健康保険の不正使用を許さぬ仕組みに

社説
2018/12/13付
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先の国会で成立した改正出入国管理法には、外国人労働者の受け入れ拡大に伴う副作用への対応策が不十分な点がある。外国人を国民皆保険にどう位置づけるかという問題は、その一つだ。

日本国内に居をかまえ、国内で活動する企業に雇われる外国人は日本人と同様に遇するのが原則である。一方で母国に残した家族の高額な医療費を日本の健康保険で賄う事例が報告されている。

まずは厚生労働省が悪質な事例の実態をつかむ必要がある。健康保険へのただ乗りが横行しているなら、それを防ぐ仕組みを政府を挙げてつくらねばならない。

外国人の健康保険加入者のあいだでは母国に住む家族を被扶養者にし、その医療費を保険で賄う事例が増えている。病院・薬局が、診療費について正確さを欠く領収証を出す国もある。

会社員などが入る協会けんぽや健康保険組合の適用範囲は、本人が扶養する3親等内の親族だ。居住地が日本か海外かは問わない。現状、健康保険の運営者が海外での扶養関係や診療内容を正しく把握するのは難しい面がある。

来春の改正入管法の施行をにらみ、厚労省は被扶養者の適用範囲について国内居住を原則とする要件をつける方針だ。来年の国会に関係法の改正案を提出するが、それで十分とは言えない。

最近は健康保険の資格を失ったのに、手元の保険証を使って日本の医療機関で診察を受ける外国人がみられる。健康保険の運営者は本人の窓口負担を除く医療費を負担せざるを得ず、その分を当人から取り立てるのは困難だ。

医療機関が初診時などに本人確認を徹底すれば悪質な事例は防げる。だが保険証には顔写真さえ載せていない場合が多く、十分な確認ができていないのが実情だ。

保険証の使い回しなどの不正使用は外国人に限らない。それを防ぐ決め手はマイナンバーカードと保険証の一体化だ。医療機関の受付でかざしたカードから本人情報を読み取れば、不正使用はあぶり出せる。厚労省は2021年春からカードによる確認を順次始めるというが、悠長に過ぎる。

移民の社会保障制度へのただ乗りは英国が欧州連合(EU)離脱を決めた要因にもなった。日本も外国人受け入れを増やす以上、保険証の不正使用などを許さぬ方策を完備しておかなければ、のちのち大問題になるだろう。

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