―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~ 作:NEW WINDのN
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いよいよ彼が登場します。原作よりも早い登場となります。
宝物殿へと転移したアインズは、いくつかの部屋を経て奥へと歩みを進める。この宝物殿に天井まで積まれている黄金や財宝・武具などはアインズ・ウール・ゴウンの仲間たちの冒険の結晶と言える。
(それにしても色々な冒険をしたなぁ……)
そんなことを思っているアインズの前に、ピンク色の卵のような顔をした異形の者が姿を見せた。
その顔はのっぺりとしており、両目と口に該当すると思われる部分には黒い穴が開いていた。
ドイツ風の軍服を着用し、頭に被っている制帽の真ん中にはアインズ・ウール・ゴウンのギルドサインが入っている。
「おお、ようこそおいでくださいました、私の創造主たるモモンガさまっ!」
カツンと踵を鳴らし、右手でビシッ! と敬礼を決めた。
「…………お前も元気そうだな。パンドラズ・アクターよ」
疲労とは無縁のはずのアンデッドの体が心なしか重くなった気がする。
「はいっ! 元気にやらせていただいています! ところで今回はどうなされたのでしょうか? 何か御入用なアイテムでもございましたか? それともついに私の力を使う時がきたのでしょうか?」
パンドラズ・アクターのつるっとした顔に興奮の色が見える。
「……後者の方だな」
「お、おおっ! ついに……この時が!」
感動して泣きそうなくらいになるパンドラズ・アクターをみて、アインズは今まで宝物殿に押し込めておいたことに罪悪感を覚える。
「……パンドラズ・アクターよ。私の姿になることはできるな?」
「はい、もちろんでございます! モモンガ様!」
オーバーリアクションで頭を下げるパンドラズ・アクター。それを見てアインズの罪悪感が薄れる。
「……うむ。では私の姿になってみせよ!」
「ははっ……
突然のドイツ語にアインズはビクリと反応し、精神が強制的に沈静化するのを感じる。
(うわーっ、だっさいわー。フレーバーテキストならまだしも、実際に動いているとグサグサくるな。〈
だがしかし、パンドラズ・アクターに罪はない。なにしろアインズがそうあれと創り出したのだから。
そんなアインズの動揺に気付くこともなく、パンドラズ・アクターは忠実に命令に従い己の姿を変化させる。パンドラズ・アクターの卵頭がグニャリと歪むと、一拍の後、もう一人のアインズがアインズの前に現れた。
(おおっ!……現実化するとこんな感じで変身するのか)
アインズは初めて見る変身に気持ちが高鳴ったが、すぐにアンデンドの特性が発動し安定化される。
「いかがでしょうか。モモンガさまっ!」
パンドラズ・アクターの声ではなく、自分の声で言われたアインズは顔をしかめる。まあ骸骨なので表情は変わらないが……。
「……う、うむ。見事だ」
「ありがとうございます、モモンガ様っ!」
やはり妙な気分になるが、アインズはここは自らの意志で気持ちを切り替える。
「よし、では私と同じ姿になるように。〈
アインズは魔法で漆黒のフルプレートと二本のグレートソードを創り出し、戦士モモンの姿となる。
「かしこまりました。〈
パンドラズ・アクターもモモンの姿となる。
「さすがだな、パンドラズ・アクター。素晴らしいぞ」
「おおっ~。ありがとうございます。モモンガさま!」
「――パンドラズ・アクターよ。一つ言っておこう。今の私はモモンガではない。――私は名をアインズ・ウール・ゴウンと改めた。今後はアインズと呼ぶように」
「おお! 承りました。私の創造主、アインズ様!!」
モモン姿のまま敬礼をする。それを見たアインズの精神がまた強制的に沈静化する。
「……パンドラ、今後敬礼はしなくてよい。それとドイツ語も禁止な」
「ええっ、以前はカッコいいとおっしゃって……」
「時とともに流行は変わるものだ。……よいな?」
「ははっ!」
再びオーバーリアクションなお辞儀で返す。
(本当は、オーバーリアクションもやめてほしいんだが、さすがに全部禁止もかわいそうだしな。……それに、オレが本気でカッコいいと思っていたころに創ったせいか、コイツ自身それが本気でカッコいいと思っているみたいだし)
セバスにその創造主であるたっち・みーの影響がみられるように、どうやらNPC達は創造主の影響を大小の差はあれども受けるようだ。
「さて、パンドラよ。今後の為にもいくつか試したいことがある。まずは、この姿同士で剣を合わせようじゃないか」
「おおっ。我が創造主と剣を交えることができるとは。このパンドラズ・アクター感激の極みであります」
通常は両手で一本を持って扱う大剣グレートソードをそれぞれの手にもち、寸分違わぬ姿の二人が鏡合わせのように同じ構えで向かい合う。
「……いくぞっ!」
アインズは右手のグレートソードを力いっぱい振り下ろす。
「ふっ……」
パンドラズ・アクターはそれを見切り、軽く体を右に捻ることでその剣を回避する。それとほぼ同時に左手のグレートソードの薙ぎ払いを放つ。
「なんのっ!」
アインズは回避されたことでバランスを崩すも、左手のグレートソードを盾のように扱いその一撃を受け止めてみせる。だがバランスを崩していた分威力を受け止めきれない。
(オレの方がレベルは上のはずだが……)
「ふんっ!」
パンドラズ・アクターはそのまま一回転すると今度は右上段斬り!
