挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
転生したらスライムだった件 作者:伏瀬

魔都開国編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
119/303

115話 地下迷宮見学会

 決勝戦も終わり、ベニマルが優勝した。

 これで、序列とやらも4位までは決定した訳だ。

 そう言えば、役職や名称も決めておく必要があるんだった。

 取り敢えず、四天王でいいだろう。

 四天王と言えば、ゴブタだ。


『ククク、ヤツは四天王最弱。四天王の名折れよ!』


 とか、言われる事になるのだろうか?

 嵌り過ぎていて、怖い。

 ランガと同一化してない状態のゴブタになら、その辺の冒険者の上位パーティーにも勝機はありそうだし。

 まあ、油断してないゴブタに勝つのは難しいだろうけどね。

 それはともかく、組織も拡大しそうだし、役職は考えておく必要がありそうだ。

 心のメモ帳に記入しておく。



 表彰式も終わったので、今度は迷宮への見学会が開催される。

 希望者のみなのだが、出来れば大勢参加して貰いたい。

 今日も元気なラミリスが、俺の肩に座っている。その表情は自信満々だ。

 隣に立つヴェルドラも、どこか誇らしげな表情であった。


「おい、大丈夫か? 今日の見学会では無茶したら駄目なんだぞ?」

「ふっふふ。だいじょーぶい! 任せなさい! 今日は安全装置を作動させてあるよ」

「クックック。しかし、明日以降、凶悪な迷宮の目覚めの日となるだろうが、な!」


 顔を見合わせ、ラミリスとヴェルドラが邪悪に笑った。

 大丈夫か? そこはかとなく、不安になる。

 最後、任せっきりにしたのは不味かったかも知れない。



 昼休憩も終わり、観客が闘技場の席に戻って来た。

 地下迷宮ダンジョンの案内なのだが、1万人規模の人数で押しかけても、混雑し過ぎて案内も碌に出来ない。

 そこで考えたのが、代理で1パーティに攻略を依頼する事であった。

 幸いにも、昼休憩を終えそのまま帰った者は居なかった様子。

 これで十分に宣伝出来るというものである。

 ミョルマイルが闘技場中央に出向き、拡声器マイクを片手に挨拶を行う。

 そして、


「では早速、我が国の誇る地下迷宮ダンジョンを攻略してみようという勇敢な者は居られますでしょうか?」


 と、声を張り上げた。

 その声を聞きながら、俺達も闘技場中央に向かう。

 俺の肩に座るラミリスが、闘技場中央にて地下迷宮の仮扉を召喚した。


『おお!!』


 と言う響めきが発され、観客に静かな興奮が伝播する。

 ちなみに、希望者が居ない場合、マサユキ君の出番であった。

 ちゃんと打ち合わせは出来ていて、出番を待って待機している。

 実況役として、ソーカ。カメラマンとして、ホクソウとナンソウが随行する事になっている。

 そう! 挑戦者の様子を、大モニターに映し出し、観客は安全に見学して貰うという趣向なのだ。

 万が一にもお偉いさん方に怪我でもさせたら大問題。そこで、代理の者だけを実際に体験させるという案を採用したのである。

 希望者が入ればその者達に、居なければマサユキ達の出番。

 問題は、死亡も体験して貰う予定である事。

 だが、一階の初端で即死亡とか無茶をしでかしたら、今後の挑戦者が居なくなる。

 なので、そこそこ頑張って貰いたいのだ。

 かなりの広さなので、一階をクリアは出来ないと思うのだが……今回は、随行するソーカ達に集団帰還アイテムを所持させている。

 問題があれば、即帰還可能であった。

 2時間程、観客が楽しむ程度に攻略してくれるのが最高ベストなのである。

 当然、お土産として、そこそこの武器等が出る宝箱も用意してある。

 心配なのは先程言った通り、ラミリスやヴェルドラ、そしてミリムが、無茶な罠を仕掛けていないかどうか、それだけなのだ。


「へへ、魔王さんよ。俺達が、お前のメッキを剥がしてやるぜ!

 武闘会などと大袈裟な出来レースを見せて、俺達を威圧しようたって、そうはいかねーぞ!

 あんなもの、何か幻術の類でも使っているんだろ?

 言わなくたっていいさ。この迷宮とかいう虚仮威しも、俺達がその正体を見破ってやる!」


 ん?

