地震予知に頼らぬ減災進めよ

社説
2018/12/13付
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西日本の太平洋沿岸で想定される南海トラフ地震について、中央防災会議が防災対応の見直し案をまとめた。予知を前提に一斉避難を求めてきたこれまでの対策を転換し、地域や状況に応じて自主避難などきめ細かく対応する。混乱を防げるか課題は残るが、予知に頼らぬ減災の一歩にしたい。

南海トラフ地震は最悪の場合、日向灘~東海沖を震源にマグニチュード(M)9級の巨大地震になる恐れがある。その前兆として、トラフの東や西でM8級が起きる「半割れ」地震や、ひとまわり小さい「一部割れ」地震が起きる可能性も指摘されている。

中央防災会議の作業部会はそれぞれのケースで防災対応の方向性を示した。最も注意が必要な半割れ地震の場合、津波の心配がある沿岸部では住民に避難を求め、それ以外の地域は注意喚起にとどめる。鉄道や店舗の一律の休業は求めず、企業は地震に警戒しつつ業務の継続が望ましいとした。

これらは東海地震に備えて1978年に定めた大規模地震対策特別措置法(大震法)からの大転換といえる。大震法では気象庁が前兆をとらえて首相が警戒宣言を出し、経済活動を止めて避難を求める強制力の強い内容だった。

だが、政府は南海トラフ地震の予知は困難と認め、警戒宣言を出す方式も昨年秋にやめた。代わりに、半割れなどの異常が見つかれば気象庁が臨時情報を出すことにし、それに伴う住民や企業の対応を定めたのが今回の報告案だ。

課題も多い。東日本大震災では被災地以外でも食料・日用品の買いだめや流言などで社会が混乱した。これを繰り返さないように政府は臨時情報の意味を日ごろから丁寧に説明する必要がある。

企業が業務を継続できるかは、交通機関やサプライチェーン(供給網)、学校、託児所などの状況に左右される。地域ごとに自治体と企業が協議し、対応計画づくりを始めるべきだ。建物の耐震補強など地震発生前に済ませておくべき対策も忘れてはならない。

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