「むっ!」
アインズは身体能力の高さを生かし、先ほどのパンドラズ・アクター同様にほとんど動かずにそれを回避するが、それを予想していたようにパンドラの連撃が襲う。
「むうっ」
防戦一方となるアインズはここで反撃に出るべく、大きなスイングで剣を繰り出す。
「……アインズさま。攻撃に意識を置きすぎないほうがよいかと」
パンドラズ・アクターはそう忠告しつつ、攻撃を回避されバランスを崩したアインズの首筋に剣を突き付けた。
「……むう。やるな、パンドラよ」
「光栄でございます。アインズ様」
「一つ聞くが、なぜこうなる」
「はい。アインズ様は普段は魔法詠唱者であり、前衛職の経験はなかったかと思います」
その通りだとは答えずにアインズは首を縦に振ることで肯定する。
「ですので、今のアインズ様は技術ではなく、身体能力に頼ったいわゆる”力任せの攻撃”になっております。さらに、攻撃しようとする意識が強すぎるため、繰り出す一撃一撃が、すべてフルパワーで繰り出されております」
アインズは黙ってパンドラズ・アクターの言葉に聞き入る。
「私は恐れ多くもアインズ様のお姿にならせていただいておりますが、知識として他の至高の御方々の情報が入っております。それによりますと、相手がどう動くかということも考え、避けられたり、防がれたりした際のことも考えて仕掛ける必要があるのです。『戦いとは、常に二手三手先を読んで行うものだ』と伺っています」
パンドラズ・アクターの表情には変化はないが、声が弾んでいる
「なるほど。言われてみれば確かにその通りだ。おかしなものだな。魔法で戦う時は先読みをしていたのにな」
「実際に戦場に出たことがない私が、至高の御方々から与えられた知識だけで創造主たるアインズ様に意見するなど恥ずかしい限りではございますが、経験の有無ということだと思います。私も実際の戦闘を行えばこの限りではないかもしれませんが」
「パンドラよ、礼を言うぞ。この経験は貴重なものだ。私はこれからナザリックを出てこの世界の人間の中で冒険者として暮らすつもりなのだ。その際に必ずお前の助言は約に立つだろう」
「ありがとうございます。アインズ様」
「では第二段階といこうか。〈
アインズは、オリバーの姿を経てグリーン・アローの姿に変身する。
「おおっ! そのアイテムは”
「よい。わかっているのであれば、先程のようにはいかんぞ」
「ハッ! 心してお相手を務めさせていただきます」
先程はお互いに近接戦闘型だったために剣での戦いだったが、当然今度は違う。
アローの姿になったアインズは、素早く距離をとると弓を構え矢を射た。1射目を回避したパンドラズ・アクターに2の矢、3の矢が襲いかかる。
「むう……」
頭部を狙う矢を、上体をそらして回避し、胸部を狙う矢を右のグレートソードで叩き落とす。
「やるな」
「アインズ様こそ」
兜の下で見えないが、きっとパンドラズ・アクターは笑みを浮かべているのだろう。だが、その笑顔は続くアインズの攻撃の前に掻き消えることになる。
「カベッ!!」
アインズの高速連射をかわし切れなくなったパンドラズ・アクターは、気付けば壁際に追い詰められてしまった。
「うーん、参りました」
元の姿に戻ったパンドラズ・アクターは、感激の面持ちである。のっぺりしたピンク色の卵頭なのでそんな気がするだけかもしれない。
「さすがにグリーン・アローは弓の名人であり、戦闘術に長けているな。先ほどの戦いに比べると体が動く」
「はい。素晴らしい動きでございました。さすがはアインズ様」
「これなら十分に行けるな。……よし決めたぞ! パンドラズ・アクターよ、お前はこれから先ほどの戦士の姿となりモモンと名乗るのだ。私はこのグリーン・アローの姿で人間の都市に行く。お前は戦士モモンとして私の供をせよ。留守の間はアルベドに財政面の管理を任せよう」
「おおっ! この私をお連れいただけるとは! このパンドラズ・アクター、これ以上の喜びはございません」
「ナザリックではアインズで構わんが、人間の都市では”アロー”と呼ぶようにな」
「承りました。アインズ様。それではお供をさせていただく際はお望み通り、”アロー”と呼ばせていただきます」
「よし、それではお前の役回りを伝えなければな。だが、その前にもう少し戦闘訓練といこうじゃないか」
「おお! 喜んでお相手を務めさせていただきます。アインズ様!」
アインズとパンドラズ・アクター。創造主と創造された者の戦闘訓練は、この後もしばらく続くこととなる。