 なんか立候補者が現れたっぽいぞ?

 都合が良い、のか? なんかバカそうだけど……。

 どうやらこの闘技場で闘った者達の事を、幻術の類と思ったらしい。

 ある程度の実力が無ければ、何をしているのかの予測も出来ない。

 そのせいか、単純に見世物として楽しむ者やこの者達のように、幻覚や幻術だと疑う者もいる様子。

 というか、理解出来た者達は、青ざめて信じたく無いという感じになっていた。

 理解出来ると言っても、次元が違う闘いだと理解した、その程度の事なのだけど。

 だけど、それでいい。

 目的はある程度達成されているし、この闘いを見て喧嘩を売ってくる者が居なくなればいいのだ。

 各国の要職に就いた者達が連れて来た猛者の中には、流石に一人か二人は理解出来る者がいる。

 その者達が各々の雇い主に、ありのままを伝えてくれればそれでいいのだ。

 信じない者が出るのは想定内であった。



 さて、せっかく立候補者が出た事だし、早速お願いする事にしよう。

 お試しなので、当然"蘇生の腕輪"等は無料で配布した。

 ラミリスの能力により、死んでも10秒程で蘇生出来るようになる。

 あれから改良を加え、死亡判定時に痛みや苦痛をキャンセル出来るようになったそうだ。

 高位回復魔法ハイ・ヒールや、完全回復薬フルポーションがあれば、その場で復活可能になる。

 そういう諸注意を行い、間違っても迷宮外でも同じように考える事が無いように説明する。

 馬鹿が勘違いして、外でも生き返れると思ったとしても、それは此方の責任では無い。

 何でもかんでも主催者側の責任にされるのは真っ平だしね。

 前世の世界では、店側に責任を押し付けすぎのように感じた。

 ルールを破って暴れる馬鹿が、仮に死んでしまったとしても自業自得だと思うのだ。

 だが、説明を怠っていては此方に責任がある。そこは注意して、念入りに行う事にする。


「ふん、迷宮内では死亡が無い、だと? 面白い。

 じゃあ、そこのお前、行って死んで見せてくれよ!」


 自分ではなく他人で試す。

 まあ、当然の要求だろう。指名されたナンソウが、やれやれという感じで"腕輪"を嵌めて中に入った。

 同時に、挑戦者達も中に入る。

 先ほどから発言している、スキンヘッドの大男、リーダーと思われる彼が、手斧を取り出した。


「じゃあ、攻撃をどうぞ」


 ソーカの言葉に、待ってました! とばかりに、ナンソウに切りつける。


「キエーーーー!!」


 などと、大声で気合を込め、何度もナンソウに斬り付けた。

 ナンソウは反撃もせず、攻撃を受けるがままだ。

 スキンヘッドは意地が悪いのか、一撃で殺さず、同じ箇所を狙わずに、ナンソウを痛めつけていく。

 人では無い、龍を擬人化したような外見のナンソウ。

 相手が魔物だというので、遠慮も無くいたぶっているのだろう。

 まあ、ナンソウの鱗に阻まれ、まともなダメージが通らないだけの可能性もあった。

 スキンヘッドは汗にまみれ、何十発も込めてようやく仲間に応援を求めた。

 ナンソウに向けて、魔法や弓が降り注ぎ、10分程経過してようやく倒せたようだ。

 ナンソウに後で謝った方が良いだろう。嫌な役を押し付けてしまった。

 倒されたナンソウの身体が、光の粒子になって消えていく。

 身に纏った装備類も、同様に光の粒子に変化して、消えていった。

 その様子は、付き添いのソーカ達の持つ水晶球にて記録され、闘技場の大スクリーンに映されている。

 そして、光の粒子が消えると同時に、闘技場中央の仮設入口の横でナンソウが復活した。


『おおお!!』


 と、観客に歓声が起きる。

 これもトリックと疑われたら面倒だが、信じて貰うには体験して貰うしかない。

 なので、こればかりは冒険者が挑戦し、口コミで広まるのを待つしかないと思う。

 物好きな挑戦者がいたとしても、用心深い者が試す事は無いだろうし。

 ともかく、スキンヘッド達は納得したのか、探索を開始した。


『さあ、地下迷宮ダンジョンの探索が開始されました!

