―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~ 作:NEW WINDのN
次の話 >>
シーズン1第1話『ARROW(アロー)』前編
帝国騎士に偽装し、カルネ村を襲撃していたスレイン法国の部隊を退けたモモンガ――今は改名し、ギルド名そのものである”アインズ・ウール・ゴウン”を名乗っている――は、ナザリック地下大墳墓第九階層にある自室に一人籠っていた。
「……1人で試すことがある。何人たりとも部屋には入ることは許さぬ!」
アインズは語気を強め、シモベ達を無理やり部屋から遠ざける。
(命令しないと、絶対に1人にさせてくれないからな……ずっと、人に見られているのはキツイんだよなぁ。だいたいオレは、王族でも貴族でもなく、たんなる一般人だぞ? 四六時中人に付きまとわれるなんて耐えらないよ)
ここ数日の間に溜まったストレス――アンデッドであるアインズには存在しないはずのバッドステータスだが――を吐き出すとアインズは気持ちを切り替える。
アインズが試したいこととは、”あるアイテムの効果を試すこと”。そのアイテムが使えるかどうかによって、アインズの今後の計画は大きく変わる可能性があった。
このナザリック地下大墳墓ごと、アインズが謎の異世界に転移してからすでに数日が過ぎているが、得られた情報はそう多くはなかった。
この異世界には自分達を超える強敵が存在することも考えられるし、アインズと同じユグドラシルのプレイヤーが転移している可能性も十分に考えられる。この世界にアインズ達が転移した原因は不明だ。それがわからない以上どこかに他のプレイヤーおよびギルド拠点があると考えるのが自然だろう。
それに、もしかしたら、かつての仲間達――ギルド[アインズ・ウール・ゴウン]のメンバーも自分と同じようにどこかに転移していることも考えられる。
可能性は色々と考えられるものの、今まで得た情報ではまったく足りていない状況だった。
(何をするにしても、まずは情報がないと始まらないな。情報さえあれば対策を考えられるからな……ぷにっと萌えさんもそう言っていたな)
アインズは、すでにいくつかの施策を考えていた。
(まずは、隠密能力に長けたシモベを大都市に派遣して情報を得ることだな)
隠密能力にたけたシモベの代表格は
(となると
もちろんこれも数には限りがあるので、情報網を広範囲に広げるのは難しいだろう。
(だが、情報を探るには、密偵の数もある程度は必要だからな)
実は、この数を補うための手は、すでに手を打ってある。
アインズ自らが考案し、命名した“
この“G”はとにかく数がおり、物陰に隠れやすいサイズだ。それにたとえ発見されたとしても、情報収集にはうってつけの存在であった。また見た目は“G”そのものであり、発見されたとしても、それが諜報員であると気付く人間など皆無といえた。
すでにリ・エスティーゼ王国・バハルス帝国・スレイン法国という、人間の3つの国家には、多数の”G”を送りこんである。
そして、今後は世界各地へ送り出し、情報を収集させようと考えている。
さらにアインズは、自分自身が現地に入り、直に現地の人間達と交流を持つことが絶対に必要だと感じている。
(現場を観ないで判断すると大きな間違いにつながる可能性が高いからな……まあ、守護者らを派遣することも考えてはいるんだが……うーん……)
ナザリックの階層守護者をはじめとするシモベたちは、素晴らしい能力の持ち主である。それにかつての
基本このナザリックには異形種しかおらず、至高の存在に創造されることのなかった人間を見下す傾向にある。それでは友好的に現地の人間と交流を持つことは難しいだろう。 そもそもの問題として、人の世界に送り出しても違和感のない見た目の者が少なく、選択肢はかなり限られてしまう。
派遣できる可能性があるのは、ナザリックの
(聞いた話だと帝国では
アインズは今後冒険者として、ナザリックから一番近い大都市であるエ・ランテルに行くつもりだ。そこで問題となるのは、「どのようなキャラ設定でいくのか?」、そして「メンバー構成をどうするのか?」ということだ。
(せっかくだから、違うアバターのつもりで考えたいよな)
アインズは、「ユグドラシルでも、サブアバターを作れればいいのに」とずっと思っていた。
これは、多くのユグドラシルプレイヤーもそう思っていただろう。ユグドラシルには”1人1アカウント”という制限があったのだから。
(……剣や槍といった武器は持てないけど、魔法で作った武器なら持てるし、前からやりたかったからな)
候補としてまず上がるのが、魔法で作り出した
(といっても……兜をとったら骸骨だしな)
低レベルの幻術で顔を作ることはできるが、出来はよくないので見破られる可能性も高い。そもそも飲食をすることができないことも怪しまれる可能性がある。
(……やっぱりあれを試すべきだろうな)
アインズは決意すると、何もない空間に右手を入れて、ひとつのアイテムを取り出した。
(これが役に立つ時がくるなんて、あの時は思わなかったけどなぁ)
アインズは銀色の光を放っているペンダントを懐かしい気持ちでみつめる。このペンダントは鏃の形をしているが、特にそれ以外に目立った”外的特徴“はない。なお、色は緑ではなく銀色だが、”
この”
DCコミックコラボとは、リアルでのアインズ……鈴木悟の生まれる1世紀以上も前に流行ったヒーローもののアメコミとのコラボイベントであり、”バットマン”や”スーパーマン”といったヒーローに関連するイベントやアイテム・外装などが登場し、ちょっとした話題になったものだ。
「なんで、マーベルの方じゃなかったのかなー? あっちの方が人気あったと思うし、ユグドラシルに人を呼び戻すためってにやるというのなら、そっちの方が絶対にいいと思うのにな」などと言っていたギルメンもいたような気もするが、あまり興味のなかった当時のモモンガにはどうでもいい話だった。
聞きかじった話だとマーベルも同様にヒーローもののアメコミであり、100年以上前には多数の作品が映画化されて非常に人気があったらしい。
(正直世界観もそうだし、内容がよくわからないから興味なかったんだよな)
コレクターとしては新たに登場するレアアイテムだけには興味があったが、コラボの題材そのものにはまったく興味がなかったのだ。
それに中世ファンタジー風のユグドラシルの世界観にマッチしない気がしていたので、モモンガは課金せずに軽く流して参加するつもりだった。
だが……その思いは友人ペロロンチーノのある一言によって大きく変化することになる。