かる」
モモンが申し出を受諾する。
「ああ、任せてよ。じゃあ、まず依頼の受け方だけど……」
ブリタは喜々として話し出す。
「なあ……あいつ、あんな奴だっけ?」
ブリタを以前から知る冒険者たちは、ブリタが初心者に対してあまりに親切なので驚きを隠せなかった。
アインズ達は、先輩冒険者であるブリタから、依頼の受け方、報酬の受け取り方、モンスターを倒した場合の証明方法など、冒険者の“イロハ”を叩きこまれる。
途中ナーベがブリタの言葉遣いに対し、文句をつけそうになるというハプニングはあったが、無事レクチャーは終了する。
(なんだかゲームのチュートリアル終了って感じがするな)
アインズは懐かしく思い出す。
「……何かお勧めの依頼はあるかな?」
アインズは先輩を立てる意味と、自身が文字を読めないことを知られないようにするためにブリタに尋ねた。
「出来れば一番難しいものを頼む」
モモンもそれに合わせる。このあたりは“アドリブ”だが、アインズとモモンの息はまさに阿吽の呼吸と言える。
「そうだねえ。
ブリタは依頼の中から一枚の羊皮紙を選び出す。
「どのような内」
「モモン様! アロー様!!」
アインズの質問をかき消すように受付嬢から声がかかる。
「……どうしたのかね?」
モモンはアインズの邪魔をしたということで殺気立つナーベを制しながら、重々しくも穏やかな声で尋ねる。
「お話のお邪魔をして申し訳ございません。モモン様とアロー様に名指しの依頼が入っております」
それを聞き、アインズとモモンは顔を見合わせ、ナーベは不審感を隠せない顔になる。
「ナーベ」
小声でアインズはそれを窘める。
「……名指しの依頼ですか?」
「いったい誰が……」
昨日この都市に来たばかりのアインズ達にはこの街の知り合いなどほとんどいないに等しい。
「すごいじゃないの! 名指しの依頼なんてそうそう貰えるもんじゃないよ!」
ブリタが一番興奮している。
「僕が依頼させていただきました」
人垣の中から現れたのは金髪で顔の半分が隠れてしまっている少年、昨日出会った薬師ンフィーレア・バレアレである。
「……ンフィーレアさん?」
アインズ達にとってはこの都市での数少ない知り合いの一人である。
「昨日はありがとうございました。アローさん、モモンさん」
「……こちらこそ」
モモンが重々しく答え、その隣でアインズは頷き同調する。
「依頼内容をお話してもよいですか?」
「……構いません。ちょうど依頼を探していたところですしね」
「ああ、ぜひ聞かせてもらおう」
この後聞いた依頼内容は、ポーションの元となる薬草を採取するためにカルネ村近辺の森まで行くので護衛をしてほしいというものである。
またアローとモモンに依頼した理由を尋ねたところ、今までに依頼していた冒険者が別の街へ行ってしまった為、新しい人を探していたこと、
「……わかりました。この依頼お受けしよう。異論はないな?」
「私は問題ないぞ、モモン」
「お二方がよいということであれば、私も問題はありません」
「皆さんありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」
アインズ達の初めての冒険は、ンフィーレア・バレアレの護衛任務に決定した。
「おめでとう。頑張りなよ!」
依頼がまとまったのを見てブリタが声をかける。
「……ありがとうございます」
ここはモモンが応じる。
「ンフィーレアさん、一つ伺いたいのですが……」
「なんでしょうか、アローさん」
「我々3人は腕には自信があります。ただ、今回は護衛任務ということですので人手は多い方がよいと思います」
「確かにそうですね。ああ、別に私の方は人数が増えても問題はないですよ」
「ありがとうございます。ではブリタさん、よろしければ一緒にいきませんか?」
突然名を呼ばれたブリタは驚きを隠せない。
「えっ? 私??」
「無理にとはいいませんが」
「いや、特に予定もないし、無理なことなんてないよ。お願いするわ」
「じゃあブリタさんもよろしくお願いしますね」
出発はニ時間後に決まり、それぞれ準備を整えて集合することに決まった。
◇◆◇ ◇◆◇
アインズ達は集合場所近くの人の少ない路地裏に移動し、時間になるのを待つ。姿はそのままだが、防御魔法を張ってあるので、周囲を気にする必要はない。
「アインズ様、お伺いしたいのですが……」
「あの赤毛のことだな? 赤毛には証人になってもらう。我々の名声を高めるための道具というわけだ。もっともそれだけではないがな」
「なるほど……」
「して、アインズ様。今回は依頼を成功させるということでよろしいのでしょうか?」
姿はモモンのままだが、声はパンドラズ・アクターのものになっている。
「もちろんだ。パンドラの言いたいこともわかるぞ。あのンフィーレアの
「はい。昨日も申しましたが、危険な能力だと思われます」
「ナザリックに取り込みたいところだが、いきなり依頼を失敗するわけにはいかないからな。いずれはこちら側に引き込みたいが」
「かしこまりました。ではその方向で動くようにいたします」
「頼むぞ。さあ、冒険の始まりだ。行くぞ!」
「「はっ!」」
いよいよ、アインズ達の初めての冒険が始まる。