 未知の世界が広がっております。この先に待ち受けるのは、果たして……』


 大スクリーンにソーカの顔が映され、内部の様子を中継する。

 ドキュメンタリー風味に仕立てているのだ。

 そして、理路整然と石造りに仕立てられた一階層を進んで行く。

 一人が地図を作成しつつ進むのが普通だと思っていたが、誰一人地図を用意している様子は無い。

 大丈夫だろうか? この世界でも、洞窟の探索とかあると思うのだけど……


「っち、同じような道ばかり続きやがって!

 何だ、四つ角ばかりじゃねーか!」

「旦那、ここ、さっきも通った道じゃないですか?」

「バッソン、不味いぞ! この迷宮とやら、思った以上に広い」


 俺の心配を他所に、早速迷ったようである。

 最初に広さの説明もしたんだが、聞いてはいなかったらしい。

 まあ、こんなもんかもな。

 最悪は死に戻り出来るし、腕輪にはSOS機能も付いている。

 その機能を使用すれば、樹妖精ドライアドのトレイニーさん達が助けに現れるのだ。

 まあ、地上まで強制送還されるだけなんだけどね。

 スキンヘッドの男、バッソンとやらは、仲間の焦りも加わり面白くなさそうな表情になる。

 駄目だ、難易度の問題じゃない。

 挑戦者が馬鹿すぎた。

 こんな事なら、サクラを用意すべきだった……。

 そう嘆いていると、


「バッソンさん! こっちに部屋がありますぜ!?」


 と、仲間の一人が扉に気づく。


「おい、ラミリス。あの部屋には、何があるんだ?

 魔物部屋とかは一階には無いよな? ちゃんと宣伝になりそうなものか?」

「だ、大丈夫。あの挑戦者、ちょっと酷すぎよね……

 アタシが言うのも何だけど、ここまで無鉄砲なのは想定外だった。

 でも、あの部屋には、魔物一匹と宝箱よ。問題ないわ!」


 よし、なら大丈夫だ。

 冷や冷やさせやがる。まさかこんな事で、俺達の計画が狂いそうになるとは……

 あの冒険者、ランク的には"B-"相当だった。

 それが6名でパーティを組んでいるのだ、この迷宮の一階層で躓くなんて、想定外もいい所。

 まあ、2時間程度で攻略される事はまずないのだが、全滅されたら宣伝に悪影響が出そうだ。

 ドキドキしながら、映像を見る。

 一人が扉に手をかけて、慎重に開いた。

 中に居たのは、一匹の巨大熊ジャイアントベアだ。

 大丈夫。Cランク相当のモンスターなので、彼らにも十分に倒せるレベル。


「魔物だ! 巨大熊ジャイアントベアかよ、俺が囮になる、お前らは隙を狙え!」


 バッソンが部屋に飛び込み、巨大熊ジャイアントベアの正面から対峙した。

 そして戦闘が開始する。

 援護に入る仲間達が、次々に攻撃を放ち、5分も掛からずに巨大熊ジャイアントベアは倒された。

 一人の怪我人も出ていないようだ。しかし……


「おい、たかが巨大熊ジャイアントベア一匹を6名で倒すのに、5分もかかるのか?

 下手したら、迷宮一階を踏破するのも3日くらいかかるんじゃ……」

「だよね……。食べ物も落とす魔物を配置した方が良さそうね……」


 ひょっとすると、迷宮の難易度って、俺達が思ってる以上に高いのかも?

 いや、奴らが低レベルなだけだと思いたい。

 まあ、広大なマップは上層と、最下層付近だけだ。

 罠だ何だと多くなるので、マップの広さは段々狭くなっていく。

 一週間もあれば、10階層をクリア出来るという感じにしたつもりだったけど、適正レベルを思ったよりも高く見積もった方が良さそうであった。


『おっと、ようやく巨大熊ジャイアントベアとの死闘に幕です!

 どうやら、この部屋には宝箱があった模様。

 中には一体何が入っているのか……?』


 ソーカの声で、大スクリーンに視線を向けた。

 箱を無造作に開けるバッソンの仲間の一人。

 おいおい、罠の警戒くらいしようぜ? こうして見ると、エレン達でさえ達人プロに見える。

 あまりにも低レベル過ぎて、見ている方が怖くなるわ。

 ここら辺、ゲームで慣らした俺の目には、素人同然に思えて仕方ない。

 迷宮内に宝箱とか、こっちでは馴染みが無いのかも知れない。だから無謀な事を平気で出来るのか?

 いや、ギドとかなら、もっと警戒してそうだし、こいつ等に盗賊系が居ないのかも知れない。

 護衛の用心棒ならば、こういう事に慣れていなだけなのかも。

 ともかく、


「お、おおお!! バッソンさん、剣ですぜ!」


 良し!

 上手く当たりを引いたみたいだ。


「いや、今日は我の能力にて、中身が全て当たりになるように設定してあるぞ?」


 おおお、ヴェルドラ! 空気を読んだか。


「ナイス判断だ。今日はいい思いをして貰わないと、迷宮に来たがる者が少なくなるしな」


 俺達は頷きあう。

 バッソン達は、交互に剣を眺めて口笛を吹いたりしている。

 どうやらお気に召したらしい。


「よし、お前ら! この調子でガンガン行こうぜ!」


 手斧を仕舞い、剣に持ち換えるバッソン。

 コボルト3体が出現したが、剣の性能に助けられたのか処理が早い。

 クロベエ作、最下級の剣なのだけど、彼らにすれば名剣なのだろう。手当たり次第に出てくる魔物を切り伏せて、調子よく進み始めた。

 そして、魔物のドロップで、結構な量の魔晶石も獲得した様子。


「こいつはいいぜ! ここなら、結構稼げそうだな」


 そんな事を言い合い、ホクホク顔だ。

 そんな調子でどんどん進んで行く。

 そして、その様子を実況するソーカ。

 観客も、バッソン達の活躍に視線が釘付け。というよりも、大スクリーンに大迫力の戦闘シーンが流れていて、自分達が探索している気分に浸っているようだ。

 魔物が出る度に悲鳴が聞こえたりしていて、結構反応も面白いものがある。

 ホラー映画を見ている気分なのかも知れない。

 丁度2時間経過しようとしたその時、


「ギャーーーー!」


 と、バッソンの仲間の一人が倒れる。

 部屋の中に居た魔物にやられたようだ。

 部屋の中に居たのは、一匹のスケルトン。弓を構えて、部屋に入る者を狙い撃ちにしていたのだ。

 矢で眉間を打ち抜かれ、倒れた者が光の粒子になって消えていく。

 丁度良い感じに、死亡を体験出来たようで何より。

 スケルトンは、残りの5名に即倒される。

 そろそろ良いだろう。体験には十分。それなりに緊迫したし、結果的には丁度良い挑戦者だった。


『そろそろ体験時間は終了です! 犠牲者も出ましたし、ここらで帰還する事にしましょう!』


 ソーカが俺の思念による合図に気づき、そう宣言した。

 部屋の中の宝箱を回収し、バッソン達が帰還する。

 "腕輪"の能力を強制発動させているのだ。今回はお試しなので、"腕輪"をお持ち帰りさせる気は無かった。

 宝箱で得た品々は、報酬である。

 闘技場中央の仮設出入口の横に出現し、死に戻りした仲間の無事を確かめ歓喜しあう。


「すげーー!! マジで生き返ったのか!?」

「ああ、俺ももう駄目だと思ったんだが、一瞬で痛みも消えて無事だった!」

「マジでか!? じゃあ、ガンガンいけるな!」


 いやいや、お前ら最初っからガンガン行ってたよ。

 全然罠の警戒もしてないし、罠の設置がある2階層以下では通用しないよ。

 そう突っ込みたいけど、ぐっと我慢だ。


「どうだ? 楽しんで貰えただろうか?

 明日から正式に開放する、地下迷宮ダンジョンだ。

 興味を持たれた方は、ぜひとも挑戦して貰いたい!」


 最後にそう挨拶し、地下迷宮見学会も無事に終了した。

 感触としては上々。

 決勝でも大分興奮していたが、迷宮の内部映像では実体験に近い感想を持って貰えたようだ。

 こうして、魔王である俺と俺達の国である魔物の国テンペストの数日間に及んだお披露目は、無事に終了したのである。

 その日の夜も、もう一度、俺達の主催により盛大な宴を催した。

 良い印象を持って貰う為である。

 こうして、無事に催しも成功した訳で、明日以降の反応が楽しみだ。

 願わくば、計画通りに進んで欲しいものである。

 そして、明日からの事を思い浮かべつつ、その日の夜も更けていくのだった。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。